東京生まれの、東京育ち。
現在も東京に住んでいて、仕事場も東京。
そんな私だが、月に数回、仕事で地方へ出向く。
時に、お土産を持参するのだが、
せっかくならば、東京ならではの気の利いたものをと思う。
その時に、私が真っ先に思い出す店と商品がある。
それは、浅草にある「入山煎餅(いりやませんべい)」だ。
この店は創業が大正3年と、100年近く続く老舗で、
堅焼き醤油味の1種類しか売っていない煎餅屋だ。
よく商売の鉄則として、
「一番商品を決めよう!」と言われるが、
入山煎餅の場合、商品が1種類しかないのでその必要すらない。
このお店は、浅草雷門の近くにある。
店先から奥に細長く炭焼きのいろりがあり、
頑固そうな職人さんと若手の職人さん数名があぐらを組み、
時に汗を拭きながら煎餅をひたすら焼き続けている。
入山煎餅は天日で3日間干し、自然乾燥で甘みを十分に引き出した生地を、
紀州の備長炭で焼く。直径8cm程度の大きさで、
形はきれいとはいえないデコボコの堅焼きだが、
意外に歯ごたえはもっちりとしている。
しっかり醤油がしみこんだ、シンプルな醤油味。
とにかく美味しい。
しつこくない自然な味だからこそ、
一度食べたらやめられないのである。
やはり美味しいものには、それなりの代償が必要。
入山煎餅は1枚120円と決して安くない。
10枚入り、30枚入りなど、
それぞれパッケージが用意されているが、
1枚でも販売する。
店先で、若いカップルが悩んだすえに「2枚ください」と、
1人1枚ずつ購入している姿を見たことがある。
たとえ1枚ずつであってもこのお店では、
イヤな顔をいっさいせず「1枚120円です」と、
1枚ずつ食べやすいように紙袋に入れてくれるのである。
このお店から集客について学べることは、
「職人の煎餅焼き」という五感に訴えるデモンストレーションだ。
そのうえ1枚からでも販売する「お試し販売」。
これを何十年も続けているのだから恐れ入る。