寺院の広報活動

koukoku

3ヶ月前に、ある宗派から次のようなオファーをいただいた。

「寺院の広報について講義をして欲しい!!」

ある宗派といっても、あやしい団体ではなく、
500年以上の歴史を持つ、
誰もが知っている仏教の一宗派である。

この宗派には青年層(20~40代)を中心とした研究会があり、
毎年テーマを決めて、独自に勉強をされている。

なかでも来年のテーマの一つに「広報活動」があり、
6月に集大成的な位置づけで、京都の総本山に
100名程度集まる会合がある。

その会合で3時間程度の講義をして欲しいというのが、
私への依頼である。

弊社は10年以上も前から
寺院関係の広報物をいろいろとお手伝いさせて頂いているが、
今回のテーマはとても難しい。

3ヵ月前に研究会の担当者からオファーがあった時、

私からは、次のように伝えてあった。

「商売やビジネスでの
  広報やコミュニケーション活動についてであればまだしも、
  寺院向けのノウハウとして話しをするのは難しいと思う。」

しかし、担当者からは、

「でも、寺院の広報については他にお願いできる人が
  見当たらない。ぜひお願いしたい。」

という返事が返ってきた。

私は、次のように答えた。

「どうしてもということであれば、
  弊社で実施している広告、販促関係の
  セミナー資料をお渡しします。

  その中から寺院でも使えそうなノウハウや考え方を
  ピックアップして、ご指摘いただいけないでしょうか?」

 

約1ヵ月後、担当者から連絡があった。

いくつか使えそうなノウハウと考え方があるので、
これらを活用した上で、

「どのような講義内容になるのか?」

を2ヵ月後の研究会の中心メンバー10名ほどに
プレゼンテーションして欲しいと言う。

自分のなかでは、しっくりしないまま、
了解してしまったのである。

それからというもの

「どのような内容にすれば役に立つのか?」

「どのような順番で話しをすれば分かりやすいのか?」

を日々考え続けていたのだが、
まったくというほど、いい答えが見つからなかった。

時間だけが過ぎていった。

「高級紙芝居」的な内容ではなく、
具体的な事例と、実践的な内容にしていきたいのだが、
いったいどのような内容にしたら良いのか?

商売、ビジネスであれば、
成功例、失敗例ということを
売上、利益などへの効果、レスポンスなどで
測ることができるが…

寺院の場合は、営利目的ではないので、
成功、失敗の定義が難しく、
広報事例を選ぶのもとても困難を極めていた。

ある時は、1日中、他の仕事を一切止めて、
思考を巡らしていたが、
まったくいい考えが見つからない。

そんな中、最終的にぎりぎりで出てきたのは、
次のテーマであった。

  【あなたにもできる!! 寺院広報】

   『商売 & ビジネスから学ぶ
     寺院のコミュニケーション活動』

 

さて、プレゼンテーション当日。

依頼いただいた担当者、責任者である会長をはじめ、
10人ほどの参加者が集まった。

年齢はやはり30代、40代が中心であろう。

「あくまでも、この内容は
  商売やビジネスの事例、ノウハウを
  寺院に置き換えることを前提に聞いてください。」

ということを強調して、
プレゼンテーションを進めていった。

それほど余裕があったわけではないが、
参加者の方々の反応がとにかく知りたかったので、
全員の顔をみながら話しをしていった。

1人の方だけは、それなりに頷いて聞いてくれていた。

また、会長は途中1回、席を離れながらも、
メモをたくさん取っていたように思う。

その他の方は…

資料を真剣に見る人。

私の顔をじっと睨み続ける人。

それぞれであった。

プレゼンテーションには、
1時間というとてつもなく長い時間を預けられていた。

「できるだけわかりやすく」を心がけて話しを続け、
プレゼンテーションが終わった。

講義ではなく、プレゼンテーションなので、
拍手があるわけでもなく、
シーンと静まり返った沈黙が生まれた。

私は、沈黙に耐えられず一言。

「何か質問はありますか?」

でも、さらに沈黙は続く。

そんな時、一人の方から、

「ビジネスとしてはわかるけど。
  あまりにも寺院との間に溝があるように思うけど…」

私は、このコメントに冷静さを押さえきれず、
言い訳を始めていた。

「この話しを引き受けるにあたって、
  『商売やビジネスのことであれば話せますが、
  寺院では難しいと思います!!』
  と言ったはずです。ですから….。」

この私のコメントが終わっていないのにもかかわらず、
会長から次のコメントが発せられた。

「僕は最高だと思ったよ。

  岩本さんのこのノウハウを寺院に置き換えたら、
  この世界ではかつてない
  『凄いノウハウ』になるのではないかと思う。

  寺院用に置き換える作業については、
  あとは我々の方でじっくりやります。

  ある程度進み、形ができてきたら、
  岩本さんのアドバイスをもらえませんか?

  1ヵ月後にでも、もう一度お会いし、
  打ち合わせをしたいのですが、いかがでしょうか?」

この会長のコメントから、
場の雰囲気が一気に変わっていった。

次に続く方々のコメントの中からは、
具体的な意見、質問が繰り返されていった。

「岩本さんのおっしゃる○○というノウハウは
  寺院では○○に置き換えられると思いますが…」

「○○という言葉は、寺院の人たちに、
  わかりやすく伝えるために、
  ○○という言葉に置き換えましょう。」

「『商売』という言葉は、住職にとって、
   どうしても違和感のある言葉なので
   せめて『ビジネス』にした方が良いと思う。」

というように、
皆さんどんどん応用しながら考え始めていた。

私にとって、この時感じたことは…

もう単なる安堵感ではない。

感動すら覚えていた。

他業界から学ぼうという姿勢。

人に任せきりにせず、
自分達でも必死に考えていこうという姿勢が、
ここにあった。

これこそが、
異種のものがくっついた時にできる
最高の化学変化なのであろう。

そして何よりも、
来年6月の研究会主催の講義を
絶対成功に導きたいという
みなさんの強い想いが伝わってきた。

本番まであと6ヵ月。

長いようだけど短いこの期間で、
会長が言う『凄いノウハウ』に
どれだけ進化させられるか?

とてもプレッシャーがかかることだが、
今回は、自分一人で考えるのではない。

むしろ、皆さんと共に考え、生まれるであろう
『知恵の創発』がとても楽しみである。

関連記事

  1. koukoku

    寺院広報事例 – Part4

  2. koukoku

    クライアントとの約束

  3. koukoku

    ダイヤモンド社主催セミナーにて登壇

  4. koukoku

    オファーの仮説検証

  5. koukoku

    23才の事業家

  6. koukoku

    グループコンサルティング 再開 Part2

アーカイブ