シルバニアファミリーの再ブレイク ~ キャズムとサンクコストマーケティング ~

「シルバニアファミリー」×『るるぶ』の初コラボMOOK『るるぶシルバニアファミリー』2021年1月25日(月)発売


JTBグループで旅行・ライフスタイル情報を提供する株式会社JTBパブリッシング(東京都新宿区、代表取締役社長執行役員:今井敏行)は、『るるぶシルバニアファミリー』を2021年1月25日(月)に発売します。

1985年に株式会社エポック社から登場した、動物のファミリーをモチーフにしたドールハウスシリーズ「シルバニアファミリー」。近年は、子どもたちだけにとどまらず、SNSへの写真投稿や癒しアイテムのひとつとして大人の間でも人気が再燃しています。

誕生から35周年を迎えた2020年3月20日には、関西初となる、シルバニアファミリーの仲間たちが暮らすシルバニア村を再現した屋外型テーマパーク「シルバニアパーク」が、大阪の「堺・緑のミュージアム ハーベストの丘」内にオープン。

本書では、おうち時間を充実させるアイテムとしてだけでなく、おでかけ先としても注目を集めるシルバニアファミリーの世界を徹底ガイド。全国のシルバニアファミリーに会えるスポットや、各種イベントで会える仲間たちの紹介、シルバニアファミリーの誕生秘話、ファンが伝授するシルバニアファミリーの楽しみ方、シルバニアファミリーと一緒に旅をして撮り下ろした写真、オリジナル小物の作り方、おてがるトリップができる背景シートなどを収録しています。大人から子どもまで楽しめる内容が盛りだくさんです。

(PR TIMES ホームページ 2021年1月22日 13時07分配信記事)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000122.000024732.html

シルバニアファミリーは、玩具として発売されてから、2021年時点で約35年を超えるロングセラー商品となっています。
玩具は人気の移り変わりが激しい市場でもありますが、着実に売れ続けるロングセラー商品もいくつか存在しています。

そういったロングセラー商品は、基本的にコンテンツ媒体としてマルチチャネル展開を図っているものと、商品そのもののオリジナリティで勝負しているものに分かれがちです。
前者は、機動戦士ガンダムシリーズや美少女戦士セーラームーンなどのコンテンツ単体で強力なものを多方面の商材に展開させているものが代表的です。
後者は、ルービックキューブや人生ゲームなどが挙げられるでしょう。

シルバニアファミリーは、そのようなロングセラー商品の中では後者に近い存在ではありますが、前者の部分も併せ持つという、やや特殊な商品です。しかも、再ブレイクとなったきっかけが大人・SNSであるという点が、異色の存在であるとも言えるでしょう。
このシルバニアファミリーの再ブレイクについて、今回はイノベーター理論とキャズム理論というマーケティングフレームワークで解説していきたいと思います。

キャズム理論について図で表すと、下記のようなものになります。

イノベーター理論は、1962年にエヴァレット・ロジャース氏により提唱された、マーケティング理論です。

新商品・新サービスが発売された際に、消費者がどのように行動するのかについて、下記の5つに分類しています。

① イノベーター(革新者)
② アーリーアダプター(初期採用層)
③ アーリーマジョリティ(前期追随層)
④ レイトマジョリティ(後期追随層)
⑤ ラガード(遅滞層)

では、この5種類の分類について説明していきます。

① イノベーター(革新者)
この層は、新しいものを積極的に受け入れ、取り入れようとする傾向があります。
何よりも新奇性や革新性を重視しており、他にはないオリジナル性や独特な感性を評価するため、他の層とはだいぶ異なる判断基準で意思決定をします。
市場全体では2.5%程度です。

② アーリーアダプター(初期採用層)
この層は、イノベーターの次に流行に対する興味や関心を持っています。自らの意思で主体的に情報収集をしており、自らが試してみて評価できると判断したものを、自分の周囲の人たちに対して積極的に働きかけをします。オピニオンリーダーや、昨今ではインフルエンサーと呼ばれる人が、この層に該当します。
そのためマーケティング活動においては、まずはこの層からの支持をいかに獲得するかが、成功のカギを握るとも考えられます。
市場全体では13.5%程度です。

③ アーリーマジョリティ(前期追随層)
この層は、流行については敏感ではあるものの、実際に新商品を導入する際には、やや慎重な行動をとる傾向にあります。ただ、それでも一般大衆の人よりは早く新商品を受け入れることができるという特徴があります。
市場全体では、34.0%程度です。

④ レイトマジョリティ(後期追随層)
この層は、新商品の導入に慎重であり、なおかつ新しいものに対して懐疑的な傾向があります。そのため、世間や周囲の状況を確認しながら何度も検討を行い、その後にようやく新商品を導入します。そのため、行動はやや鈍く、流行のピークが過ぎた後にようやく市場に参入するというところがあります。
市場全体では、34.0%程度です。

⑤ ラガード(遅滞層)
この層は、新商品に対して最も保守的です。そもそも新しいものに対して関心を持たず、積極的な行動はとりません。そのため、最後まで新商品を導入しない傾向があります。
市場全体では16.0%程度です。

キャズムは、1991年にジェフリー・ムーア氏により提唱された、マーケティング理論です。
新商品や新サービスなどの普及に対し、その商材が普及していく過程でどのような課題や問題が発生し、普及を妨げるのかを検証した理論です。
特に普及の初期と中期の狭間で「深い裂け目」(chasm:キャズム)があり、多くの商材がこれを越えられずに消えていくと考えられています。

そして、そのキャズムについては前述のイノベーター理論に当てはめると理解しやすくなります。
一般的には、②アーリーアダプターと③アーリーマジョリティの間がキャズムであると考えられています。更に、キャズム程の大きな障害ではないものの、クラックと呼ばれる壁も2か所で存在していると考えられています。

それは、下記の2パターンです。

Aパターン:①イノベーターと②アーリーアダプターの間
Bパターン:③アーリーマジョリティと④レイトマジョリティの間

Aパターンでは、独特のオタク的な感性を持つイノベーターと実用的な革新性を求めるアーリーアダプターの間で価値観がそぐわないというパターンです。この場合、マニアックな仕様を一部大衆的なものに改編するなど、より実用性の高い商品にリニューアルする工程が必要となる場合があります。

Bパターンは、既に大多数の支持を獲得しており、十分に価値がある商品だと認めているものの、その商品の使用方法がわからない、または使いにくいという利便性の問題で、商品の導入を諦めてしまうというパターンです。この場合は、よりわかりやすい商品仕様に改め、サポート機能を充実させるなどの対策が必要となる場合があります。

では、今回のシルバニアファミリーの再ブレイクについて、これらの理論を用いて検証してみましょう。
その結果は、下記の図の通りです。

シルバニアファミリーの再ブレイクを牽引しているのは、今回は主に大人世代だと言われています。そして、この商品自体は既に35年以上続くロングセラー商品です。
つまり、この大人世代には、既にマーケティングが浸透しているため、サンクコストの状態でレイトマジョリティまで商品が普及している可能性が高いということになります。

ここから考えられることとしては、シルバニアファミリーは大人世代では既にキャズムを越えた商品であるということです。

スラックについては一部で残るものの、再ブレイクのきっかけとなったSNSというメディア特性もあり、相互で使用方法や利用方法を教え合うという共有の文化が好作用となるため、間接的に商品の普及を促進する効果を発揮しています。

シルバニアファミリーは、昔から続くロングセラー商品としての付加価値を、新しいメディアであるSNSを用いて再ブレイクさせたという成功事例です。
長く続くロングセラー商品としてブランド価値のある商材をお持ちの企業にとっては、参考となる事例ではないでしょうか。

 

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