クラウドファンディング大手企業のCAMPFIREが、感度の高い小売業として知名度のあるパルコと協業することになりました。
パルコ、CAMPFIRE/クラウドファンディング成立後の販路開拓を支援
パルコとCAMPFIREが共同運営する購入型クラウドファンディングサービス「BOOSTER(ブースター)」は4月15日から、プロジェクト成立後の販路獲得をサポートするサービス「PARCO バイヤーズクラブ」を開始した。
プロジェクトオーナー達にパルコの強みである、これまで培った百貨店・専門店のバイヤー達への独自ネットワークを活用してもらうことで、通常のクラウドファンディングでプロジェクト成立後に大きな課題となる販路獲得部分をサポートする。これにより、プロジェクト成立後の販路獲得率20%到達を目指す。
これまでのクラウドファンディングでは、「販路開拓をしたいが、どうすれば良いのか分からない」「小売店のバイヤーにアプローチしたいが、どこに連絡すれば良いか分からない」など、プロジェクト成立後の販路獲得に悩むプロジェクトオーナーの声が多く聞かれた。
また、オンライン上で完結するクラウドファンディングの特性から、Eコマースと連携したサービスもあるものの、プロジェクトオーナーからはリアル店舗における販売を希望する声が多いことから、商業施設として「PARCO」を展開し、バイヤーとのネットワークも強いパルコが運営するクラウドファンディングのサービスとして、今回、ローンチに至った。
(流通ニュース 2021年4月15日 配信記事)
https://www.ryutsuu.biz/strategy/n041544.html
クラウドファンディングは、通常では資金不足等により実行が困難なプロジェクトや、一般的な流通商品として販売することが難しい商品やサービスを、多数の出資者を募ることでプロジェクトを実現させたり、商品化させたりすることを応援するプロジェクトとして、一気に社会に広がりました。
昨今ではクラウドファンディングの知名度が大きく向上し、上場する企業も出てくるなど、社会的な影響力も増大させてきています。クラウドファンディングでの年間の取り扱い金額も増加し続けており、業界団体である一般社団法人日本クラウドファンディング協会の集計結果では、2019年度比較で、2020年は取り扱い金額が約3倍に成長しています。
出典:一般社団法人日本クラウドファンディング協会 ホームページより
今回の記事で取り上げているCAMPFIRE は、2011年1月に創業した、国内最大のクラウドファンディング運営企業です。
2021年4月時点で、49,000以上のプロジェクトを手掛け、約480万人の会員を擁し、約400億円を超える金額を運用しています。
前述の記事に記載されている通り、クラウドファンディングはバーチャルの世界で企画や開発等が進むため、実際にそのサービスや商品を販売する際に、販路開拓に苦労することが多いようです。特に流通業は競合企業が多くて競争が激しいため、既に販路や棚割りを押さえている企業に対して、知名度が低い商品や、資本力の弱い企業がそこに割って入るのは、困難を極めます。
小売業で商品を扱ってもらう場合には、バイヤーと商談して、合意形成を図った上で棚割りを確保する必要がありますが、そもそもバイヤーとの商談に辿り着くことすらできないことが往々にしてあり得ます。
更に、実際に、商談が実現したとしても合意形成ができるまでにはリベート金額や供給商品数、返品処理方法などの複雑な交渉を全てまとめ上げなくてはなりません。
ただし、小売業のバイヤーとしても、常に店舗を活性化させるために、商品の棚割り鮮度を常に高めておく必要があります。そのために効果的なのは、感度の高いスポット商品です。
スポット商品は、常時棚割りに配置する商品ではなく、期間・数量限定で配置する商品であり、このスポット商品の品揃えによって、顧客の支持・話題・注目を集めて、店舗への集客力を上げていくことが、バイヤーの腕の見せ所でもあります。
クラウドファンディングで取り扱うような商品は、市場での汎用性が高い商品ではなく、尖った感覚の商品が多いため、スポット商品として扱う商材としては実は適した商品でもあるのです。
ただ、クラウドファンディングの商品と小売業の商品では、商流が異なるため、商品調達を行うにあたり、流通経路の確保が難しいという側面がありました。
今回のCAMPFIREとパルコが手を組んだということは、双方の利害が合致したという、補完性がある組み合わせでもある訳です。
今回の記事で取り上げたパルコは、ファッションを中心とした小売業のビルを全国展開する企業です。百貨店を運営するJ.フロント・リテイリングの100%子会社で、かつては一世を風靡したセゾングループの一角を占めていました。現在でも高い知名度と、感度の高い商材を複数取り扱う商業ビルとして、人気と集客力を誇る状態を保っています。
では、今回のパルコとCAMPFIREは協業によって、それぞれどのような相乗効果を生み出せるのか、可視化して確認していきましょう。今回用いるフレームワークは、ピラミッドストラクチャーです。
ピラミッドストラクチャーは、論理構造を整理する枠組みであり、ピラミッドのような構造を用いて、主張と根拠を構造化するロジカルシンキング型のフレームワークです。実際に図に表すと、下記のようなかたちとなります。
この図の上と下の階層は論理的につながっており、主張と根拠を結ぶ関係になります。このようにピラミッドを積み上げたような論理構造をしているため、ピラミッドストラクチャーと呼ばれます。
今回のCAMPFIREとパルコの協業について、このピラミッドストラクチャーを用いて整理してみましょう。
この図から、パルコは顧客との接点を多く確保して、競合企業との差別化を図りつつ、社会環境と上手に折り合いをつけて商売を行っていかなくてはならないことがわかります。また、CAMPFIREは、出資者に出資を受けている以上、一定以上の収益を確保して、その収益を還元しなくてはならず、なおかつその商材の独自性が強く、高単価高粗利商材であるがために、販路の確保が難しいという事情が理解できます。
これらを俯瞰的にみると、パルコは売り場鮮度を保つ、独自性の強い商材を継続的に確保するためのルートを欲しており、CAMPFIREは独自性が強い商材を販売していくための販路を求めていることが確認できました。その結果、パルコとCAMPFIREで両社の利害が合致したため、協業してクラウドファンディング成立後の販路開拓を支援するという、サービスの共同展開を試みることになったという訳です。
今回のパルコとCAMPFIREの協業に関するIRを読んだだけではイマイチ狙いがはっきり伝わらない事象であっても、このように論理的なかたちで整理することで、その意味が理解しやすくなりました。
シンプルな戦略は論理的に理解しやすく、なおかつ論理的に正しいものは成功率の高い戦略であることが多いです。そのため、戦略を策定する際には、このように図式化した上で、主張・根拠・結論の3層構造で矛盾や相違がないかを予め確認しておくことが必要になることを、理解しておいていただければと思います。