自社の成長戦略(未来予想図)キチンと描けますか? ~5つの視点でしっかり自社の事業性を再確認~

日本取引所グループ(東京証券取引所)より、感染症問題の影響で延期されていた市場区分の変更について、2020年12月25日に改めて概要と移行スケジュールが公表されました。この証券市場改革により、自社の事業性が改めて強く問われることになるグロース市場について、深く興味を持つ新興企業も多いのではないでしょうか。

市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について(第二次制度改正事項)
https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/nlsgeu000003pd3t-att/nlsgeu0000057olf.pdf
(日本取引所グループ ホームページ)

今回の市場区分の変更措置により、今まで5つに分かれていた市場を再編成し、2022年4月以降は3つの市場に再区分するという方式が、とられることになりました。
こちらを図に表すと、下記のようになります。


この中で、最も条件が厳しくて最高ランクの市場となるのが、プライム市場です。主に、現在の東証一部上場企業が移行することになると思われる市場です。
2番目に条件が厳しい市場となるのが、スタンダード市場です。主に、現在の東証二部上場企業・ジャスダックスタンダード上場企業が移行することになると思われる市場です。
最後に、最も条件が緩和された市場となるのが、グロース市場です。主に、現在のジャスダックグロース上場企業・マザーズ上場企業が移行することになると思われる市場です。
以上の3つの市場の中では、新興企業が最初に目指すことになるのが、グロース市場になることが多いでしょう。

グロース市場へ上場するにあたり必須となる条件が前述のように複数ありますが、その中でも特に難しいのが、成長可能性に関する資料作成ではないでしょうか。なぜなら、成長可能性に関する資料については、予め定められた定型的なフォーマットなどがある訳ではないため、各社の自由裁量の下に、個性的かつ独自性を感じられ、投資家からの支持を得られる資料を作成しなくてはなりません。企業は自社のビジネスモデルを可視化させ、そのビジネスモデルによってどのように企業が成長していき、継続的に収益を上げていけるかについて、具体的なかたちで社外に示さなければなりません。そのため、この機会を上手く活用することができれば、自社の市場へのアピールに繋がり、株価にも良い影響が期待できます。
その反面、投資家の支持を得ることができなかった場合には、当面の間はその企業に対する期待値が上がらず、株価上昇が期待できないことになりかねません。そのため、この資料は企業の命運を握る重要資料となります。

そこで、どのようにして成長可能性に関する資料を作成すれば良いのか。いきなり作り出すのではなく、まずは基本となる5点の材料を用意することをお勧めします。

①自社のミッション、ビジョン、バリュー
②正しい内部環境(自社経営状況)と外部環境(社外の状況)の把握
③業界特性と競合企業比較での自社優位性の説明
④自社の主要ビジネスにおけるビジネスフロー作成
⑤自社の事業上でのリスク認識

①自社のミッション、ビジョン、バリュー
⇒主に自社の経営理念や経営方針を明確にする。
自社が社会において提供する価値は何か。何のために存在しているのか。自社が存在して成長することによって、どのような付加価値を生み出していくのかなど、具体的に述べていく必要があります。これらは、企業の経営戦略の基礎となるものであり、そもそもの存立理由となるものです。ここで定められているミッション・ビジョン・バリューを基に、矛盾のない経営戦略を策定していくことになります。

②正しい内部環境(自社経営状況)と外部環境(社外の状況)の把握
⇒自社の保有資源(商材、技術、人材等)を認識し、社会におけるポジションを確認する。
現況の社会情勢と求められているニーズ(商品やサービス、技術等)に対して、自社の提供している付加価値が合致していることを適切に説明する必要があります。
ここをきちんと押さえておかないと、今後の自社の成長戦略と矛盾が生じてしまいます。
フレームワークとしては、SWOT分析を用いるのが最も簡便だと思われます。
また、当然のことながら自社の経営状態については、損益計算書や貸借対照表などを用いて、財務的な説明ができるようにしておかなければなりません。
可能であれば、今後の収益進捗状況を確認するための戦略指標(ROE等)を設定しておき、それを対外的に公表できるようにしておけば、更に信用度は上がるでしょう。

③業界特性と競合企業比較での自社優位性の説明
⇒自社が存在している業界内での立ち位置と、競合企業を把握する。
競合企業に対して、自社の強み・弱みを正しく理解し、コア・コンピタンス(競合企業を上回る、優位性の高い独自資源)が何であるのかを提示しなくてはなりません。また、業界特性による諸事情がある場合は、その業界特性が自社のビジネス上で、どのような影響を与える・受けるのかを認識していることも欠かせない視点となります。
フレームワークとしては、ミクロ環境(3C分析)やセミマクロ環境(5FORCE分析)分析を用いるのが最も簡便だと思われます。また、これらをベースに簡易的なクロスSWOTを併せて行うと、更に有効性が増すことになるでしょう。

④自社の主要ビジネスにおけるビジネスフロー作成
⇒自社のビジネスは、どのようなかたちで収益モデルが成り立っているのか可視化する。
どこからビジネスが始まり、複数のフローを経て、収益化まで至っているのか。また、そのビジネスのフローは継続的に行っていくことが可能なものなのか。このような内容について、予め精査されていることが望ましいと言えます。内部統制(J-SOX)を既に実施している企業であれば、そこで用いられている業務フローを応用して収益化モデルを作成することが、比較的容易かと思われます。
フレームワークとしては、バリューチェーンを作成することを意識すると、自社のビジネスモデル(ビジネスフロー)が理解しやすくなります。

⑤自社の事業上でのリスク認識
⇒現況で自社が行っているビジネスが内包しているリスクについて、内部環境・外部環境の両面から検討しておく。
内部環境に関しては内部統制(J-SOX)を既に実施している企業であれば、そこで用いられているRCMチェックリストを応用して、自社のビジネス上で想定されるリスク認識を行うことも可能だと思われます。外部環境に関しては、多面的な視点で捉えてくことが必要になります。
フレームワークとしては、③で作成したセミマクロ(5FORCE分析)、ミクロ(3C分析)分析をベースに、マクロ(PEST分析)を加え改めてクロスSWOTで状況を整理していくと良いかと思われます。

以上の5つの視点で材料を揃えた後は、次の材料を組み立てる作業に入りますが、ここでは全視点が論理的に矛盾なく繋がりをもった資料として可視化されていることが求められます。作業としては結構なボリュームであり、なおかつ実際に行うとなると、作業時間も含めて相当な人的資源の投資が必要になります。上場前の企業は経営資源が限られていることが多いはずなので、社内のエース級の人材数名と外部のリソース(コンサルタント等)で協業して、これらの準備を進めるほうが、比較的円滑に業務として進めていきやすいかと思われます。自社ですべてを抱え込もうとせずに、ぜひとも積極的な外部リソースの活用を検討してみてください。

 

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