NFTとメタバース ~ 次々と立ち上がる新サービスとその展望 ~

メタバースはこの数年で急速に各種立ち上がってきた、新サービスです。

SNSを世界的に展開するFacebook社が社名をMetaに変更し、メタバース事業に本腰を入れることを表明したのも、記憶に新しいところでしょう。

メタバースは関連サービスが複雑に展開されていて、概念としてわかりにくいところがあります。

概念としてはAR、VR、NFTといったあたりが基本になるのですが、この中でも最も内容を掴みづらいのが、おそらくNFTではないでしょうか。

NFTは、Non-Fungible Token(ノン-ファンジブルトークン)の略称であり、日本語では非代替性トークンと呼ばれています。

そして、具体的にはブロックチェーン上で偽造や複製が禁止されており、代替することが不可能、なおかつ鑑定書や所有証明書付きのデジタルデータのことを指しています。

ただ、このように説明しても、やはり伝わりづらいものがあると思います。

そこで、まずはそのNFTに関する事例を取り上げてみたいと思います。

パルコ/ファッションブランド「ANREALAGE」とNFT活用の実証実験

パルコは3月24日~27日、ファッションブランド「ANREALAGE(アンリアレイジ)」とコラボレーションし、渋谷PARCO2階「ANREALAGE DIGITAL SHOP」で限定NFT(Non-FungibleToken)40個を先着で配布する。今回の取り組みにより、NFTを活用した新しいノベルティの形を提案する。

<限定NFTデザイン>

ANREALAGEはBoson Protocol(ボソン プロトコル)と提携し、メタバースプラットフォーム「Decentraland」(ディセントラランド)内にあるBoson Protocolのメタバースマーケットプレイスである「Boson Portal(ボソン ポータル)」上で、3月24日から27日まで開催される世界初のMetaverse Fashion Week(メタバース ファッション ウィーク)に参加する。日本のファッションブランドから「Metaverse Fashion Week」への参加はANREALAGEが唯一となる。今回のノベルティは「Metaverse Fashion Week」への参加を記念して製作された。

パルコは2021年12月に、HARTiと業務提携契約を締結し、NFT技術の活用を検討している。今回、実証実験第一弾として、渋谷PARCOに出店しているANREALAGEとコラボレーションした。

実証実験では、ANREALAGEのロゴデザインのNFTを制作し、渋谷PARCOのショップで先着配布する。この企画は渋谷PARCOで開催する「サステナブル」をテーマにした全館イベント「CYCLE(サイクル)」の企画の1つでもあり、NFTを活用した、モノを作りすぎない循環型のクリエイションという新しい取り組みの実証実験も兼ねている。

(2022年3月23日 流通ニュース 配信記事)
https://www.ryutsuu.biz/it/o032347.html

 

今回のパルコ社の記事では、NFT技術を用いてファッションブランドの販売促進を行うことを目的としています。

従来の小売業における販売促進策は、顧客接点を生み出すためにデジタルサイネージやPOP等を用いて顧客からの視点による興味・関心をひく方法が主体でした。

また、それに伴う試供品やノベルティグッズなども、同時に頒布することで、商品への記憶や印象に残る方法をとることが多くなっていました。

これらの方法は勿論王道のやり方であり、きちんと行うことで確実に成果は出やすくなります。ただし、丁寧に行えば行うほど効率は悪くなり、費用は嵩んでいきます。

また、それらの一般的な販売促進策は、紙やプラスチック等の資源消費も激しくなるため、社会的にもあまり歓迎されない方法になりつつあるのです。

その問題を解決する方法として、今回のパルコ社による限定NFTというやり方が一つの示唆となります。

ブロックチェーンで数量が適切に管理され、なおかつ複製不能なデジタルデータであるため、NFTデータを持つだけで希少価値があり、将来的な価値も上がるかもしれません。なぜなら、単なるデジタル“データ”という捉え方から、現在ではデジタル“アート”として付加価値を高め、参入する企業も増えてきています。

また、デジタルデータであるがゆえに、物品の劣化や過剰生産、それに伴う在庫品の破棄のような問題は発生せず、社会環境に対しての悪影響も及ぼさないという利点があります。

特に昨今ではTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が国家的に率先して取り組む姿勢を見せるなど、企業に対するステークホルダーからの視線への対応が、非常に大切なものとなりつつあります。

そのため、今後も拡大する可能性は高く、市場成長性も高いのではないでしょうか。実際にメタバース関連の市場は現在急速に拡大してきており、M&Aも盛んになってきています。つい先日も、マイクロソフト社による大型買収が話題になりました。

「これは業界を永遠に変える取引だ」MicrosoftのActivision買収に関するアナリストの見解
(2022年1月21日 GamesIndustry.biz 配信記事)
https://jp.gamesindustry.biz/article/2201/22012001/

メタバースは、当初はオンラインゲームを軸にした趣味に纏わるサービスが多かったのですが、現在はビジネスにまでサービス領域が広がってきています。

そのため、サービス内容もデジタルアートやデジタルミュージックなどのコンテンツから、オンライン展示会やバーチャル職業訓練など、実際にリアルなビジネスと絡ませたものまで百花繚乱の状況になっています。

遂には、就職活動にまでメタバースが用いられ始めており、生活の一部にまでサービスが浸透してきています。

メタバース就活がついに本格化!CAREER THEATER 2022が、日本初の「メタバース合説」として開催。
(2022年4月14日 PRTIMES 配信記事)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000085233.html

この就活イベントには、Works Human Intelligence社のようなBtoB向けシステムを開発するベンチャー企業として著名な企業から、パナソニック社やP&G社のような、BtoC向け商材を得意とする大手企業まで、幅広く参加しています。

では、メタバースはこのまま社会浸透が進んでいくのでしょうか?

それは、世代・文化の異なる顧客から、幅広い支持を得られるかがカギになります。一つの指針となるのが、キャズム理論です。

キャズム理論では、流行感度の高い約16%の顧客(イノベーター + アーリーアダプター)より先に到達・浸透できるかが、新サービスや新商品の成功のカギであると言われています。

このキャズム理論を基に、現在のメタバースについて考えてみます。
その結果は、下記の通りです。

まず、メタバースは、イノベーターと呼ばれる流行感度が非常に高い人と、アーリーアダプターと呼ばれる流行感度が高めの人との間においても壁がある状態です。

これは、メタバースを日常的に理解して積極的に利用している人が、現況においてそこまで多くないという現状があり、まだ関連サービスを整備している段階であるためです。

そのため、現況ではキャズムのところにまですら、到達していない状態であると考えられるのではないでしょうか。

それがゆえに、キャズムを越えるものを準備していくと同時に、まずはイノベーターからアーリーアダプターに至るまでのクラックの解消をしなくてはなりません。

その上で、アーリーマジョリティとレイトマジョリティの間にあるクラックを解消することで、安定的な収益化ができるようになるでしょう。

以上の点を踏まえると、現状はまだイノベーター層が主要顧客であり、実際にメタバースを用いて安定的に収益化できるようになるまで、まだまだ時間がかかることが間違いないと言えます。

そのため、現状でできることとして、ある程度の経営資本を確保し、経営体力を削りながらサービスの浸透を図っていくということになります。

そうなると、時間と資本(金・人材)の継続的投入が不可欠となるため、ある程度の経営規模を持つ企業でないと、今後の生き残りは難しいかもしれません。そのことを理解しているからこそ、大手企業はM&Aを盛んに仕掛け、早い段階でメタバース関連事業の規模を拡大させているのだと判断できます。

今回は経営的な視点で解説したためにメタバースの技術詳細については触れませんでしたが、この業界は常に技術革新が行われているため、情報をアップデートし続けなくてはなりません。

現代の経営は、最新技術への関心と、環境への配慮の両面が必要な、高度な能力を求められるものになってきています。外部環境を自分たちのビジネスとは関係がないと判断せず、自分たちのビジネスと今後どのような関連性が出てくるのかを、早い段階で検討しておくことができれば、新たなビジネスの鉱脈が見つかりやすくなることでしょう。

 

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