世界中に蔓延してから、約3年になろうかとしている感染症問題。この約3年間にライフスタイルは大きな変貌を遂げました。
働き方では、先進的な企業ほどテレワークを導入し、場所や時間にとらわれずに有為な人材を獲得し、生産性を高めることで大きな成長を遂げる企業も続出しています。
その影響を受けて飲食店の経営は厳しいものになってしまっていますが、逆に需要が大きく伸びたのが、宅配サービスやテイクアウトサービスです。特に現況では飲酒は条件の制約や時間制限がありますので、在宅で楽しむ機会が増えています。いわゆる「家飲み」と呼ばれるものです。
それに伴い、これまで飲食店向けに注力していた経営資源を、家飲み需要向けに再配分する動きも目立ってきています。特に飲食店向けの主力商品であるビールを取り扱う各社では、様々な動きがみられます。
その中でも、「エビス」ブランドで根強いファンを抱えるサッポロビール社が、新たな取り組みに乗り出しました。
「ヱビス」若年層の購入率UPが顕著に 勢い加速へ熱狂的ファンを生み出す新たな試み始動
昨年から新ブランドコンセプト「Color Your Time!」を掲げるサッポロビール「ヱビス」。21年の出荷実績は前年比102%と狙い通りの成長を実現し、着実な一歩を踏み出した。
目立った伸びをみせるのが若年層の購入率だ。昨年9月までの1年間で、20代では男性が153%、女性も141%と大きく伸長。中期マーケティング戦略の初年度として確かな手応えをつかんだ。
「(コロナ禍を背景に)単にお酒時間を楽しみたいという意識から、質にこだわり、ゆっくり味わう傾向が高まっている。ビールへの関心が高いお客様を中心に、さまざまな興味関心が高まっている」(ビール&RTD事業部・武内亮人部長)とみて、今年は「ヱビス」らしさを際立たせる新コミュニケーションに着手。ビールの魅力をさらに高める。
熱狂的ファンを生み出す新たな試みも始動。
2月25日にプレオープンしたコミュニティサイト「ヱビスビアタウン」では、会員限定コンテンツやキャンペーン応募など多彩な企画を展開する。
10月の本格始動後はコミュニティ機能を実装。会員同士の交流や、会員とブランドとの相互コミュニケーションが図れる場となる。仮想の“ヱビスの街”で生活しているかのように楽しめるオンライン空間とする計画。また月刊誌「Pen」との協業による年2回刊のライススタイル誌も2月創刊。「ヱビス」の歴史や暮らしの中での楽しみ方を訴求する誌面で、書店をブランドとの新たな出会いの場とする狙い。
さらにブランド名が地名の由来ともなった発祥の地・恵比寿でさまざまなイベントを展開するほか、同地に来年開業を目指すブリュワリーも通して街をまるごとブランド体験の場とする構想だ。
「26年にかけて段階的な酒税改定が予定されている。20年の改定で起こった変化からも、23年の改定はさらなるビール活性化のきっかけになると想定。残念ながら総需要は減っていく見通しだが、家庭用の缶は増えるだろう。日本のビール魅力化をけん引したい」(武内氏)として、デジタルとリアルの両面から顧客接点を強化する考えを示した。
(2022年3月7日 Yahoo!ニュース 食品新聞 配信記事)
https://news.yahoo.co.jp/articles/43c00219b74a960a362868000da890112203ff8e
エビスビールは、誕生から130年を超えるロングセラー商品です。
当然のことながら固定客も多く、一種の伝統文化のような商品でもあります。
伝統的な商品であるがゆえに一定の需要は期待できるものの、そのままだと新規需要を生み出すことができなくなってしまうため、常にブランド自体を活性化させ続けなくてはなりません。
そのため、エビスビールは既存顧客を守りながら新規顧客を増やすという、両軸の発想が求められます。
昨今では、競合ビールメーカーでブランドリニューアルや商品改良、それに合わせたアイテム数の増加などの試みが盛んに行われています。
そのような流れを受けて、エビスビールでも近年は様々な動きがありました。
昔と比べても、アイテム数が大きく増えているのです。
以前と比べても、期間限定商品や飲食店限定品などの販売が多くなっており、ブランド活性化のために販促にも注力していることが窺えます。
前述の記事では、若年層向けの新規需要開拓を狙い、コミュニティサイトを立ち上げたということが取り上げられていますが、結果として、これまでエビスビールを積極的に飲まなかった世代に対してのアピールに成功し、購入率が高まったことが紹介されています。
これらの流れについて、フレームワークで整理してみます。用いるフレームワークは、コトラーの4つのブランド戦略です。
整理してみた結果は、下記のようになりました。
このフレームワークから、今回のサッポロビール社の取り組みは、
- 既存ブランドを用いる
- 既存製品カテゴリーを強化する
というマーケティング戦略が選択されていることがわかります。
そのうえで、既存領域で販促活動を強めることで、市場への影響力を高めていきたいことが目的として読み取れます。
その点について、更にフレームワークで整理してみます。こちらについては、市場に対する企業戦略の整理に適したアンゾフのマトリクスを用いてみます。
その結果は、下記の通りです。
既存顧客に対しては、新アイテムを提供することで既存ブランドの活性化ができます。
新規顧客である若年層に対しては、ブランド認知の向上と購入促進を図ります。
そして、それらの一連の流れをまとめ上げるためにも、コミュニティサイトを用いて販促発動に繋げています。
このことによって、既存の固定客と新規の若年層顧客の交流も狙え、継続的に市場浸透戦略を行うことができ、更に成功する可能性が高まっていくことになります。
正直なところ、既存ブランドで現況の強みがあるものについては、画期的なブランド戦略というものは試みにくいものです。
なぜならば、あまりにも既存ブランドとの乖離が激しいブランド戦略を狙ってしまうと、既存ブランドの固定客が離れてしまうことがあるためです。
ただ、そうはいっても過去のブランド力に頼り切ったブランド戦略を行っていると、新規顧客が獲得できなくなり、徐々にブランド力が衰退していってしまうかもしれません。
それらを防ぐためにも、伝統的なブランド力を守りつつ、新しく革新性のある技術や文化を取り入れることで、既存ブランドの活性化を目指したブランド戦略を思考していく必要があります。
今回のエビスビールのブランド戦略は、伝統と革新を上手く融合させた戦略として、参考になるのではないでしょうか。