教育産業“大学”のブランド戦略に迫る ~近大マグロのブランド戦略を考察~

近畿大学(以下近大)のマグロ養殖は有名ですが、遂に大手スーパーマーケットでの取り扱いが始まるようです。

豊田通商と提携し、 「近大生まれマグロ」を販売~町のスーパーマーケット オオゼキの挑戦!美味しい食材の提供と天然資源保全の両立を実現~

2021年8月6日

株式会社オオゼキ(以下、オオゼキ)は、美味しい食材の持続的な提供と天然資源の保全を両立するため、豊田通商株式会社(以下、豊田通商)と提携し、直営鮮魚部で、完全養殖クロマグロ「近大生まれマグロ」を販売しています。

1.背景

日本の食卓を彩るクロマグロは、天然の資源の枯渇が課題となっています。オオゼキは、美味しいクロマグロを将来の子どもたちが今と同じように食べ続けられるようにするために、まず販売者が意識を変えなければこの社会課題解決はできないと考え、完全養殖クロマグロを販売商品に追加しました。

2.「近大生まれマグロ」について

従来の養殖では、天然クロマグロの幼魚を成魚まで養成しますが、完全養殖クロマグロは、養殖されたクロマグロから採卵・ふ化させた稚魚を成魚にする持続可能な方法で養成されたクロマグロです。
その中でも「近大生まれマグロ」は、近畿大学と豊田通商グループによるクロマグロ養殖の長年の知見を生かして選別した品質の高いクロマグロ幼魚を、技術力の高い養殖会社が養成しているため、養殖クロマグロの中でも美味しさに高い評価を得ています。

3.町のスーパーマーケット オオゼキの挑戦

オオゼキは、商品説明の店舗スタッフをより多く配備し、お客様一人一人へ丁寧に商品の魅力を伝えると同時に、ニーズを伺い販売商品に加えることで成長してきました。
「近大生まれマグロ」の販売に際しては、美味しい食材を提供することだけでなく、お客様一人一人に持続的に養成されたクロマグロを消費する重要性を説明することで、お客様と一緒に天然資源の保全に取り組んでいきます。

近大生まれマグロの認証シール

オオゼキは、これからも地域の皆様に喜んでもらい必要とされるスーパーとして、さらなる成長ができるよう挑戦し続けていきます。

近大生まれマグロ

<本資料に関するお問い合わせ先>
株式会社オオゼキ
広報室 内田
03-6407-2411

PR TIMES 8月6日配信記事
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000084551.html

昨今では、企業と大学のコラボレーションは珍しいことではありませんが、近大は産学連携を積極的に進めており、このほかにもエースコック社と近大マグロを使用したラーメンの共同開発を手掛けたり、有名洋菓子店が近大農学部栽培のメロンを使用したケーキを開発したりといった感じで、非常に活発に企業とのコラボレーションを展開しています。

マグロだけじゃない」近大が年間500本のリリースを出してもネタが尽きないワケ

プレジデントウーマン 栗田朋一氏署名記事 2021年6月3日配信
https://president.jp/articles/-/46570

実際に、近大といえばマグロというブランド連想が起きるぐらい、マグロ養殖は近大の知名度やブランド価値に貢献しています。

このマグロによる知名度を活かして、他のカテゴリーでもコラボレーション企画を増やしているのが、上述の記事から伺えるところです。

このマグロ養殖の知名度によって近大ブランドが高まった結果、コラボレーション企画が増大し、結果として近大のブランド拡張が実現しているとも言えるでしょう。

ブランド拡張は、概ね下記のようなもので用いられます。

ブランド拡張の一覧

①製品の異形態修正
②製品の機能性変更(味や成分など)
③製品の使用方法提案(用途や条件など)
④製品カテゴリーの追加
⑤製品技術の転用
⑥製品と価格に関係した仕様の拡大
⑦製品利用者の囲い込み

それぞれについて、事例を挙げてみます。

①は、製品自体は同じものであっても、その製品の形を変えて提供するということです。袋麺タイプのインスタントラーメンを、カップ麺タイプで販売する場合などが最も身近な事例でしょう。

②は、製品の基本機能を維持し、新たに風味などを変更することです。ソフトドリンクの味が追加されたものや、糖質ゼロなどの機能性を追加したものなどが対象となるでしょう。

③は、製品は同じであっても、使用する場面を変えて利用することを提案するものです。作業着として販売していたものを、アウトドア用防寒着として提案するなどです。

④は、製品の知名度を活かして、他のカテゴリーへ新規参入することです。自動車メーカーとしての実績を活かして、他の機械製品を開発して販売することなどが事例になるでしょう。

⑤は、製品を製造する際に用いる技術を使って、新たなサービスや製品を作り出すことです。機械部品用の鋳物メーカーが、その技術を転用して、食器製品を製造することなどです。

⑥は、既存製品の仕様に変更を加えて、価格帯も変更して販売することです。飛行機利用時の、エコノミーやプレミアムなどのサービス価格帯の違いなどが当てはまります。

⑦は、①~⑥を総合して、顧客の導線や人生に影響させる商品を提供することです。幼稚園から大学院までが整備された、エスカレーター式の学校などです。

これを鑑みると、今回のマグロとオオゼキ社の記事については、③が主体となっていると考えられます。

これまで、近大マグロは一部の百貨店での取り扱いはありましたが、一般消費者に販売される機会はあまり多くなく、飲食店向けや輸出になることが多い製品でした。

サントリー社の協力を得て下記のような飲食店も展開しています。

店舗情報|近大卒の魚と紀州の恵み|近畿大学水産研究所
http://kindaifish.com/

それが、今回は一般消費者に最も身近である、スーパーマーケットでの販売ということになります。ここでお客様からの支持を獲得することができれば、販路が本格的に拡大する可能性は十分にあると考えられます。これは、まさにブランド体験が身近に経験できる流通戦略とも言えるでしょう。

この場合、大学発のベンチャー企業という形態をとり、本格的に産学連携の企業を立ち上げることができれば、近大のブランド価値も更に高まることでしょう。

また、他の産業とのコラボレーション企画については、④の製品カテゴリーの追加が関係していることになります。

マグロでの知名度を活かすことで、他の水産物の研究も注目が集まりやすくなりますし、農業においても信用性は高くなります。当然、コラボレーション企画も話が通りやすくなりますし、成功事例が増えれば、近大への持ち込み企画も増えてくることになります。

その結果、ほかの製品も成功することができれば、それに合わせて更にブランドシナジーが効くことになり、近大というブランド価値が上がり、競合となる大学に対して相当に有利になっていくことでしょう。

その証拠として、近大は近年で最も人気を集める大学になりつつあります。

なぜ近畿大学は早慶明を抑えて「8年連続志願者数トップ」になれたのか

NEWS ポストセブン 2021年5月21日配信記事
https://www.news-postseven.com/archives/20210521_1660820.html?DETAIL

ほかの大学などの教育産業においてもブランドが必要であることが浸透しつつありますが、近大の事例はブランドの獲得が教育産業でも成功を収める要因になり得るという、参照事例になるのではないでしょうか。

 

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