ドムドムのリブランディング戦略~ 逆境からの復活と転機 ~

かつて消滅しかかっていたハンバーガーチェーンのドムドムハンバーガー(以下ドムドム)が、矢継ぎ早に新展開を図り、急激な復活を遂げています。

<ドムドムハンバーガー>“絶滅危惧種”が復活の兆し 39歳まで主婦だった社長に「ガイアの夜明け」が密着

テレビ東京で放送されている人気経済番組「ガイアの夜明け」(金曜午後10時)。9月3日の放送では、コロナ禍で明暗を分けている外食業界で、異色の経歴を生かして奮闘する女性リーダー2人に注目する。その1人として、ハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」の藤崎忍社長を取り上げる。

1970年、マクドナルドより早く誕生した日本初のハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」。かつて、スーパー「ダイエー」のフードコートを中心に400店舗以上を出店していたが、ダイエーの衰退と共にドムドムの店舗も激減。20店舗台まで減り、“絶滅危惧種”と言われた。そのドムドムがいま、徐々に店舗を増やし復活を遂げようとしている。立役者は、3年前に就任した藤崎忍社長だ。

藤崎社長は短大を卒業して結婚。一度も勤めに出ることなく、長らく専業主婦をしていたという。39歳の時、夫の病気などがきっかけで、東京・渋谷のファッションビル「109」で初めて働くことになった。アパレルショップの店長を務めた後、新橋で居酒屋を開業して女将になり、ひょんなことがきっかけでドムドムへ入社。トントン拍子で社長にまで上り詰めた。

「ファストフードの固定概念がない。こだわりがないのが“こだわり”」と語り、自ら手がけた「厚焼き玉子バーガー」や、役員が全員商品化に反対する中、ただ1人OKを出した「丸ごとカニバーガー」など、独自メニューを仕掛けて大ヒット。業績は黒字に転換した。このコロナ禍でも、朝・昼・夜でメニューを変える新業態で勝負をしようとしていた。番組では、独自メニュー作りの裏側などを追う。

2021年9月1日yahooニュース MANTANWEB 配信記事
https://news.yahoo.co.jp/articles/70751ecb2f5037a9af2874e3a84c83acf3decd6c

上述の記事のように、ドムドムはメディアに取り上げられる機会も増えてきており、着実に売り上げを伸ばしてきています。実際に、これまで赤字事業だったドムドムは2021年3月期に黒字転換したようです。

異色の経歴の社長が就任した後の、破天荒な商品企画とその成功物語が反響を呼び、昨今では様々なかたちでその成功の道筋が語られ始めていますが、本稿では経営戦略・マーケティング戦略の観点で、ドムドムの概況を俯瞰していきたいと思います。

ドムドムは、元々は大手流通企業であったダイエーが、1970年に立ち上げた企業です。日本マクドナルドの立ち上げが1971年なので、日本で最古のハンバーガーチェーンと言われています。

紆余曲折を辿りながらダイエーの傘下で47年間店舗運営を続けてきたドムドムですが、ダイエーの業績悪化に伴い、店舗も減少して衰退の一途を辿っていました。その結果、2017年に現在の親会社であるレンブラントホールディングスに買収されています。

レンブラントホールディングスは、ホテル・不動産・企業再生事業を手掛けており、ドムドムについては、自社グループ事業とのシナジー効果を期待しての買収だったようです。

ただ、1997年に355店舗あったドムドムの店舗数は、2017年の売却時点で28店舗にまで縮小していました。最盛期の10分の1以下の店舗数です。

一般的に、チェーンストアは店舗オペレーションを効率化させながら次々と店舗網を増やすことで購買・物流コストを下げ、規模の経済を効かせることで事業拡大と成長を目指していくことを狙います。

そのため、何よりも労働生産性を重視し、如何に高スピードで回転率を上げて、低コストで顧客満足度を満たし、高い販売単価を実現するかが勝負です。

しかし、ドムドムの店舗数はチェーンストアとしては中途半端な規模であり、2017年当時は絶滅危惧種扱いされるぐらいに、ブランド・イメージが損耗していました。

このままでは、各店舗が競合企業の資本力に押し切られていくことで徐々に衰退していき、その結果、店舗は閉店に追い込まれ、更に店舗網が弱っていくことは避けられません。これはチェーンストアでよくある負けパターンです。

このような場合、企業の進路としてどの方向に向かうかで、その企業の未来が左右されます。

参考となるのは、コトラー氏の競争地位の4類型です。

図で表すと、下記のようになります。

◎ リーダー

独自性が高く、資源量も多いという、経営資源に恵まれた企業がリーダーです。

経営規模が大きく、差別化された独自資源を保有しているため、競合企業に対して優位な立場を確保していると言えます。

〇 チャレンジャー

独自性は低いものの、資源量は多いという企業がチャレンジャーです。

経営規模が大きいので一定の競争力は持ち合わせているものの、独自資源を持っていないため、リーダー企業の後塵を拝する状態にあります。
そのため、リーダー企業の模倣や改良を重ねることで、リーダーを追い越すことを目指しています。
ただし、リーダー経験の浅い企業がこの立場に立つと、業界を牽引する力量を持ち合わせていない場合、業界全体が衰退することもあります。

△ ニッチャー

経営規模は小さいものの、独自性が高い企業がニッチャーです。

独自性のある商品やサービスを保有しており、コアな顧客がファンとして定着していることがあります。そのため、リーダーやチャレンジャーと比べて経営規模が劣るものの、それらの企業が進出できない領域を開拓し、高収益企業になることがあります。
経営規模が小さい企業が生き残るためには、まずはここを目指すことが定石です。

× フォロワー

経営規模が小さく、独自性も低いのがフォロワーです。

企業としての優位性がないため、最も危険な状態です。現況を打破するための新たな施策を打ち出さない限り、衰退や撤退から免れることができません。

 

これらを基に、ドムドムの戦略を考察してみます。

前述のように、ドムドムの店舗数は30店舗程であるため、経営規模が小さい企業です。それでいて、2017年当時は独自性についても決して高いほうではありませんでした。

そのため、ダイエーから売却された当時はフォロワー企業であったと言えます。このままですと、経営規模が更に縮小していき、衰退していくことは必定です。だからこそ、まずはニッチャー企業になることを目指す必要がありました。

そこで転機となるのが、現在社長を務めている藤崎氏の入社です。藤崎氏が手掛けた、厚焼き玉子をバンズ(ハンバーガー用のパン)に挟んだ新商品は、画期的かつ斬新な商品だと話題を呼び、ヒット商品となりました。この成功が、ドムドムの復活の狼煙となります。

手作り厚焼きたまごバーガー

ドムドム ホームページ
https://domdomhamburger.com/menu/menu_burger/446.html

元々、商品企画担当として入社した藤崎氏は、元アパレルの店長で、その後サラリーマンの街で飲食業の激戦地である東京の新橋で、繫盛店の居酒屋を立ち上げた経営者でした。

居酒屋は、個人店・チェーンストア店という複数の競合店がある中で、継続的に顧客から選択され続けなければ経営が維持できない立場にあります。

だからこそ常識にとらわれることなく、大企業相手でも負けないための仕組み作りや、商品力を高め続けなくてはなりません。

そのように、いい意味でチェーンストアの常識に染まっていなかったことで、独自性のある商品を企画できたのでしょう。

その後も、ソフトシェルクラブというカニをまるごと挟んだバーガーの販売でヒットを飛ばしました。

大大大好評につき再販売決定!9月19日「丸ごと!!カニバーガー」の販売スタート★

ドムドム ホームページ

アパレル企業とコラボレーションドムドムのブランドロゴ(象をモチーフにした、どむぞうくん)を用いたアパレル展開も行い始めました。このあたりは、東京渋谷109という流行発信地でアパレルの店長を務めていた経験も活きたのでしょう。

FRAPBOIS meets DOMDOMハンバーガー コラボレーションアイテム

ドムドム ホームページ

このように、業界の常識とは異なる商品やコラボレーション企画を次々に導入し、いずれも話題となり、ヒット商品となりました。

結果として、ドムドムはフォロワー企業を脱却して、ニッチャー企業に至ったということになります。

ニッチャー企業へ進化したドムドムは、現在は新業態である飲酒が可能なハンバーガー店舗や、東京浅草の花やしきへ出店するなど、再び新規出店が始まっており、再成長の助走に入ってきています。

自身の見地と企業の資源を組み合わせることで会社としてのブランドポジションを転換させて、「絶滅危惧種のハンバーガーチェーン」から、「懐かしくもユニークなハンバーガーチェーン」というアイデンティティを掲げ、リブランディングに成功したドムドムの復活は、参考になる企業も多いのではないでしょうか。

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