ブランド・アイデンティティの「良い」表現とは

ブランド・アイデンティティとは

すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、まずは簡単な前置きから始めます。ブランド・アイデンティティとは、ブランドのコンセプトのことです。「このブランドはこういうものだと思ってもらいたい」という企業側の意思を端的に表現したものです。今回は、ブランド・アイデンティティはどのような表現が適切なのか、平たく言えばどんな表現が「良い」のかを、考えてみたいと思います。

以下にブランド・アイデンティティの例を挙げます。

<例 ある地方のケーキショップのブランド・アイデンティティ>
自然派のおもてなしチーズケーキ専門店

素直でひねったところがなく、覚えやすく、その意味もすぐに分かります。
(若干素直すぎるのでは、と懸念されるかもしれませんが、このお店がある地域では競合他店と差別化ができているので、問題ないということです。)このケーキショップは、顧客からこのように思ってもらいたいと考えており、商品、接客、店舗の内外装など、すべてこの言葉を基準として作られています。

ブランド・アイデンティティの機能

ブランド・アイデンティティ(以下BI)はブランディングの核となるもので、あらゆる活動の是非が、BIに整合しているかどうかで判断されます。言うなればブランドの旗印です。イメージ広告もイベントも広報も、ウェブサイトも動画も、すべてこの旗印に合っているかどうかでその良し悪しを判断します。経営者の個人的な好みで判断するわけではありません。(時折、それでも結果的にうまくブランディングできている場合があります。しかし、これは偶然できているという状態であって、決して安全な状態とは言えません。経営者あるいは、ブランドの性格に絶大な影響を及ぼしているキーマンが変わってしまったら、突然そのブランドの一貫性が崩れる可能性があります。)

ブランド・アイデンティティの条件

それゆえBIは、覚えやすく短い表現で、記憶に残りやすいものが良いと言われていますが、キャッチコピーではないので、インパクトの強さを狙って奇をてらった表現にする必要はありません。むしろ奇をてらった表現にすると、一見してもすぐにはその意味を認識することができなくなってしまいます。こうなると、あらゆる活動を統合する旗印としての機能が果たせません。

「記憶に残りやすい」とはどういうことか

ここで、「記憶に残りやすい」の意味を考えてみたいと思います。これは必ずしも「インパクトが強い」という意味ではありません。説明的な言い方をすれば、BIから豊富なイメージを連想することができ、BIはそのイメージ全体の代表として機能する、ということです。少し具体的に見て行きましょう。以下に、先程例に挙げたケーキショップのBIを中心とした、イメージの全体像を図示を作成しました。

作成:能藤

これは連想マップと呼ばれています。キーワードを中心に連想されるイメージをつなげたものです。このブランド(ケーキショップ)にまつわる好ましいイメージが、BIから容易に連想されることが分かります。
人間の脳は何かを単独で覚えるよりも、それらを取り巻く物事との関係も含めて覚えるほうが、記憶が定着しやすく覚えやすくなるようにできています。学校での試験勉強などで、そのような経験がある方も多いのではないでしょうか。歴史の年表を丸暗記するのはかなり難しく退屈ですが、その背景の出来事の流れも理解していると、とたんに覚えやすくなります。というより、流れを理解する過程で、個々の事実は自然に記憶に定着していきます。覚える情報量は増えたとしても、関係も含めて覚えるほうが実は簡単なのです。

ブランド・アイデンティティの「良い」表現とは

さて話をBIに戻しますが、良いBIの表現とは、そのブランドに関連する好ましいイメージの総体を芋づる式に思い出せるもの、と言うことができるでしょう。「記憶に残りやすい」とはこのような意味だと考えられます。

もしBIに凝った表現をどうしても使いたい場合は、BIとは別にコピーを作成するという方法があります(一般的にキャッチコピー、タグライン、ブランド・スローガンなどと言われています)。BI自体の表現に凝りすぎると、その意味を説明するために結局BIの元になったアイデアを説明しなくてはならなくなります。したがって、BIとコピーは分けて考え、作成した方が良いでしょう。

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