経営理念の大切さ~ブランド構築以前の話~

会社のイメージ

ブランドのコンセプトを当社では「ブランド・アイデンティティ」と呼んでいます(以下、BIと言う)。BIは、自社がブランドに対して、消費者・顧客から持ってもらいたい「イメージ」を短い言葉で表したものです。ブランドはマーケティング活動の核であるとしばしば言われますが、BIはそのブランドの核となる、重要な概念です。

短い言葉だから簡単に作れるかというとそんなことはなく、むしろ大量の情報を整理して一言にまとめるのはなかなかの難事業です。ブランド・マネージャー認定協会ではそのためのメソッドを体系化していますが、簡単に言うと、まず自社が顧客に提供できる独自の価値を探し出し(あるいは新しく作り出し)、その中でも特に重要なものを選んでBIにします。

価値を絞り込むことは難しい

ここで問題になるのは、提供できる価値はたくさんあり、それらをどうやって絞り込むか、ということです。

たとえば商品ブランドの価値は、機能・性能、イメージに関するものまでたくさんあります。

例)某アルコール飲料のブランドの価値
・天然の地下水のみを使用
・原料は厳選した生産者から直接仕入れている
・徹底した品質管理体制
・創業100年の老舗メーカーが作っている
・1ランク上の手が届く高級感
・品評会での受賞
・飲んでいると「違いが分かる人」になったような優越感に浸れる
などなど

それらを全てBIに詰め込むことはできませんので、価値に優先順位を付けることが必要になります。
ブランド構築のステップを一つずつ順番に積み上げて行く過程で、クライアント側でも自社のブランドに対する理解が深まり、自然に共通認識ができてきます。すると、どれが最も大切な価値なのか、複数の担当者間で比較的容易に合意できることもあります。

しかし、往々にしてそうでないこともあります。ある人物が価値Aを強く推しても、別の人物が「いや、うちはBもやってるし、Cもやってる」と言い、さらにまた別の人物が「競合に比べてもDは負けていない」などと言い出します。議論百出して収拾がつかなくなってしまうのです。

打開策の一つは「経営理念に立ち戻る」

このような場合、経営理念に立ち戻ることが有効な打開策になり得ます。なぜなら、経営理念にはその企業が大切にしている価値観が凝縮されているからです。

ここで、この後の話を進めやすくするために、仮に「経営理念群」という言葉を定義し、「経営理念」と区別します。経営理念群は、経営理念だけでなく、企業が大切にしている価値観、行動指針など全般を指すものとします。
通常、経営理念群は、経営理念、ビジョン、ミッションの3点セットで構成されることが多いようです。ビジョンはその企業が目指す将来の姿、ミッションはビジョンを実現するためにやるべきことです。

議論が紛糾する場合、この経営理念群が錯綜している可能性があります。たとえば、経営理念、ビジョン、ミッションの3点セットの他に、XXウェイ、YYコンセプト、ZZイズムなど独自の理念や行動指針があって、吟味してみると実は「XXウェイ」が経営理念よりも上位の概念だったりします。

経営理念群の例

では、これらの経営理念群を整理するには、具体的にどうすれば良いでしょうか。
端的に言うと、抽象度の高さに応じて階層的に並べてみると、俯瞰しやすくなります。図2はその概念図です。

経営理念群の階層関係

最も抽象度が高い理念群は、業界・業態によらない普遍的なもので、図2のグレーの領域です。業界に特化した、具体的な記述を含む理念群は、その下位概念になります。図2の水色の領域です。基本的に下位の概念は、上位の概念から派生したもの、あるいは上位の概念をより具体化したものになっています。
BIを検討する際には、企業ブランドの場合には「業界によらない普遍的な領域」の理念群が元ネタになり得ます。一方、事業ブランドの場合には「業界に特化した具体的な領域」の中で上位に位置付けられる概念が、有力な情報源になります。

このように整理すると、自社が何を大切にしているのか、階層ごとに把握することができ、議論がやりやすくなります。「市場が求めるものは何か」、「競合に勝てるものは何か」を追求することももちろん重要ですが、そもそも「自社は何を大切にしているのか」を見極めることも劣らず重要です。

以上

■コンサルタント

・京都大学理学部卒、同大学院修了【修士(理学)】

・桑沢デザイン研究所 デザイン専攻科ビジュアルデザインコース卒

・一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 ブランド・マネージャー1級

秋田県出身。京都大学では物理学を学び、その後大手メーカーのシステムエンジニアを経てクリエイティブ業界に転身。論理的思考とクリエイティビティの両方を活かしたコンサルティングを得意とする。コンセプト開発、デザインのディレクションも自ら行う。システムエンジニア時代に身に着けたプロジェクト管理のノウハウは、広告業界においてもディレクションに生かされている。ブランドコンサルティングにおいては、どんな分野の情報でも役に立つとの考えから、文学や歴史、文化人類学、社会学、美術やデザインなど、あらゆる知見を取り入れ、左脳と右脳をバランスよく使うことを心がけている。趣味は読書。ライフスタイルに東洋医学や自然療法などを取り入れている。

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