ソニーブランドのチャレンジ

日本を代表する会社の一つにソニーがあります。戦後日本の高度成長と軌を一にするように、トリニトロン方式のテレビ、世界初の家庭用ビデオデッキ「ベータマックス」、ウォークマン、ハンディカムといった革新的な製品を世に送り出し続け、そのブランドを確立しました。1980年代以降は、音楽や映画産業、金融にも大胆とも思える進出を果たし、エレクトロニクス企業からエンタテインメント企業へと変貌を遂げました。日本では生保、損保、銀行の存在感が強いですが、海外ではエンタテインメント企業としてのイメージが日本以上に強くなっています。21世紀に入りしばらくは低迷していたと言えますが、ここに来て業績が好転しています。ただ、家電量販店に行くと判りますが、エレクトロニクス製品におけるプレゼンスは昔と比べると低いと言わざるを得ず(今のソニーの業績を引っ張っているのは、金融、ゲーム、そして半導体)、往年のソニー製品に魅了された身としては多少の寂しさを禁じ得ません。

家電の盛衰

そんな一抹の寂しさを感じる一方で、家電業界を振り返ってみると、世界中を席巻した日本のオーディオ・ビジュアルブランドの多くが既に存在しないか、かなりの苦戦を強いられていることも見てとれます。ケンウッド、パイオニア、サンスイ、アカイ、アイワ、三洋… 市場が縮小していること、デジタル化の中で新興ブランドとの競争に勝てなかったこと、理由は色々とありますが、そのような中、ソニーはエレクトロニクス分野のプレゼンスを下げつつも、業績が好調なのは何故なのでしょうか。

カタカナ社名に込めた志

実は、ソニーは商品だけではなく、新規事業やビジネス形態、あらゆるものに対して革新的、チャレンジを厭わない会社でした。戦後まもなく東京通信工業として設立された会社が、1958年にソニーに社名を変更した際も前例のないカタカナ社名は周囲に反対されましたが、世界を相手にビジネスを行うのであれば、世界で通じる名称であるべきだとこれを一蹴しています。そして、ソニー株式会社という社名にした際も、「何をやる会社だか判らないので、電気とか通信とかといった言葉を入れるべきだ」という声に対し、「ソニーはチャレンジし続ける会社であり、将来に何をやるかはわからない」と、これも一蹴しています。

多角化から国際企業へ

そして、その想いの通り、エレクトロニクスを柱にしつつも多岐に亘る事業を展開し、また、エレクトロニクスについても常に新しい分野にチャレンジする企業となっています。

ソニーがエレクトロニクス以外の事業に進出した事例の中で歴史的に早かったものの代表として挙げられるのはソニー・ミュージックエンタテイメント(当初は米CBSとの合弁のCBS・ソニーでした)とソニープラザです。
これら事業はソニーのブランドイメージを家電メーカーから、より愉しく、そして欧米の香りのする国際企業へと押し上げたとも言えるでしょう。

一方で、1990年代以降の多角化においては、エレクトロニクス、そしてそれ以外のビジネスにおける知名度や、先進的な企業イメージ(合わせてブランドと言っても良いでしょう)が背中を押したと言っても良いでしょう。

金融ビジネスへのブランド拡張

特に日本における金融ビジネスへの展開では、旧来のビジネス手法に風穴を開けるソニーらしいチャレンジがあったと言えるでしょう。
ソニー生命は、それまで我が国で主流であった「保険のおばちゃん」的な手法ではなく、ライフプランナーというプロフェッショナルによるコンサルティングを提案し、損保では、ソニーらしいインターネットで「わかる個人」に訴えかけ、ソニー銀行はインターネットを活用した機動性の高いパーソナルバンキングを提供しました。

「ソニー」というブランドの持つ知名度・信頼感が新規顧客に対するドアオープナーとして機能する一方、既存のやり方を変える(ソニーがやる以上今までより魅力的なものではならない)という姿勢が伝わりやすかったこと、それがビジネスの立ち上げを加速したと言えます。

金融業は、それまでのソニーとはかなりイメージが異なる事業領域でしたが、新しいことにチャレンジする、そして新しい価値観を生み出すという点で「ソニー」というブランドイメージを上手く利用すると同時に、ブランドイメージ自体の拡張に成功したとも言えるでしょう。(一方で、日本以外では、金融等の展開はなく、ソニーはエレキ&エンタのブランドとして認知されており、「ソニーが金融?」という顔をされます)

一方で、金融を事業の柱として確立し、コンスーマーエレクトロニクスの存在感が低下している中で、ソニーのブランドイメージを最大限活用しつつ将来性を感じさせるブランドへと更なる進化を遂げる、そのチャレンジは待った無しでしょう。日本発のグローバルブランドですから、期待しながら見守りたいところです。

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