ブランディングにおけるデザインの経済効果

ブランディングと言うと、かっこいいロゴ等をデザインすること、とお考えの方も多いのではないでしょうか。実際にはそれだけではないのですが、やはり直接目に見えて、形のあるものなので、注意をひきやすいものと言えるでしょう。今回は、この「デザイン」の経済効果について書いてみようと思います。
優れたデザインによって、ブランドが顧客に強く印象付けられ、営業やマーケティングをしなくても顧客のほうから勝手に選んでくれるようになる。このことは比較的知られておりますが(私も賛成ですが)、実は他にも経済的な効用はあり、そちらはあまり言及されることが無いようです。以下、数値データは出て来ませんが、何らかのコスト削減が見込めることは、納得していただけると思います。

もしもブランドの「世界観」が無かったら?(極端な例)

一貫したブランド・イメージを形成するためには、HP、会社案内、名刺、封筒、店舗、看板等々、各種の制作物の外観を統一することが効果的です。この「統一された感じ」のことは「世界観」とも呼ばれています。ブランドのあらゆるものが1つの世界観のもとで作成されていれば、消費者・顧客により強く、ブランドを印象付けることができます。

ではこの世界観が確立していない場合、どのようなことが起こるでしょうか。
ためしに、パンフレット制作の現場を例に取ってみましょう。

あるブランドをもつ企業の担当者(以下、クライアント)がパンフレットに盛り込みたい内容をまとめ、デザイナーにデザインを依頼したとします(話を単純化するため、話題を配色に絞っています)。

デザイナー 「どんなイメージにしますか?」
クライアント「そうですねえ、親しみやすい感じで、でもチープにはならず、情熱もあって、それでいて知性を感じるような…。」
デザイナー 「そ、そうですか…。たとえば、明るめのブルーと黄色の組み合わせで、差し色にオレンジを使うとかはどうでしょう。ブルーは知性、黄色は快活さ、親しみやすさを感じさせますし、オレンジは冷静さの中に潜む情熱を表現できると思います」
クライアント「良いかもしれないですね。でも私はオレンジより赤のほうが好きなんですが。ブルーと黄色は好きな色ですね」
デザイナー 「なるほど。全ページ制作する前に、サンプルを3つくらい持ってきますので、それでご判断いただけますか?」

というわけでデザイナーがクライアントの好みに合うようデザインし、いくつかサンプルを持ってきました。

クライアント「A案は私の好みの色を使ってくれたんですね。でもちょっと、なんというかイメージが違うような…。うまく説明できないんですが…。B案のほうが良いような気がしますね」
デザイナー 「A案の配色だと、色のコントラストが強くて、ポップな感じになってしまうんですよね。かといって色味を薄くすると、なんだかはかない感じになってしまうので…。B案はご希望のイメージに近いと思いますよ。C案はパンフレット単独で見たら悪くは無いのですが、御社のホームページと雰囲気がより近く、統一感を感じるのはやはりB案です」
クライアント「じゃあB案で!」
デザイン― 「わかりました。サンプルで作ったところ以外も、このイメージでデザインしますね」

勘の良い方ならもうお気づきだと思いますが、このデザイナーは初めからB案を通すつもりで他の案も作ったのです。クライアントの言う通りに作ったA案、意図的に少し「外した」C案を用意して、比較させることで自分の提案を通りやすくしたのでした。しかし、言葉で言ってもなかなか通じませんので、実物のサンプルを見せて説得した、というわけです。

実際にデザイナーにデザインを依頼する際は、もっといろいろな情報をやり取りしますが、配色だけに着目してもこのようなやり取りが発生します。
パンフレットのイメージを決める要素は他にもあります。文章そのもの以外にも、写真やイラスト、文字の書体も重要な構成要素です。日本語の書体は大別してゴシック体と明朝体の2つがあり、一般的にゴシック体はポップな印象で、明朝体は大人びた印象があると言われます。また、同じ書体でも太いか細いかで印象は変わります。
デザイナーはこれらを総合的に考慮して、クライアントの要望に沿うデザインをしています。

では、同じブランドで今度はホームページをリニューアルすることになったとします。しかも担当者が変わりました。今度の担当者の色の好みは前任者とはかなり違っていました。かつ、パンフレットを作ったデザイナーとは別の、WEB専門のデザイナーに仕事を依頼しました。その結果出来上がったホームページは、パンフレットとは相当異なる雰囲気のものになっていました…。

「雰囲気の基準」=「世界観」

これは少し極端な例ですが、実際に起こり得るものです。
ここまで極端でなくても、1つのブランドの中で使われる制作物はたくさんあります。ショッパー(紙袋)、包装紙、リボン、ポイントカード、社章、看板、また、業種業態によっては請求書や企画書、ポップ、社用車など、実に様々なものがデザインされています。それらの「雰囲気」がばらばらだったら、消費者・顧客はどう思うでしょうか。ブランド・イメージを形成するうえで、大きな障害になるのは間違いありません。

さらにこれらの制作において、前述のようなやり取りが毎回繰り返されているとしたらどうでしょう?初めから、「雰囲気の基準」をしっかり固めておけば良い、と誰しも思うのではないでしょうか。相当の労力と時間が節約できるはずです。

この「雰囲気の基準」が「世界観」であり、この世界観を維持し、デザインの水準を一定以上に保つために様々なルールが作られる、というわけです。

世界観のデザインとは

そのため、ブランドを構築する際、個別の制作物(パンフレットやホームページ)のデザインの前に、通常は次のようなものを作ります。これらをパンフレットやホームページを作るデザイナーに渡しておけば、言葉で説明しなくてもブランドの世界観を理解させることができ、クライアント側の担当者はかなり楽になると同時に、デザインの水準も保つことができます。

  • 世界観マップ
  • 配色(メインカラー、サブカラー)
  • ロゴ及びその使用規定
  • 推奨書体(既存の書体から選ぶ場合が多い)

世界観マップとは、たとえば上図のようなもので、ブランドの世界観を表わす複数の画像をまとめ、一目で世界観が確認できるようにするものです(ちなみに例は、神秘的、癒しがコンセプトの旅館を想定した世界観マップです)。

ロゴも、ただ作っただけではその価値を最大限発揮することはできません。その使い方についてルールを決めておく必要があります。下図は、イズアソシエイツのロゴ規定の一部です。それぞれ、ロゴの周りの余白(アイソレーション)の大きさ、ロゴの背景に関する禁止事項を規定しています。

 

ロゴの周りに余白を十分に取らないと、窮屈な印象を与えてしまいます。また、写真など複雑な背景に直接ロゴを配置すると、ロゴと背景が混じり合い、見栄えが悪くなります。

このようなルールが無いと、担当者やデザイナーそれぞれが自由にやりすぎてしまい、統一感の無いデザインが行われ、結果的にブランド・イメージを損なうことにつながりかねません。

まとめ~デザインの経済効果

世界観をデザインすることの効果は第一に、「統一的なブランド・イメージを保つ」ことにありますが、その経済効果の1つとして、次のようなものがあることは否定できません。

個別のデザイン制作における、仕様調整の労力と時間を節約すること

デザインへの支出は、長期的に見れば投資であり、その価値は高いのです。

能藤 久幸

■ブランドコンサルタント/ブランディング・ディレクター

・京都大学理学部卒、同大学院修了【修士(理学)】

・桑沢デザイン研究所 デザイン専攻科ビジュアルデザインコース卒

・一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 ブランド・マネージャー1級

・一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 認定トレーナー

秋田県出身。京都大学では物理学を学び、その後大手メーカーのシステムエンジニアを経てクリエイティブ業界に転身。論理的思考とクリエイティビティの両方を活かしたコンサルティングを得意とする。コンセプト開発、デザインのディレクションも行う。システムエンジニア時代に身に着けたプロジェクト管理のノウハウは、広告業界においてもディレクションに生かされている。ブランドコンサルティングにおいては、どんな分野の情報でも役に立つとの考えから、文学や歴史、文化人類学、社会学、美術やデザインなど、あらゆる知見を取り入れ、左脳と右脳をバランスよく使うことを心がけている。ライフスタイルに東洋医学や自然療法などを取り入れている。

最近の活動:特許庁のイベント「巡回特許庁 in 山口」にてブランディングと商標について講演(2018.09.27)https://www.jpo.go.jp/shoukai/soshiki/photo_gallery2018100501.html

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