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コロナに勝つための短期勝ち残り戦略フレーム「SCAMPER」 「選択と集中」ではなく「選択を増やすことに集中する」発想の転換     ~ 帝国航空でなくANAホールディングスを事例として ~

投稿日:2020年10月9日 更新日:

COVID‐19ウイルス(通称:新型コロナウイルス)の世界的蔓延から、半年以上が経過しました。収束の気配はまだ見えず、経済活動にも様々な制約と影響が出ていります。

各企業での業績も厳しい結果となり、緊急事態宣言が発令された4-6月期近辺の決算発表数値は、大幅な赤字に陥る企業が続出しています。中には、決算処理を行うことができず、発表を延期している企業すらある状態です。そのような厳しさを増す経済活動において、特にダメージが大きいのが観光や宿泊など「人」が動くことで成り立つ業界。そのなかでも、航空業界は企業存続自体が懸念される状況下にあります。

そこで今回の事例選びですが、テレビでも大変反響のあったドラマ「半沢直樹」で題材になっていた帝国航空のシナリオに感化されたわけでは無いですが、最近コロナで出張に行けなくなりこの数か月は全く飛行機に乗っておりません。なので、ぜひ自分が頻繁に使っていたANAについて取り上げたいと思います。

ANAホールディングス(以下ANAHD)も、4-6月の第1四半期決算数値で、売上高は前年の5,005億円から今年度1,216億円と前年比で76%のマイナスという結果になりました。また、営業利益に至っては、前年度の161億円に対して今年度は1,590億円の赤字となり、売上高を超える赤字を計上しています。

ANAHDの競合企業としては皆様がよくご存知の日本航空(以下JAL)がありますが、JALは国内線に強く、ANAHDは国際線に強みがあるという違いがあります。今回の感染症の影響は海外でより拡大していますので、国際線に強みを持つANAHDとしては、今後はJALよりも更に苦しい状況になることが予想されます。
また、JALは以前に法的整理をした経緯があるために固定費が低めですが、ANAHDは法的整理なども行われずに積極的な成長投資を続けてきたため、固定費がJALよりも高めにあるという弱点もあります。
そういった点で、JAL以上にANAHDはより苦境に立たされる状況となっています。

企業の成長のためには、通常、長期的視点に基づく経営戦略が重要です。実際にANAHDも拡大するインバウンド需要に戦略的な焦点を向けて、新機体の導入などの投資を行ってきました。しかし、このような社会情勢においては、ひとまず企業存続のために短期的な戦略立案も早急に行う必要性が高くなります。このような時に用いると便利なフレームワークが、今回ご紹介するSCAMPERです。

SCAMPERは7つの問いかけについて分析する際の、各項目の略称です。

元々、A.Fオズボーン氏が提唱したアイデア創出の技法で、下記に掲載している「オズボーンのチェックリスト」というフレームワークがありました。

【オズボーンのチェックリスト】

①Put to other users:転用できないか?

②Adapt:応用できないか?

③Modify:変えてみたらどうか?

④Magnify:拡大するとしたら?

⑤Minify:縮小するとしたら?

⑥Substitute:代用するとしたら?

⑦Rearrange:入れ替えてみたら?

⑧Reverse:逆転させてみたらどうか?

⑨Combine:組み合わせてみると?

このオズボーンのチェックリストを、創造性について開発・研究を行っているボブ・エバール氏により、フレームワークとして更に使いやすく改良したものが、SCAMPERのフレームワークです。

SCAMPERでの分析は、下記項目について該当する内容を検討していきます。

【SCAMPERのフレームワーク】

①Substitute:代用できないか?

②Combine:他のものと組み合わせられないか?

③Adapt:応用できないか?

④Modify / Magnify:修正 / 拡大できないか?

⑤Put other uses:転用できないか?

⑥Eliminate / minify:削除 / 削減できないか?

⑦Reverse / Rearrange:逆転 / 再編集できないか?

上記各項目の内容については質よりも量を重視しており、ブレインストーミングのフレームワーク版のようなものだと考えていただければ理解がしやすいかもしれません。

その際に、下記のようなかたちで図にまとめていくと、内容が把握しやすくなります。

さて、改めて今回のSCAMPERで検討してみる企業のANAHDについて、企業の概要を確認していきます。

ANAホールディングス株式会社
https://www.ana.co.jp/group/

創業初期は「日本ヘリコプター輸送株式会社」という、第二次世界大戦の終戦後にヘリコプターによる航空輸送を目的として設立された会社でした。会社設立後は順調に業績を伸ばして飛行機を導入し、社名も「全日本空輸株式会社」に改名しています。
その後、極東航空株式会社などの航空会社との合併を経て、現在はANAホールディングス株式会社として事業を行っています。

ANAHD 沿革
https://www.ana.co.jp/group/company/ana/history/past.html

航空業界では、売上高2位の企業でしたが、競合企業であるJALの法的整理により、現在は業界1位の売上高企業となっています。
連結売上高20,583億円、連結従業員は約43,500人という、超大手企業です。
グループ内には商社・旅行事業を行う会社もありますが、主な事業は航空関連であり、売上高で約97%の構成比となっています。

ANAグループの事業
https://www.ana.co.jp/group/about-us/by-the-numbers/

また、ANAグループは2018年から2022年度までの中期経営戦略を立てており、それは外部にも公表しています。戦略概要としては、「エアライン収益基盤の拡充と最適ポートフォリオの追求」ということを目標としており、コアビジネスである航空関連事業での成長投資を強化していくことで、持続的利益の確保を目指しています。

2018年から2022年度ANAグループ中期経営戦略
https://www.ana.co.jp/group/about-us/strategy/

出典:ANAホームページ

では、これらの内容を基に、SCAMPERの各項目を検討していきます。

①Substitute:代用できないか?

⇒主要事業として行っていることは、人とモノを目的地まで送り届けることです。
人の移動が難しい現況においては、モノの移動に注力をせざるを得ないでしょう。
航空貨物輸送業務に注力することで、少しでも資産の有効活用を図りたいところです。
自社利用商材の輸送に用いる等で、可能な限りの輸送用資産の活用を目指すことになります。

②Combine:他のものと組み合わせられないか?
⇒移動手段を他のものと組み合わせてサービスを拡大させるのは、
現況の社会情勢では難しいところです。
そのため、「ANA」というブランドを活用して、何かの他業態とコラボレーションを
図ることができないか、何らかの方向性を検討することが最良でしょう。
ANAHDが通常で仕入れを行っている食材等を「ANA厳選商品」として販売する方法も有効かと思われます。それが酒類であれば、基本的に高単価で粗利も大きいので、販売単価向上も期待ができることになるでしょう。
また、これは商材仕入先との共存関係を保つことにも繋がります。

③Adapt:応用できないか?
⇒通常業務として行われているもので、他の用途に応用できるものがないかを検討します。
現状のサービス提供商品である、機内食のテイクアウト販売や通販といったものが、一例になるかと思います。
また、自社教育用の接客のマナースキルなどについて、オンラインでの研修商材を作成し、自社の知的資産を販売するという方法も考えられます。
実際、航空会社のマナースキル研修というのは企業から独立して行うコンサルタントもいるぐらい社会的に評価され、需要のある商材でもあります。

④Modify / Magnify:修正 / 拡大できないか?
⇒グループ内にある商社機能を強化して、物販の仕入れ・調達ならびに販売機能を拡大できないか、検討してみてもいいでしょう。
同時に、今後に備えて商品開発機能も拡充しておいてもいいかもしれません。
それに伴い、他業態で売上高を押し上げる要因となっている、PB(プライベートブランド)に、本格的に進出してみることも検討の価値があります。これらを施策として実行して売上高が上がるようであれば、開発・仕入れ・調達から、輸送・販売までの一連のルートを自社で保有することが可能になります。

⑤Put other uses:転用できないか?
⇒②③とも関連してきますが、訓練用の航空シミュレーターをVRソフトで再現して、販売するという方法もありえます。
現状の機体だと差し障りがあると思われますので、過去に廃番となった機体を使用したフライトシミュレーターなどは、検討の余地があるでしょう。
これは以前に大ヒットとなった電車シミュレーターである「電車でGo」のANA公式版のようなものを想定しています。

⑥Eliminate / minify:削除 / 削減できないか?
⇒これまで成長拡大路線を続けてきたので、これを機会にこれまでの総括を一旦行い、個々の自社提供サービスが、それぞれ自社の利益にどの程度貢献できているか、また、今後の投資価値はあるのかを、改めて再考する必要があるかと思います。
その検証結果で、今後のアフターコロナと呼ばれる世界において、不要となりそうなものがあるのであれば、今回をその機会として撤退や清算をしてしまうというのも、現況では逆にやりやすいのかもしれません。

⑦Reverse / Rearrange:逆転 / 再編集できないか?
⇒航空関連に売上高が集中し過ぎていたので、今後は第2の柱となる事業の育成や、成長余地のある異業態のM&Aなどに関して、模索してみるのも方法の一つです。
事業撤退や株価低迷が相次いでいますが、それは逆に優良企業への投資が比較的行いやすい環境でもあります。

以上の内容を基に、先程のフレームワークの図に当てはめて可視化すると、下記のようになります。

前述の各項目については荒唐無稽な内容もあるかと思いますが、SCAMPERは自社の可能性と方向性を広げ、選択肢を増やしてみるためのフレームワークなので、とにかく思いつくものを複数出してみて、それから検討することが大切です。

航空関連が本業の97%を占めるANAHDであっても、SCAMPERを用いることで、意外と航空関連以外にも社内の保有資産が沢山あり、事業として対応できる可能性がまだまだあることに気づける機会になると思います。

これまでの拡大する世界経済においては、「選択と集中」が推奨され、とにかく競合に負けない方法を検討し、勝てる見込みがあるものにだけ集中投資して、できる限り迅速に進めていくという戦略手法が有効でした。

ANAの中期経営戦略でも「既存事業の選択・集中と新たな事業ドメインの創造」を戦略として掲げており、不採算・低収益事業からの撤退や再編を予定しています。

しかし、今回の世界的影響が出ている感染症問題を受けて、選択して集中したものが本業として活用できなくなった場合には、一気に事業継続そのものが難しくなるという、経営の危うさをも提示する機会となりました。

アフターコロナと呼ばれる、不透明感が増すこれからの時代には、これまでの戦略の定石が通用しなくなる恐れがあります。今回の事態を受けて、今後の企業経営では「選択と集中」ではなく、「選択を増やすことに集中する」という、経営の視点を別の角度からも検討する転換点になるのかもしれません。


武川 憲(たけかわ けん)執筆

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

 

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