ストック型ビジネスは、自社または他社の経営資源を用いて、継続的に収益をあげるマーケティング戦略です。最近では、複数の各媒体で取り上げられる機会が増えている、戦略手法でもあります。
最近ではサブスクリプションというサービスも出てきておりますが、サブスクリプションとストック型ビジネスは、どちらも似たような形態であり明確な差異はありません。
あえて違いを述べるとすると、サブスクリプションは、基本的に機能を具体的に定義した、定期課金型のビジネスモデルです。マイクロソフトオフィス365などが事例として挙げられますが、サービスや商品の機能について、必要なものに限定して使用し、その対価として支払いをするのがサブスクリプションです。この事例の場合、オフィス全体はいらないけど、ワードだけを使いたいから、その商品(ワード)だけ、一定期間に定期課金で利用するといったものになります。
それに対し、ストック型ビジネスは積み上げを前提とした、収益継続型のビジネスモデルです。商品やサービス全体を利用してもらった上で、契約を継続させて件数を増やすことに意味があり、部分的な機能の提供を目的とした、定期課金が目的ではありません。昔のマイクロソフトオフィスは、オフィス全体を利用してもらい、バージョンの更新に合わせて追加でライセンス料を請求し、更に収益を積み上げていくという、商品全体の概念性を基にしたストック型のビジネス形態でした。
こういった点でまとめますと、
- サブスクリプション = 機能の限定的・具体的なものに対する、定期課金型ビジネス
- ストック型ビジネス = 機能全体の概念的なものに対する、収益継続型ビジネス
といった違いになります。
このように、ストック型ビジネスは、実際のところ慣れないと非常に理解しにくい概念でもあります。そのため、今回は入門編として概略を簡単に説明するかたちをとっていきます。
ストック型ビジネスは、個々の企業で行っているビジネスの特質によって導入できるかどうかが異なります。そこを判断するためには、自社のビジネスが、
- フロー型
- ストック型
のどちらであるかを、まずは確認しておかなくてはなりません。それでは、これらについて先に説明していきます。
フロー型ビジネス
商品・サービスは基本的に売り切り式。1回の販売・サービスの提供で顧客との関係性は終わり、継続的なビジネスをすることは想定していない。何よりも、短期的な収益を最大化するビジネスモデルを志向する傾向がある。そのため、一時的な大ヒットも狙えるが、その反面、安定的な収益は確保しにくいというところがある。
事例:吉野家の牛丼、単行本、コンビニエンスストアなど
ストック型ビジネス
自社の取り扱う商品やサービスについて、顧客と中長期的な契約を結んで提供することで、継続的なビジネスを行うことを目的として、ビジネスモデルの設計を行う。安定的な収益を確保できるが、その反面、徐々に拡大していくビジネスであるため、大ヒットを目指すことは難しく、収益化に時間がかかる。
事例:ヤクルトの宅配サービス、新聞、RIZAPなどのトレーニングジムなど
フロー型ビジネスは、一般的なマーケティング手法を用いて展開していきますが、ストック型ビジネスは、やや方向性が異なります。顧客と長期的な関係を築かなくてはいけないため、価格(コスト)だけではなく、何よりも信用や信頼が大切になるためです。そのため、事前にビジネスモデルを十分に検討し、実行に移す前に収益モデル設計を厳密に定めておく必要があります。
次にビジネスモデルを設計していきましょう。
順番としては下記の通りとなります。
- ①取り扱い商品・サービス内容
- ②収益の計算
- ③必要な顧客数
では、段階を追って確認していきましょう。
①取り扱い商品・サービス内容
ここで取り扱う商品としては、下記の4点に分かれると思います。
- A.自社ブランド商品で、ブランドとして扱う商品
- B.自社ブランド商品で、ブランドとして扱わない商品
- C.他社ブランド商品で、ブランドとして扱う商品
- D.他社ブランド商品で、ブランドとして扱わない商品
A.自社ブランド商品で、ブランドとして扱う商品
A.の場合については、事例としてヤクルトの宅配サービスが挙げられます。ヤクルトは乳酸菌飲料の会社として高名な企業ですが、自社ブランド商品であるヤクルトを全面的にアピールするかたちでマーケティング活動を行い、顧客を獲得しています。そういった点で、フロー型ビジネスに近いかたちで販促活動を行うことになります。ビジネスモデルとしてもフロー型に近く、できる限り商品力をアピールすることで、顧客に契約継続を促し、結果として最大限の売上を達成するためのモデルを設計することが目標となります。ただし、その分スイッチングコストが低いため、顧客への啓発業務やアピールは定期的に実施する必要があります。
B.自社ブランド商品で、ブランドとして扱わない商品
B.の場合については、事例としてコピー機のメンテナンスが挙げられます。コピー機自体はブランド価値がありますが、その後のメンテナンス作業については、特にブランドとして扱われないことが多いと思われます。なぜならば、メンテナンス作業はブランド力よりも、修理や点検を確実に行っていただくことが何よりも大切であるためです。そのため、ビジネスモデルとしては、年間契約などの長期保障型の契約を結んで、メンテナンスサービスを継続的に確実に実施し、長期的に信頼を獲得していくことが大切になります。コピー機の買い替えはスイッチングコストが高いため、一度契約することができると、メンテナンスサービスは安定的な収益が確保できることになります。
C.他社ブランド商品で、ブランドとして扱う商品
C.の場合については、代理店販売や卸売りにて商品を取り扱う場合が多くなります。事例としては、光通信が挙げられます。光通信自体にブランド価値は全くなく、またそれを企業として求めてもおりません。しかし、取り扱っている商品はブランド価値があります。そのため、自社をアピールするというよりも、他社ブランドを全面的に押し出したマーケティング活動を行うことになります。具体的には、ローラー作戦型の営業や、飛び込み営業などで販売契約を獲得することになります。そのため、ビジネスモデルとしては、できる限り契約期間を長く、なおかつ継続させることを目的とし、価格もスイッチングコストを考慮すると、他社への変更が割に合わない程度のギリギリまで絞り込むことになります。薄利多売の件数勝負であり、このビジネスモデルを選択するには、企業体力のある会社でなければ、持続的に展開することが厳しいかもしれません。
D.他社ブランド商品で、ブランドとして扱わない商品
D.の場合については、置き薬販売が挙げられます。初回の契約までが勝負であり、その後は緩やかに契約が継続していくかたちとなります。契約が成立したあとは、定期的に顧客を訪問して、不足した商品の補充を行ったり、商品を入れ替えたりといったことがメイン業務となり、ブランドを前面に押し出したマーケティング活動を行うわけでもありません。そのため、ビジネスモデルとしては、定額型の契約にプラスして、補充商品の実費分を請求するようなかたちとなります。スイッチングコストが低いため、定期的に顧客に接し、契約を維持してもらうことが必要となります。近年では、オフィスグリコやネスカフェアンバサダーのようにコーポレートブランドは押し出すものの、商品ブランドのアピールは強くないという、折衷型も増えてきています。
②収益の計算
ストックは、下記にて計算を行います。
- A.獲得ストック = 契約ストック - 解約ストック
- B.将来概算利益 = 契約コスト + 未来粗利
- C.利率 = 未来粗利 ÷ 契約コスト(x-1)
計算例:
- A.100,000円 = 200,000円 - 100,000円
- B.300,000円 = -500,000円 + (10,000円×80件)
- C.160% = 10,000円×80件 ÷ -500,000円×1
③必要な顧客数
前述の収益計算式をもとに、ビジネスモデルと比較して、必要顧客数を算定します。その必要顧客数に合わせて、最適なマーケティング戦略を立案しなくてはなりません。当然、マーケティング戦略のやり方によっては、前述の計算式に戻って再計算を行う必要も出てきます。
以上が、ストック型ビジネスの概要となります。
最近の流行である、ストック型ビジネスの戦略ですが、自社のビジネスモデルやブランドを鑑み、ストック型ビジネスを深耕させていくのか、そして、それが本当に効果的なのか、更には効果的なマーケティング手法は何かについて、ご検討いただければと思います。
武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 シニアコンサルタント・認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師
経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/