競合他社の入っている代理店に秘密は明かせない

スペシャルインタビューの第4弾は、「ある女性広告人の告白」の著書で、外資系広告代理店の副社長をご経験され、カンヌCMフェスティバルを初数々広告賞を受賞されたクリエイティブディレクター小池玲子氏のインタビューを3ヶ月にわたり掲載します。

第2話

競合他社の入っている代理店に秘密は明かせない

岩本

わが社も広告会社ですが、日本の広告会社にはクリエイティブブリーフのようなものはどの程度浸透しているのでしょうか?

小池

全くないところもあります。

岩本

大手で?

小池

大手でも全くないですね。

岩本

えっ、そうですか。

小池

私の知人が大手自動車メーカーに勤めています。ある広告代理店に依頼しているのですが……。どうしようもないから、見てくれって、私のところに何度も相談に来てました。印刷代も高いし、提案してくるものも的外れですし、説明もよくわからないと言って。彼女はデザイナーをやっていたので、おかしいのがわかったのです。内情は、印刷屋さんにメーカーの人が天下っていて、キックバックしている。当然、広告代理店からもキックバックがきている。もう馴れ合いで、ゴルフコンペとかもあり……、本当に古い体質で……。

岩本

現場で担当されている人は、たまらないですね。

小池

私はこの大手自動車メーカーの人に1度プレゼンをしたことがあります。 なぜ私の知人が悲鳴を上げたかというと、そこの広告部署の責任者が、確か製造分野で、全く畑違いの部署から来た人だったからです。どこがいいのか? どこが悪いのか? 何もわからない。社内でこういう基準があって、こうしなければいけないというのもわからない。それで「どう?」って彼女に何でも聞く。でも、彼女がいくら言っても、広告代理店が来ていろいろ言うと、うやむやのうちに終わってしまう。新聞広告でも何でも、実につまらないものがあがってきます。私はあんまり表現案を作らなかったけれど、考え方はこうだ、こうやっていかなければいけないとプレゼンしました。この会社の広告部署の責任者の人は、広告代理店の人に遠慮して、プレゼンは一応受けるけれど……、というだけでしたね。

岩本

しっかりプレゼンを受けてもらえたら、良いものが、効果も得られるものが、できたかもしれませんね。

小池

そうなんですよ。

岩本

この大手広告代理店はクリエイティブブリーフのようなものを、やってないということですよね。

小池

やってないと思います。 ちょっと関連するケースですが、日本の某大手飲料メーカーとの仕事が一番興味深いかもしれません。 ある新商品のコマーシャルの仕事で、ダブルクライアントでした。日本の飲料メーカーが販売、アメリカの飲料メーカーが製造。アメリカの飲料メーカーは自分の力では日本市場で売れないから、日本の飲料メーカーにおんぶに抱っこする。そうすればすぐ売れると思ったらしいのですが、いずれにせよ、二社にプレゼンしなければなりませんでした。

岩本

ワーッ、厳しいですね。

小池

すごく大変でしたよ。しかも、アメリカの飲料メーカーの担当者は、日本に来て1カ月もたたないオーストラリア人でした。農業をしている、おじさんみたいな人で。

岩本

何もわからないのですか?

小池

そうなんです。日本の飲料メーカーは、宣伝部長が出てきました。神様みたいな人でしたよ。やり方が全然違う。何が大切なのか、という考え方の基準は一応持っていました。一方、アメリカの飲料メーカーは考え方の基準がなく、その時依頼していた広告代理店のパブリシスのやり方でしたね。話は噛み合わなかったです。ただ、日本の飲料メーカーは一応クリエイティブブリーフのようなものを持っているようでした。  それから、エイトフォーで花王さんとやりとりをしましたが、花王さんはクリエイティブブリーフを持っていました。すごくしっかりしていました。私はその時、P&Gのクリエイティブブリーフをそっくり真似しました。

岩本

企業側は持っているけど、代理店のほうがそれを引き出せる術がなかったり。

小池

言われたとおりやっているということでしょうね。

岩本

そういうことですね。日本と外資系はその辺に大きな違いがあって。

小池

日本の大手広告代理店は競合他社がいろいろ入っていますから、パートナーではないのです。パートナーというのは外資系の考え方で、1業種1社ということは、秘密も資料も全部出せるわけです。ところが日本は出せない。

岩本

上っ面になってしまう。

小池

出せないからクライアントがしっかりしていて、これをつくってくれと言われて、代理店は「はい」と言ってつくる。

岩本

それこそ戦略的なところには触れられない。

小池

触れられませんね。

岩本

日本では同じ業種を何社もやるような代理店がありますから、秘密、戦略的なところは明かせられないみたいな文化があるわけですね。

小池

だから、代理店にフィロソフィーがない。自分たちはこういうもののつくり方をするとか、こういう考え方をするというのがないから、弱いのではないでしょうか。

岩本

媒体ありきということですね。

小池

媒体ありきですね。

岩本

イギリスでアカウントプランニングという考え方があって、私も深く理解しているわけではないけれど、やはりクリエイティブ中心の考え方ですよね。

小池

そうですね。アカウントプランニングというと営業ですが、営業が全部を仕切る。クリエイティブや戦略を全部、仕切ってまとめていく。そのアカウントプランニングをしていくわけですよね。   外資ではクリエイティブブリーフはあたりまえ

岩本

クリエイティブブリーフについて、一つの例でもいいのですが、これをやった瞬間に、これを見せた瞬間に、いままでうまくいってなかったのが急激にうまくいったというようなケースはありますか?

小池

私はいままで、クリエイティブブリーフを持っている人ばかりと会っていたので。(笑)

岩本

ああ、なるほど。

小池

最近のケースでは、健康食品を扱っている会社とのやりとりがあります。何回も行って何回も同じ話を聞いて帰ってきて、いつまでたってもまとまらない。クリエイティブブリーフというとわからないので、コミュニケーションブリーフというかたちで書きました。すると“書いてくれるとわかりますね、指針になりますね”と言われましたよ。

岩本

まとまりますものね。

小池

そうですよね。

岩本

いままでは最低限知っている方ばかりだったので、逆にやっていなかったら、とんでもなかったということですか?

小池

そうですね。

岩本

なぜ最低限こういうことをやらないのかと。

小池

そういうものがないと、ブリーフはどこにあるのかと言われます。

岩本

外資ではあたりまえの世界なんですね。

小池

外資では、ないと話が始まりません。

岩本

ブリーフを使っても、やりとりの中でうまくいかないというか、ズレなども当然出てきますよね。

小池

出ます、出ます。一番多く出たのが、フランス人のブリーフでした。あんまり複雑なので。

岩本

フランス人のブリーフは複雑ですか?

小池

ええ、例えばパブリシスさん。言うことがいっぱいあるので、もっとシンプルにしましょうと提案したことがあります。ブリーフはシンプルのほうがいいので削ぎ落としていきますが、入れたい部分と削ぎ落とす部分を、クライアントとじっくり話し合っていく必要があります。一方的にこちらが書いて「はい」と渡すのではなくて、ディスカッションの場として使う。クライアントさんに自分の製品とか立場をわかっていただくための、話し合いのツールみたいなものですね。

岩本

わが社でも最近やっと使い始めていますが、いろいろなケースがあると思います。営業の人間がつくるケースとか、クリエイター、ディレクターがつくるケースとか、あとは、クライアントさんがある程度つくってくれるケースもあると思います。

小池

たくさんありますね。クライアントのつくってきたものを書き直して、ここは違うのではないかとか。外資の場合はほとんどクライアントがブリーフをつくってきます。こちらもブリーフをつくっていきますよ。

岩本

ぶつけていく感じですね。

小池

そうですね。クライアントさんから仕事をもらう時、クライアントブリーフというのがきますので、今度はこちらで、ほかの資料も集めて、もう1回ブリーフを返すという感じです。

岩本

日本の企業でもそういうやりとりが一部でもありますか?

小池

私は日本の企業とあまり仕事をしたことがないのですが、外資だけど日本の企業みたいなやり方をしている企業もいっぱいありますから、そういう企業はブリーフを出してきて、書き直して、というかたちになります。  あっ、そういえば、一つ日本の企業のことを思い出しました。

岩本

どのようなケースですか?

小池

その日本の企業にブリーフを出したのですが、あとは“なあなあ”でした。

岩本

“なあなあ”というのは?

小池

「ああ、そう」とか言って。

岩本

あまりピンときていないわけですね。

小池

そうです。日本の企業はクリエイティブに走りたがるのです。

岩本

あっ、早く表現案を見たいということですか?

小池

そうなんですよ。  日本の企業の人が、ある媒体の表現を全部変えたいと言うから、なぜ変えるのかと聞きました。そういう場合、「ターゲットをどこから持ってくるのか?」と普通聞きますよね。そうしたらその偉い人が怒ってしまって、早く表現案を見せてくれって言うのです。

岩本

いい表現案を作るために、これをやっているのに、ですよね。

小池

いい表現案を作るためにいろいろ説明する必要があることがわからないんですよね。自分たちはわかっていると……。

岩本

わかっている気になっている。

小池

先方はわかっているつもりだけど、こちらで明確にしようとすると、先方はわからないことに気付き始めて、不安に思って怒ってしまったりするんですよね。

岩本

「いつになったら表現案を出してくれるのか?」という感じですね。

小池

そうですね。

岩本

そういうのが多いかもしれませんね。

小池

上手にまとめていくといいのですが、会社、会社によって考え方がすごく固まっている会社がありますから、用心して取り組まないといけないなあと思っています。

岩本

用心(笑)。わが社もまだまだ修行中だから結論が出ていませんが、ブリーフをつくって、表現案を見たいと言われるので、そのあとにラフを付けておくと納得しやすいというのはありますよ。

小池

ありますね。

岩本

ただ、ブリーフだけだと見てくれない場合はよくあります。もちろん見てくれる場合もありますし、クライアント側が混乱している時には1回ブリーフを出して、やりとりをしてみて、となりますね。ある程度、早く出してという時は、これと一緒にラフを出すと納得しやすいようです。

小池

そうですね。

岩本

考え方などの違いがあった時、何か違うなと思った時、振り返って、どの部分からそれが派生されているのかという糸口にもなったりします。そういう意味ではすごく勉強になりました。経験の中から出てきている深い知恵をありがとうございます。



※このインタビューは、2008年8月に実施しています。


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