今回は、デジタル・ディスラプターがテーマです。市場を破壊するという意味を持つデジタル・ディスラプターですが、例を用いて説明すると、既存の音楽CDを駆逐するインターネット音楽配信(iTunesなど)のことを「Disruptive Technology」(破壊的技術)と呼び、その企業(アップルなど)を「Disrupter」(ディスラプター)と呼んだりします。
ディスラプターの中でも、デジタル化によって既存企業を破壊しようとする「デジタル・ディスラプター」に対して、既存企業はどう対処すればいいかを説いた著作に『対デジタル・ディスラプター戦略 既存企業の戦い方』(マイケル・ウェイド他著)があります。今回はこの理論を取り上げてみたいと思います。
デジタル・ディスラプターに対する4つの対策
まずディスラプターが提供する価値には「コストバリュー」「エクスペリエンスバリュー」「プラットフォームバリュー」の3つがあり、多くのディスラプターはその組み合わせであるとしています。
例えばアマゾンは低価格で(コストバリュー)、ワンクリック決済で(エクスペリエンスバリュー)、広範な商品が手に入るプラットフォーム(プラットフォームバリュー)を提供しています。
同著はその上で、デジタル・ディスラプターに対する戦略を4つ提案しています。
- 収穫戦略 ディスラプティブな脅威を遮断し、攻撃されている事業分野のパフォーマンスを最適化するための防衛的戦略
- 撤退戦略 攻撃されている事業分野から戦略的撤退をするための防衛的戦略
- 破壊戦略 自らの中核事業をディスラプトし、新しい市場を生み出すための攻撃的戦略
- 拠点戦略 ディスラプションと関係する競合利益を持続させるための攻撃的戦略
新聞社がとるべき戦略とは
新聞社を例として当てはめてみましょう。新聞社にとってのデジタル・ディスラプターはニュースサイトやニュースアプリです。その脅威にさらされた新聞社が取るべき戦略は何でしょうか。
1.収穫戦略
1つめは既存の紙の新聞の制作効率を上げ、そこでの収益を確保することです。記者や支社のリストラ、縦割り部門を集約する、自動化・一元化された制作プラットフォームの導入などが挙げられるでしょう。同著がいうように、できるだけ既存の事業で「粘る」ことです。
2.撤退戦略
2つめは思い切って撤退し、既存のニッチに逃げ込むことです。紙の新聞の事業は売却し、既存の事業で利益を上げている部門、たとえば投資情報の提供や、セミナーの開催・運営などのニッチとして生き残ることです。
3.破壊戦略
3つめは自らディスラプターになることです。ニュースサイトやニュースアプリを立ち上げるだけではディスラプターにはなりえません。例えばニュースサイトとマーケットプレイスを融合させて、情報収集と買い物の両方ができるサイトを構築してしまうなどのプラットフォームバリューの提供などが考えられます。
4.拠点戦略
4つめの拠点戦略がやや難解です。ディスラプターが市場を席巻している間に生まれる市場で利益を享受できるチャンス(バリューベイカンシー)をできるだけ長期間抑えるということです。事業を新設したり、買収したり、提携したりすることで行うことができます。
あなたの業界に破壊的企業は現れるか
新聞社を事例に当てはめてみましたが、どの業界にもこれらの戦略は当てはまりそうです。同著では、デジタル・ディスラプションが起きやすい業界を次のようにランク付けしています。
1位 | テクノロジー |
2位 | メディア・エンターテインメント |
3位 | 小売 |
4位 | 金融サービス |
5位 | 通信 |
6位 | 教育 |
7位 | 旅行・ホテル |
8位 | 消費財製造 |
9位 | ヘルスケア |
10位 | 公益事業 |
11位 | 石油・ガス |
12位 | 製薬 |
この順にディスラプトの渦が巻いていると指摘していますが、渦の中心から離れていてもディスラプトが起きないとは限らないとしています。あなたの業界のデジタル・ディスラプターについて考え、対策を打たなければならないと思います。