ブランディング基礎

ホントはいい人?田端信太郎のセルフブランディング術

投稿日:2018年7月27日 更新日:

セミナーのイメージ

フリーマガジン「R25」、ライブドアニュース、VOGUEデジタル版、LINEなど数々のメディアの立ち上げ・運営に関わり、現在はZOZOに在籍している「メディア野郎」こと田端信太郎氏。ツイッターでもたびたび世間を騒がせている田端氏はこのたび、『ブランド人になれ!会社の奴隷解放宣言』を出版しました。田端氏のメディア人、ブランド人としての活動に注目してみました。

社会現象を起こした20代のサラリーマン

田端信太郎氏がツイッターでたびたび炎上していると聞いて、「もったいないなあ、(たぶん)いい人なのなあ」と思いました。
「たぶん、いい人」というのは、私のささやかな経験からの憶測です。

彼の存在を初めて知ったのは、2004年、リクルートのフリーマガジン「R25」が世間の話題をさらった時です。ご存じの方も多いでしょうが、店のラックどころか、駅ホームのサインディスプレイを取っ払って作ったラックにも毎週2回、「R25」が積まれ、通勤ラッシュ時は、「R25」を手にしたい人がラックに殺到し、大混雑を巻き起こすほどの現象になっていました。

当時「フリーペーパー元年」とまで言われましたが、フリーペーパーは「R25」と「ホットペッパー」のリクルート一人勝ちで、宅配や新聞折り込みのフリーペーパーはむしろ退潮していました。まさにフリーマガジンのプロジェクト一発で、社会現象を起こしたのです。

そんな「R25」の仕掛人に取材したいと思い、リクルートに問い合わせたのですが、美人の女性広報が「R25」のカタログスペックの説明をしてくれるだけで、とても「噂の仕掛人」にはたどり着けませんでした。同業の人からは「すごい有能な仕掛人がいるんだけど、リクルートは絶対に表に出さないんだよなあ」という話を聞きました。すげえなあ、どんな人なのかなあ、と想像を膨らませたのですが、その人こそ当時20代の青年・田端信太郎だったのです。

「メディア野郎」の実力と素顔

実際にお見かけしたのはそれからずっと後、2013年に開かれた印刷業界向けのセミナーでした。すでにそのころはLINEの執行役員となっており、著書も出されていて話題の人になっていたのですが、トレンドに疎い印刷業界の悲しさか、彼がパネラーを務めるセミナーにはわずか10名ほどしか集まりませんでした。

そんな小規模のセミナーにも真摯に対応して下さったのが田端氏でした。他のパネラーよりも早く会場入りしたのにも関わらず、「遅くなって申し訳ありません」と(坊主)頭を下げて謝り、参加者が少ないことや参加費が高いことを他のパネラーが揶揄しても、機転の利いた言い回しで主催者をフォローしていました。

その誠実な姿勢に驚かされたのですが、私が惹かれたのは何といっても講演内容です。

「フィナンシャルタイムス紙がサーモンピンクなのはステータスシンボルのツールだから」「どんなにクリエイティブな文章よりも、LINEの『LOVE』と入ったコアラのマーチのスタンプ1つの方が、恋人の心に響く」「有名ブロガーはツイッターと同じ内容のコンテンツを、数万円のディナー会で話す。大事なのはコンテンツをエクスペリエンスに変えること」など、現在のメディア環境についてとても分かりやすい切り口で解説していただきました。世間では彼を「メディア野郎」と呼んでいるそうですが、私もメディア人としての田端氏のファンとなってしまいました。

ファンとアンチで議論を活性化させる

そんな田端氏がツイッターで問題発言をし、バッシングされていることを知って、最初は残念な思いをしたのですが、田端氏のこと、ブランド論・マーケティング論の鉄則を理解しているからこそ、こういった行動に出られているのだと思います。

マーケティング論のフィリップ・コトラーは、「ヘイター(アンチ)はラバー(ファン)を刺激するための必要悪」「好意的な意見と批判的な意見の両方がなければ、ブランドに関するカンバセーションは面白みのないものになり、人々をあまり魅了しなくなる」という趣旨の発言をしています。田端氏もアンチを煽り、ファンを刺激することで、自らのブランドを高めようとしているのでしょう。

『ブランド人になれ!』を読んでみた


さて、このたび出版された『ブランド人になれ!会社の奴隷解放宣言』を読んでみました。
彼のいう「ブランド人」とは、会社の名前ではなく自分の名前で仕事をする人のことを指します。私は最初は先入観で、セルフィッシュ(自己中心的)な内容なのかなと思っていましたが、よく読むと愚直なまでに顧客志向・社会志向なのが分かります。

「一言で言えば、『お客様を喜ばせること』、それだけがブランド人の仕事だ」
「今日からドSになるのだ。Sはサービス精神のSだ」
「『カネを稼ぐ』という自分本位の目的など捨て、『他人の幸せ』を考えなければならないのだ」

ブランド力に相応する実力をつけるための努力を惜しむなとも言っています。
「『質をこなすな、量をこなせ』新人のうちはこの言葉に尽きる」
「まずは虚像でも何でもいいから自分のステージを上げろ!そしてそこから必死に辻褄を合わせろ」

協調性を軽視しているわけでは決してないこともわかります。
「オフィスを掃除してくれるオバちゃんだろうが、面接を受けに来た新卒の学生だろうが、敬意と感謝と誠実さを持って接することができる人間でいてこそ、ブランド人だ」
「裏表がなく、バカ正直に君の人間性を丸出しで生きるからこそ応援が集まる。これでもかと言うほど人に好かれろ。好かれて好かれて好かれ倒せ。尊敬だけでは不十分だ。ブランド人は人に愛されて初めてブランドになるのだ」

サラリーマンだからこそできること

こう見てみると、田端氏の誠実さが透けて見えてしまうように思います。お客様のために自分の実力を高め、誠実に生きて社内からの評価をもらい、カネではなく志のために生きよう…自己中心主義・スタンドプレーとは正反対の言説です。ところどころに扇動的・挑発的な言動があるため見逃しがちですが、社会人としてのあるべき規範について述べているところが随所に見られます。

そのうえで、会社の歯車にならず、自分の実力とブランドで生きていく術を説いています。注目なのは、経営者でもフリーでもなく、会社の一員、サラリーマンとして「ブランド人」になろうと説いていることです。田端氏はフリーランスよりもむしろ会社人の方が、ブランド人には有利だという趣旨の話をしています。フリーランスでは1人ですべてをこなさなければならないことも、会社なら他の社員が業務を分担してくれます。教育やオフィスの場も提供しています。

田端氏は「会社の奴隷解放宣言」「会社なんて幻想だ」と言いつつ、「これだけ多彩な価値をもつ会社が、自分の首を絞めているかのように錯覚して愚痴を言う。上司や組織の悪口を言って、不毛な議論をループする。天に唾するような愚かな行為だ」と述べています。会社は有為な存在だ。会社組織を大いに活用して、自分の実力を最大限に生かせ、というのが、この本の趣旨だと思います。

「目立ちたがり」ではいけないのか

田端氏のことを「目立ちたがり」と思う人も多いでしょう。しかし「目立ちたがり」が悪いという発想こそ、日本の会社組織の病巣なのではないかと思います。

組織を活用し、社員としての実力を最大限に発揮する。このことこそ実は会社が最も求めていることなのではないでしょうか。それなのに主体的に働こうとすると、あいつは協調性がない、目立ちたがり屋だと後ろ指をさされ、出る杭は打たれる。だから生産性は上がらない。

田端氏のような「ブランド人」は最近ツイッターなどでますます発言力を増しています。そういった名前で知られ、実力も伴う人材が、日本にどんどん出てきてくれたらと思います。

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