Case Study

コロナ時代 ブランドの「選択と集中」で経営革新 <前編> ~資生堂 パーソナルケア事業ブランドを売却~

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資生堂が、主力事業の一つであるパーソナルケア事業ブランドの売却を決めました。

資生堂/パーソナルケア事業1600億円で譲渡、合弁事業化で新会社設立
https://www.ryutsuu.biz/strategy/n020323.html

資生堂は2月3日、パーソナルケア事業譲渡に伴う会社分割(簡易吸収分割)を実施すると発表した。「TSUBAKI」「SENKA」などをグローバルに展開するパーソナルケア事業について、そのポテンシャルを最大化し、今後さらに成長させるためには、マーケティング投資強化が不可欠あり、それを可能とする新しい事業モデルの構築が必要と判断。その実現のために、対象事業を譲渡すること、その後同事業を運営する会社の株主として参画することを決定した。具体的には、対象事業を会社分割(吸収分割)により同社と同社子会社から同社が新たに設立する株式会社に対して承継させることを前提として、新会社の株式をCVC Capital Partnersが投資助言を行うファンドが出資をしているOriental Beauty Holding(以下:OBH)に譲渡する。その後、新会社、OBHを含む対象事業の運営会社の株主として、対象事業を合弁事業化して、さらなる成長と発展に協力していくことなどに関して、法的拘束力を有する正式契約を締結した。新会社の全株式および関連事業資産の譲渡対価は1600億円。2019年12月期のパーソナルケア事業の売上高は1055億9700万円、新会社は2021年上期中に設立予定だ。
(流通ニュース ホームページ)

資生堂 TSUBAKI
https://www.shiseido.co.jp/tsubaki/

資生堂は、ここ数年の経営改革とインバウンド需要の後押しを受けて業績が好調に推移していたものの、世界的な感染症問題に影響を受けて商品需要が急減し、今期の中間決算では大幅な赤字となりました。実際に、感染症問題が勃発して以降、化粧品関連企業は大きく業績を落としており、赤字になる企業が続出しています。

化粧品大手各社、軒並み減収 インバウンド消失と外出自粛・マスク生活が直撃
https://news.yahoo.co.jp/articles/b59e35f16b0d81f3ab8c9dcbd4f33612286e2892

ヤフーニュース 東京商工リサーチ配信記事には、
“長引く「新型コロナウイルス」感染拡大で化粧品業界が苦境にあえいでいる。これは外出自粛、インバウンド需要の消失で化粧品ニーズが変わったためだ。(株)コーセー(TSR企業コード:290050723、東証1部)と(株)ノエビアホールディングス(TSR企業コード:662279069、東証1部)が発表した直近の四半期決算では、いずれも前年同期比10%以上の減収だった。外出自粛やテレワークの浸透の余波はアパレル業界だけでなく化粧品業界にも広がっている。(中略)大手各社は外国人観光客が多く訪れた百貨店の化粧品コーナーにブランドテナントを出店している。インバウンド需要が消失し、来期も業績の落ち込みが避けられない状況だが、しばらく我慢の経営が続きそうだ。”
と記載されています。
これらからも推測できますが、資生堂も今後の感染症問題の余波がどの程度続くのかがわからないことを考慮し、早めに事業構造の転換を行ったのではないかと考えられます。

資生堂のパーソナルケアブランドは、一般的にはドラッグストアなどの日用品コーナーでよく販売されている数ある日用品ブランドの一つ。これらのカテゴリーは商品単価が低めで、尚且つ新商品発売やアイテム増加による商品入れ替わり頻度が高いため競争が激しく、結果として各社の消耗戦となるカテゴリーでもあります。

商品をより多く販売するためには、商品認知を高めるために工夫を凝らしたプル型のCMを制作した上で大量にCMを流し、あちこちにプッシュ型販促プロモーションを展開させるコミュニケーション施策を戦略的に練らなくてはなりません。そのため、ブランドとしてのコンタクトポイントには販売力があるGMS流通やドラッグストア流通などが有力で、彼らに販売促進費用を提供し、顧客獲得に有利な売り場や棚割りを押さえていく業界慣習があります。当然ながら、それらの店舗への納入原価(卸値)についても、厳しい要求をクリアすることが必須。更に、販売好調であれば商機ロスにならないよう増量生産のために工場稼働率を限界まで上げ、それに伴う資材調達や物流などのサプライチェーン全体についても念頭において動かなくてはなりません。

他方、商品の売れ行き芳しくない(または最初から売れなかった)場合には、商品の返品処理や処分を行わなくてはならず、場合によっては販売促進費用を追加して、店舗での格安処分販売を行わなくてはならないときすらあります。その上で、次の商品開発や販売促進企画、アイテム追加などについても常時対策しておかなくてはならず、昨今ではSNSなどの動向も注視した上でバズったときや炎上したときにも備えておかなくてはならない現実があるのです。こうなってくると、元々の商品単価がそこまで高くない中では、商品が売れても売れなくても結果的に粗利が抑えられてしまい、オペレーションコストばかりが嵩んでいくという悪循環に陥りかねないことは想像がつくかと思います。

では、このような資生堂の日用品(パーソナルケアブランド)について、簡易でありますが3C分析を用いて可視化するとこんなことが見えてきます。

資生堂は2019年決算では企業全体で1兆1300億円の売上を上げていますが、この日用品事業は1055億円の売上なので、企業全体の売上構成比では約9%です。また、化粧品と比較して商品単価が安めであることもあり、粗利の構成比は更に少ないものとなっています。つまり、現況においてこの市場は正に典型的なレッドオーシャン市場であり、新興企業がいきなり出てきたかと思うと、あっという間に消滅してしまう市場。
典型的な事例として、一昔前に流行ったボタニカル・ノンシリコンシャンプーなどが挙げられます。かつては品切れ続出の大ヒット商品となりましたが、各社が類似品を販売してコモディティ化したことでブームが去った後に、ブームを牽引した新興企業が破綻したというシナリオ。

また、元来よりこの市場は大手企業が圧倒的に強く、国内・外資共に日用品の大手企業が既に市場の大半を押さえており、そこに侵食していくためには、相当な大規模長期投資が必要となる可能性が高く、それでも成功するかは未知数なところ。
現在の資生堂の経営者はプロ経営者として有名な方達が多数参画していますので、コーポレートファイナンス的な考えでいくと、投下資本に対する利益率が低く、割に合わないという思いがあったのかもしれません。

資生堂は戦略として、今後は高単価商品へ経営資源を注力していくと明言しています。つまり、ブランドの「選択と集中」を行うということです。

現況以上に高級品に重点的な資源投資を行い、商品単価が低いものは徐々に縮小していくという戦略をとる可能性が高いと思われます。実際に、2017年以降は非中核事業としてヘアケア用品などの売却を行っています。この結果、資生堂の業績は、現状よりも売上高が縮小する恐れがあるものの、粗利率は高まり、収益性が回復する可能性は高くなることでしょう。

「選択と集中」は、かつてGE社が成功を収めた経営戦略ですが、その後多くの日本企業もそれを取り入れ、事業の統廃合を進めています。日立、ソニー、東芝などがこの戦略を進めており、日立とソニーは成功したと言われていますが、東芝は失敗したという評価が定着しています。つまり、「選択と集中」は成功した場合の成果が大きいものの、失敗したときの副作用も大きい、リスクの高い戦略であるということでもあります。

では、資生堂のパーソナルケアブランドの「選択と集中」の場合、成功するのでしょうか。続きは、次回の後編にて考察を進めていきたいと思います。

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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