Case Study

「大戸屋」と「コロワイド」。あなたならどう分析する? ~内部資源分析手法を使って競合分析を試みる~

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今回、コロナで大きなダメージを受けている外食産業の中から、似て非なる「大戸屋」と「コロワイド」について、分析フレームを使いながら検証を試みたいと思います。

その理由に、先日この2社間では、経営権を巡る争いが勃発しました。今回の騒動における資本の関係性に纏わる詳細については、他の文献などに譲ることとしますが、なぜこの2社間でここまで話が拗れたかというと、両社は外食産業ではあるものの、そもそものビジネスモデルが著しく異なることが分析をすることで見えてきます。

今回、その分析手法として、企業が保有する内部資源に着目し、RBVとVRIO分析方法を用いて解説していきますが、分析を始める前に、今回使うフレームについてご説明しましょう。

まずRBVとは、リソース・ベースト・ビューの略称であり、その企業に存在する内部資源(経営資源)を基に、競合他社との比較や優位性を検討し、戦略を構築する考え方です。VRIOと併用して解説されることが多い概念です。一般的には、ポーターのファイブフォースなどで外部環境(競合や経済動向など)を重視した分析による戦略構築方法が多いのですが、RBVは、内部環境(自社の経営資源)を重視しているところが特徴的です。

またVRIOは、「経済価値」、「希少性」、「模倣困難性」、「組織」の4つの視点を用いて、自社の経営資源を分析するフレームワークです。前述のRBVの概念と併せて利用することで、戦略の検討が行いやすくなります。そこで、もう少し細かくVRIOを説明すると、下記項目について該当する内容を主に分析してきます。

①経済価値(Value)

⇒その経営資源は、外部環境での機会への活用や、脅威に対応することに効果的か

②希少性(Rarity)

⇒その経営資源は、競合企業も保有していないか

③模倣困難性(Inimitability)

⇒その経営資源は、競合企業による模倣が容易であるか、困難なのか

④組織(Organization)

⇒その経営資源を活用するために、社内で仕組みや体制が整備されているか

これらの英語の頭文字をとって、VRIO分析と呼ばれています。このVRIOの項目をそれぞれ組み合わせ、先述したRBVとの兼ね合いを検討し、今後どのような戦略を構築し、展開するか考えていくことが多くの企業で行われています。それでは早速両社を分析してみましょう。

まずコロワイドですが、東証一部上場で2020年3月期決算にて2,353億円の売上高を持つ、業界でも大手の飲食業です。M&Aに積極的な経営方針であり、居酒屋からファミレス、更にカラオケなどもグループ企業として保有しています。

グループ内には、恐らく多くの方が耳にしたことがある有名飲食店があり、「牛角」や「フレッシュネスバーガー」、「かっぱ寿司」などの比較的ブランド力のある飲食店がありますが、これらの企業も、近年のM&Aでコロワイドの傘下に入ったという経緯があります。

コロワイド ホームページ

https://www.colowide.co.jp/

コロワイド グループ一覧

https://www.colowide.co.jp/brand/

ホームページにある詳細情報を基に、コロワイドのVRIOフレームワークを下記のように作成しました。

特徴的なのは、各ブランドの詳細解説などについては個々の企業(ブランド)に任せており、コロワイドはプロデューサーとして、全体統括的な役割を果たすことに専念している姿勢です。そのため、M&Aやマーチャンダイジング、リストラクチャリングなどの異業種での戦略思想も果敢に取り入れており、非常にアグレッシブな経営方針となっています。

次に「大戸屋」ですが、JASDAQ上場で2020年3月期決算にて245億円の売上高を持つ、業界で中堅規模の飲食業です。海外進出に積極的な経営方針であり、タイ・ベトナム・シンガポール・インドネシア・台湾・香港・中国、更にアメリカにも出店しています。

また、大戸屋では「大戸屋」以外のブランド展開はされておらず、「大戸屋ブランド」という特設ページをホームページ内に開設し、ブランドとしての価値追求に注力しています。

大戸屋 ホームページ

https://www.ootoya.com/

大戸屋ブランド

https://www.ootoya.jp/brand/home.html

これらについての情報を基に、大戸屋のVRIOフレームワークを下記のように作成しました。

特徴的なのは、単一ブランドの「大戸屋ブランド」に注力しており、創業時の出来事やそれに伴う経営理念を強く意識した戦略を用いていることです。「創業者の想い」に拘った健康やそれに伴うビジネスモデルを意識し、継続することを目的としている、堅実な姿勢が感じられる経営方針となっています。

この様に、両者の情報を同一のフレームを使って整理し、項目毎に比較すると面白いことが見えてきました。

■経済価値(Value)

・コロワイドは、コストパフォーマンスを意識した商品構成であり、提供商品がお値打ちであることが自社の強みであることをアピールしています。

・大戸屋は、値段としては競合他社よりも高いものの、その分、健康・安心の店内調理であることを自社の強みとして打ち出しています。

■希少性(Rarity)

・コロワイドは、複数のブランドを複数店舗でドミナント展開しているので、幅広く顧客要望に応えることが可能です。調理システムもオペレーション上で効率的に管理されているので、サービス提供時間についても短い時間で複数商品の提供が可能です。

・大戸屋は、各店舗で出汁や漬け込みなどの仕込みを行い、なおかつ受注後での調理であるため、サービス提供まで手間と時間がかかります。その分、コストパフォーマンスは高くありません。ただし、このことにより創業時の想いに沿った、出来立てのご飯やおかずを顧客に提供できており、そこが顧客からの支持の源泉にもなっています。

■模倣困難性(Inimitability)

・コロワイドの最大の武器とも言えるのが、マーチャンダイジングです。最先端のセントラルキッチンによる素材の集中管理と原料調達力や配送網を活用し、低コストかつ最短時間で商品提供を可能としています。また、集中管理による食材管理ができるため、どこの店舗でも同品質の商品提供が可能です。

・大戸屋は、店内調理のための秘伝の調理法やレシピが確立されています。希少性とも関係してきますが、各店舗の人間が調理するものであるため、いくら調理方法やレシピを統一していても、店舗ごとに個性が出てきます。また、そこが個性ともなりますし、店内調理であるがゆえに、顧客の希望に対しても融通が利かせやすいという利点があります。

■組織(Organization)

・コロワイドは、M&Aを用いた成長戦略を重視し、業績不振企業も多数救済しています。必要に合わせたリストラクチャリングにも積極的で、大胆な戦略方針転換も躊躇いなく実施します。この結果、既存のブランドを活用した収益化や再成長が可能となり、そのノウハウを自社の武器として活用することが可能となっています。複数ブランドによる、これらを繰り返すことで、グループ経営としての企業規模全体の拡大を目指しています。

・大戸屋は、既存ブランドである「大戸屋ブランド」を磨き上げることで、競合他社と差別化を図り、なおかつ日本の食卓というブランド・イメージを用いた、海外進出を積極的に行っています。

お分かりいただけるかと思いますが、これらの項目を考慮しただけで、両社のビジネスモデルとブランドへの考え方にかなりの溝があり、その隔たりが大きいことが伺えます。

コロワイドは、経済効率性(コストパフォーマンス)を重視し、マルチブランドであることが経営の基本とし、大戸屋は、コストパフォーマンスを犠牲にして高付加価値であることを重視し、単一ブランドを磨き上げることが経営の基本としています。つまり、企業のそもそもの経営文化が180度違うということです。

近年、大戸屋は競合企業との競争激化により、業績不振が続いていました。更に、まだ記憶にある方もいらっしゃるかと思いますが、追い打ちをかける事件もありました。それは店内調理に拘る大戸屋にとって痛恨の事件であり、顧客支持に致命的な悪影響を与えるバイトテロ事件(店内でアルバイト従業員が食材や調理場で不衛生なことを行い、それをネットに拡散させた事件)です。これが発生したことで、顧客離れが尚更深刻な状況となっていました。

そのような中、数々の飲食業で企業再生経験のあるコロワイドとしては、大戸屋にブランド力がある間に抜本的な改革を行うことで、十分再生が可能であると判断したのだと思われます。だからこそ、今回のようなTOBなどの呼びかけも行っているのでしょう。

ただし、大戸屋としては容易には受け入れられない事情があります。コロワイドが問題視している店内調理についての見解の相違です。

コロワイドは、大戸屋に対して経営効率を高めて収益力を改善させるために、店内調理を止めて、自社のマーチャンダイジングを用いた、オペレーティングシステム改革を提唱しています。特に、セントラルキッチンの導入を強く提案しています。実際に、多くの業績不振企業は、コロワイドのマーチャンダイジングによって再生されてきており、今回もその一環として、大戸屋に提唱したのだと思われます。

しかし、大戸屋は、この店内調理に拘ることを、絶対的なビジネスモデルの基本としてきました。競合企業との差別化や、顧客支持の獲得などで、これまでの成長の源泉となってきたものです。

つまり、このコロワイドが提唱する改革案は、大戸屋のコア・コンピタンス(競合他社が真似できない、核となる能力)の喪失を意味し、更には大戸屋としてのブランドを否定、存在価値を失うことを意味するものになるでしょう。コロワイドが得意とするセントラルキッチン方式を用いた大戸屋では、経営理念や創業時の想いと異なる企業体となってしまい、これまで店内調理に拘る大戸屋だからこそ支持してくれていた顧客を大幅に失う可能性が推測できます。なので、このコロワイドによる改革案は、これまで大戸屋が培ってきたブランドヒストリーに、決定的な影響を及ぼす提案とも言えます。いくら資本の関係性の問題があっても、提唱内容を受諾して、簡単に引き下がれるようなものではないでしょう。

以上のように、非常に簡単にまとめましたが、RBVとVRIOのフレームワークを用いることで、個々の企業の経営資源を理解し、打ち出した戦略に至る背景や要因を分析することが可能になります。ぜひとも、RBVとVRIOを上手に活用して、自社や競合企業との経営資源を整理し、それに伴う分析や戦略の構築を進めていただければと思います。

BRANDINGLAB編集部 執筆
株式会社イズアソシエイツ

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