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キーワードは希少性―ステーキ丼店「佰食屋」のブランド戦略

投稿日:2020年2月10日 更新日:

京都の住宅街の一角、わずか10坪の店舗で、夫婦で始めた国産牛ステーキ丼専門店が注目を浴びています。店名は「佰食屋」(ひゃくしょくや)。広告を一切打たず、100食を売ったら閉店、ランチ営業のみという飲食業界の常識を覆すビジネスモデルにより、残業ゼロ、フードロス削減など様々なメリットを打ち出しています。
開業した妻の中村朱美さんは『売上を、減らそう』(ライツ社)という斬新なタイトルの書籍を出版し、業績至上主義からの解放を提言しています。この本は中村さんの開店の苦労から成功までのストーリー、原価率50%という商品へのこだわり、社員を大切にする思いなどを綴った素晴らしい本ですが、本稿ではあえて、同書では触れられていない成功の理由を考えてみます。

理由1 100食限定で希少性を演出

ブランドにとって「手に入れにくい」、「数が少ない」ということは大きな付加価値です。特注のラグジュアリー車のみならず、いわゆる工房系のランドセルなど、希少性の高い商品の多くには注文が殺到します。

「佰食屋」(=100食屋)は店の顔である店名で数量限定をうたい、限定商品を売っていることを全面に出しています。しかも先着順でランチのみ。希少性を打ち出すことで消費者の飢餓感をまさに喚起しているのです。行列が行列を生むという効果も生みだしています。

ステーキ丼が成功したのち、佰食屋はほかに2店舗展開していますが、成功したステーキ丼ではなく、すき焼きと肉寿司という別の商品を提供しており、ステーキ丼が食べられるのは依然として京都の西院店のみです。また、数量をさらに50食に絞った「佰食屋1/2」もオープンしています。このような希少性の演出が奏功しています。

理由2 働き方改革というトレンドに乗ったブランディング

少子高齢化に伴う労働人口の減少にともない、日本の労働者の生産性の向上やダイバーシティ(多様性)のある雇用が求められています。政府はもちろん、社会全体で「働き方改革」の必要性が叫ばれており、またブラック企業やフードロス問題は社会問題にもなっています。

佰食屋は100食限定、ランチ営業のみにすることで残業ゼロ、フードロス削減などを実現しています。また売上をむやみに追わないことで、高齢者や障がい者、就職弱者など多様な人材を受け入れています。

そのような社会的取り組みにより、日経新聞や「ガイアの夜明け」などのテレビ番組などで盛んに取り上げられ、共感を呼んでいます。また、「経済産業省 新・ダイバーシティ経営企業100選」など数々の賞を受賞しています。

佰食屋はほとんど広告を打っていないそうですが、これらのパブリシティ効果は計り知れないものがあります。

中村さん自身は「ダイバーシティ経営はたまたま」とおっしゃっていますが、社会的課題に取り組み、それをブランディングにつなげているのです。

理由3 中村朱美さんというパーソナルブランドの力

佰食屋を開業した中村朱美さんは、飲食業のオーナーとしては珍しい若い女性で、障がいを持つ子供の母でもあります。笑顔も素敵で、活気がある印象を受けます。
中村さんは常に髪形を変えず、青色の服を着るようにしているとのことです。相手にどんなときでも「中村朱美さんだ」と思い出してもらえるようにするためだそうです。
パーソナルブランドの力を持った経営者が、全国の講演会や授賞式を飛び回り、メディアのインタビューにも積極的に応じています。会社や店のブランディングにつながることはいうまでもありません。

理由4 「嘘をつかない」という強い信念

重要なのは「嘘をつかないこと」だといいます。100食以上売らないというコンセプト、ホワイト企業から逸脱しないというクレド、明るく活発な経営者のパーソナリティ…これらに嘘偽りがあったとたん、ブランドは傷ついてしまうでしょう。逆にいうと「業績至上主義からの解放」という強い信念をかたくなに守り続けてきたからこそ、佰食屋は成功したのだともいえます。

理由5 採算性

最後に、採算性です。「もう売上を追いかける必要はない」と中村さんはおっしゃっていますが、採算性については綿密な計算がなされているように思われます。

まず売上ですが、1000円のステーキ丼を100食売り上げれば採算が確実に取れます。この100食という数字は、実は決して少ない数ではないように思います。売上が「異常」といわれている他社の飲食店でも180食。100食は実は現実的な目標数字です。実際に佰食屋においても100食に届かない日もあるそうです。

現実的な売り上げ目標が設定されているから、ムリ、ムダ、ムラも少ない。残業代も光熱費も抑えることができ、食材も安定的に仕入れることができるので、廃棄ロスも少ない。また売上が安定しているからこそ、高い原価率を維持できます。

京都市ではあるけれども観光地でもなく、繁華街でもなく、ごく普通の住宅街の一角で、スペースは10坪。家賃などの固定費も比較的低いと思われます。

コモディティ商品で希少性を演出する5つの方法
いかがでしたでしょうか。ブランドの大きな強みは希少性です。しかしランボルギーニカウンタックのようなラグジュアリー商品でなくても、工房系ランドセルのような工芸品でなくても、希少性は演出できるのです。むしろ佰食屋のステーキ丼は1000円という安さ、しかも黒毛和牛(A5ランク)などではなく、国産の交雑牛を使用しています。

コモディティ商品においても希少性を打ち出すことができると見事に証明した佰食屋。ここで改めてコモディティ商品に希少性を付加する方法について、考えてみましょう。

  • 数量を限定する
    定食屋やスーパーなどでも、「一日20食限定」などと謳うマーケティング手法は一般的かと思います。それをあなたのビジネスにも当てはめてみるのです。採算を合わせる必要は必ずしもありません。限定商品を目玉商品にし、より利幅の高い商品に誘導したり、知名度を上げる切り口にしたりすれば良いのです。
  • 時間を限定する
    佰食屋のようにランチ限定にするのも一つの手ですが、季節限定などもこの手法に当てはまります。「土用丑の日」「恵方巻」「冷やし中華始めました」など様々な季節限定商品の例があります。
  • 場所を限定する
    佰食屋のステーキ丼は京都の西院店1店でしか食べられません。ご当地のみでしか売らないというのも手段の一つです。キットカットやハローキティなどのご当地コラボなども事例の一つです。
  • 情報を限定する
    iPhoneや村上春樹氏の新作など、事前の情報をシャットアウトしておいて、発売までにファンの飢餓感を高めるという手もあります。
  • 人を限定する
    ロイヤリティの高い顧客だけに特別に販売すると謳うのも一つの手法ですね。

以上、希少性を演出し、飢餓感を植え付ける手法について、佰食屋を題材に考えてみました。あなたの会社やお店でも試してみてはいかがでしょうか。

 

BRANDINGLAB編集部 執筆
株式会社イズアソシエイツ

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