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Case Study

大塚家具のお家騒動をブランドの観点から読み解く

投稿日:2015年4月16日 更新日:

昨今世間を賑わせている大塚家具のお家騒動。先日の株主総会では、株主は久美子社長を支持し、取りあえず一件落着となりました。今回は、このお家騒動を「ブランド」の切り口から見てみたいと思います。

大塚家具のお家騒動概要-会員制の高級路線とカジュアル路線

株式会社大塚家具は1969年(昭和44年)に大塚勝久氏が代表取締役として、桐箪笥販売店「大塚家具センター」を創業しました。

1993年(平成5年)には、入店時に顧客名簿を作成し(=会員制の導入)、店員が顧客について回るという接客により“結婚後のまとめ買い”需要を取り込むことで成長しました。

2009年に大塚勝久氏の娘である大塚久美子氏が社長に就任

その後、業績が悪化し、2009年に大塚勝久氏の娘である大塚久美子氏が社長に就任して、これまでの会員制を一新。

「(一人でも)入りやすく、見やすい、気楽に入れる店作り」を目指しカジュアル路線へ

店舗にカジュアルな雰囲気を施して積極的な接客を控える手法を取り入れました。

これにより10年以上減り続けてきた入店者数を増加に転じさせるなど、業績改善に一定の効果をもたらしました。

今回のお家騒動へ

しかし、2014年7月、取締役会で久美子社長の解任を提案され、無役の取締役に降格。

その後勝久氏が社長を兼務しましたが業績は低迷。

2015年1月28日の取締役会では、久美子氏の社長復帰・勝久の会長専任が決定されました。
そして、2015年3月の株主総会で、約6割の株主の支持を受け、現社長の久美子氏に軍配が上がったというわけです。

【ブランド戦略と企業経営】変えてはいけない「ブランド・プロミス」

ブランド戦略の目的とは?

企業経営は、

  • 経営者が考える組織の存在意義(経営理念)
  • 企業の使命(ミッション)
  • 企業が目指す将来像(ビジョン)

を掲げて組織の方向性を示し、全社の共通認識のもと行うものです。

その上で経営戦略を立て、どこの市場で戦うかといったマーケティング戦略を行います。さらに、自社の商品やサービスを差別化し、付加価値を付け、どのように顧客に浸透させていくかというブランド戦略を行うのです。

このようにブランド戦略は経営理念から一貫して派生していきます。ですから、ブランド戦略は経営戦略からブレてはいけないものなのです。

 

 

(出典:同文館出版 「社員をホンキにさせるブランド構築法」)

 

大塚家具の企業理念は

ここで、今回の大塚家具の企業理念を見てみましょう。

お客様に喜んでいただき、社員に喜んでもらい、結果として会社が繁栄する」です。

ここでいう「お客様」の概念が、マーケティング戦略において、前社長と現社長の間で違っていたのです。

企業が変えてはいけない「ブランド・プロミス」

マーケティング戦略は時代の変化や環境に応じて変わっていくものです。しかし、変えてはいけないものがあります。それは、企業が消費者に届けているメッセージの中で消費者に「約束していること」です。

これを「ブランド・プロミス」と呼びますが、大塚家具の「ブランド・プロミス」は一体何だったのでしょうか?

消費者の立場から見た、大塚家具の「ブランド・プロミス」

長く使える高品質の家具選びを、コンシェルジュがサポートしてくれる上品な場所

だったのではないでしょうか?少なくともこれまでの大塚家具から受けた「ブランド体験」からはそれを感じました。

ですから、時代の変化と共に消費者の「カジュアル路線」に合わせた展開をしたいのであれば、「高級大塚家具」の派生ブランドとして、別の「カジュアルootsuka furniture(仮)」を立ち上げるべきだったのです。

そして、そのカジュアル路線は決して「安かろう悪かろう」であってはなりません。「高品質なものを、求めやすい価格で提供」するものであってこそ、派生となるのです。

【アパレルに見る派生ブランド】もともとのブランドの価値を下げず展開

派生ブランドとは、もともとあったブランドからテイストを残しつつ、ターゲットを変えて展開したい場合に行うものです。

例えば、
以前「バーバリー」とライセンス契約をしていた三陽商会では、若者向けに「バーバリー・ブルーレーベル」を派生させて顧客のすそ野を広げました。

また、ワールドが展開する「TAKEO KIKUCHI」では、若者向けストリート路線の「TK」、TKからさらに派生した低価格カジュアル志向のストリートブランド「THE SHOP TK MIXPICE」など数多く派生ブランドが存在しています。

このように、派生ブランドをつくることは、もともとのブランドの価値を下げず、顧客を広げたり、いくつかの価格ゾーンを展開することができるため、アパレルではよく行われている手法です。

【失敗例】ブランド・プロミスを破る行為は顧客離れを引き起こす

企業として顧客に約束している「ブランド・プロミス」。これを変えたことで失敗してしまった例を紹介します。

「ゆったりした時間を過ごせる雰囲気のいい喫茶店」を約束していた店舗

駅前に低価格のカフェが増えてきたことから、価格を下げ、回転率を高くしようとした。それによりこれまでの固定客が離れ、サイドメニューも出なくなったことにより顧客単価も下がり、売上が落ち込んだ。

「無農薬野菜が売り」のレストラン

アレルギーに配慮した料理などを展開していた店舗が、原料価格の高騰や提携農家との契約問題などで入荷ができず、農薬を使った材料を仕入れ、顧客にこれまでと同様「無農薬メニュー」として提供していた。内部告発によりその事実が発覚し、廃業に追い込まれた。

このように「ブランド・プロミス」を破ることは顧客離れを引き起こし、存続の危機をももたらす可能性があるのです。そのため、ブランドを変更する場合は十分に検討する必要があります。

【まとめ】

近年は消費者の嗜好や行動が多様化し、これまでのようなマスマーケティングでは対応しきれなくなっています。

そのため、売上をあげるためには多様化する消費者に合わせた様々な施策が必要となっています。

今回の大塚家具の問題は、「A」か「B」かの選択に固執して、顧客を置き去りにしてしまった点にあるように思えます。

「高級路線」も「カジュアル路線」も「ブランド・プロミス」を守れば、両方を展開し、多くの消費者が喜ぶものを提供できるはずです。

大塚家具を支持するファンや、これからファンになりうる消費者のために、最善の道を探って、企業の成長につながることを切に願っています。

※本コラム内容は筆者の個人的な意見です。

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