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Case Study

レビットの鉄道衰退論とJR東日本の事業領域拡大戦略

投稿日:2018年3月30日 更新日:

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JR東日本は鉄道会社でありながら、流通・サービス、不動産・ホテル、電子マネーまで事業領域を拡大しました。なぜこのような拡大ができたのでしょうか。考えてみましょう。

近視眼で衰退したアメリカ鉄道会社

マーケティング理論の大家であるセオドア・レビットは、論文「マーケティング近視眼」の中で、顧客中心ではなく製品中心の産業は衰退すると述べています。
例として、かつて繁栄したものの、長距離バスや飛行機の登場によって衰退してしまったアメリカの鉄道業を挙げています。もしアメリカの鉄道業が自社の事業を「鉄道を走らせる」ではなく「人やモノを輸送する」と定義していたら、今ごろは長距離バス網で利益を上げていたかもしれません。フェデックスのような大手物流会社に変身していたかもしれません。しかしアメリカの鉄道会社は、自社の製品「鉄道」を中心に事業領域を考えたために、そのような発想ができなかったのです。

電子マネー事業まで領域を拡げたJR東日本

Suica

しかし、話はそこで終わらないように思えます。日本の鉄道会社、例えばJR東日本を見てみましょう。JR東日本グループの理念には次のように書かれています。

「私たちJR東日本グループは、駅と鉄道を中心として、お客様と地域の皆様のために、良質で時代の先端を行くサービスを提供することにより、東日本エリアの発展をめざします」

明確に顧客志向・地域志向を掲げている一方、自らを鉄道業どころか、輸送業にも限定していません。駅と鉄道を中心としたサービスならば、すべてJR東日本グループの事業領域に含まれるわけです。
例えば人々が行き交う駅の運営から発展して、駅ナカや駅ビルにホテルやオフィス、小売店や飲食店などのテナントを展開しました。人々の視線が集まる駅ビルや鉄道車両内のスペースを利用して、ポスターやデジタルサイネージ、トレインチャンネルなどで広告を流す広告代理店事業も展開しました。

鉄道の乗車券から発展して、ICカード「Suica」を展開、電子マネー事業にも参入しています。
JR東日本の売上高構成を見てみましょう。輸送事業は1兆9898億円、流通・サービス事業は5024億円、不動産・ホテル事業は3263億円、その他は622億円となっています。売上高の30.9%は輸送業以外から挙げている計算になります。

既存のリソースから視野を広げる

JR東日本の事例から、何が学べるでしょうか。

1つはJR東日本は自社の既存のリソースから、新しい価値を付与したことです。駅ナカのショップやホテルまでを擁する駅ビルも、最初は鉄道の発着所としての駅舎から発展しました。電子マネーの機能が付いたICカードも、ルーツは鉄道の乗車券です。ポスターや看板などの広告掲示物も、ルーツは駅の掲示板だったかもしれません。あなたの会社のリソースや製品・サービスからも、新しい価値を提供できるはずです。

コミュニティスペースを創造する

ダンスする人たち
2つめは、JR東日本は駅を多くの人々が集まる生活拠点と位置付けたことです。同様に、人々が集まるコミュニティスペースを創造することも1つの手段です。
例えばタワーレコードは、自社のミッションをCD販売と位置付けずに、「音楽と出会う最良の場所をすべてのお客様に提供すること」としています。渋谷店では8階建てのビルをフルに活用し、音楽好きが集まるカフェや書店スペースを設けたり、ミニライブやサイン会が連日行われています。

このようなコミュニティづくりの事例は、すでに多くの業種で見られます。上手なコーヒーの淹れ方教室を開くカフェ、活版印刷の名刺を手作りで行う教室を開く印刷会社、働きやすい職場のモデルルームを提供する事務機器販売所など、さまざまです。
自社のリソースを棚卸して、顧客に何を提供できるかが、会社の変革の鍵になるでしょう。

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