Branding Method

SNSマーケティングでブランドファンを獲得 ~ 事例をもとに伝統産業でもすぐできるAARRR(アー)戦略 ~

投稿日:2020年11月10日 更新日:

この度ご紹介したいのは戦略思考法の一つ「AARRR」というモデルです。マーケティングの目的でもある「顧客生涯価値」の獲得を時系列に考え、ブランド体験(価値)として設計する手法に近いものですが、こちらはより「戦術」の設計に近く、マネタイズする上で重要なビジネスモデルの設計を考える手法の一つです。

顧客の獲得から維持・拡大を図りロイヤルカスタマーの昇華させるためにどの様な仕掛けをするべきだ!と理屈では分かっているものの、なかなか実践できないのも事実です。しかし昨今、インターネットを用いたサービスを展開する企業では、このフレームワーク(思考法)が利用されることが増えてきているようです。特にSNSを用いたマーケティングとの相性が良く、自社の成長と顧客との関係性について、自社の経営ステージを確認しながら戦略や解決すべき問題を検討するのに便利なフレームワークでもあります。

アンゾフの成長戦略はよくご存知かと思いますが、こちらは成長戦術(グロースハック、グロースハッキング)とも言われ、多くの企業で幅広く知られるようになりました。

そのようなAARRRモデルの分析では、下記項目について該当する内容を検討しますが、分析する際には可能な限り事象を数値化した上で、可視化したデータを論拠として考察していくことが肝要となります。

■Acquisition:顧客獲得
⇒新規顧客を獲得するための、販促展開を検討します。
自社の現況での市場内での立ち位置や、市場環境を正確に理解した上で検討に入ることが何よりも重要です。
SNS等で言えば、自社SNSの訪問者やフォロー数がどの程度いるのかが参照できるでしょう。ここで利用者が少ない場合は、次の活性化を併せて考えていくことになります。

■Activation:活性化
⇒ここでは、顧客との関係性を豊かなものとし、自社の価値を認めてもらうことが重要です。獲得した顧客が、自社のサービスや商品をどのように利用しているかを確認することになるでしょう。
SNSなどで言えば、自社サービスの訪問回数やサイトでの滞在時間などが一つの目安となります。もしも自社でECサイトなどを運営しているのであれば、そちらへの誘導人数や、そのECサイトでの使用金額などのデータが取得できれば、有意性のあるデータになります。

■Retention:継続利用
⇒ここでは、顧客との関係性を深め、自社へ愛着を持ってもらうことが重要です。
新規顧客の獲得は非常に大変ですが、それを維持することに失敗してしまっては、これまでの前2項目の努力が無駄になってしまいます。
SNSなどで言えば、利用期間や利用頻度が重要なカギとなるでしょう。顧客とのマンネリ化を避けるために、新サービスの導入を図ることや、利便性を高めるなどの対策が必要となります。また、利用頻度が落ちている場合は、新たなキャンペーンを用いて、顧客との関係性を活性化させつつ、改めて深めていく方法も検討したほうがよいでしょう。

■Referral:紹介
⇒既存顧客から他の顧客を紹介してもらうことで、顧客の拡大を目指します。
これまでの項目で既存顧客との関係性が強くなり、満足度が高いものとなっていれば、顧客同士の繋がりが広がり、既存顧客による新規顧客の紹介によって、顧客が自然に増加していきます。企業としての理想的な状態です。
SNSなどで言えば、記事のシェア数などが参照できるでしょう。新規顧客の紹介による、既存顧客へのメリットの提供などが、販促方法として代表的です。

■Revenue:収益化
⇒最後の関門であり、これまでの各項目での実施結果が表れるものとなります。
SNSなどで言えば、売上高や利益などのビジネスとしての安定性や収益サイクルが確立されているかを確認することになるでしょう。これまでの各項目で数値実績が良かったにも関わらず、最後のこの項目でつまずいてしまうというのは、実は結構ありがちな話です。
そのため、各項目と収益化についての相関関係をもとに施策を検証していくことで、更なる企業の成長戦略(そして成長戦術)を模索していくことになります。
ここに問題がある場合、どの項目が自社の課題であり、改善を実施すべきかについて、早めに炙り出し、対策を打つことが大切です。

AARRRモデルは、このようなかたちで分析を進めていきます。SWOT分析のように、フレームワークのまとめかたとして、特に形式化されているものはありません。ただ、下記のように可視化したかたちでまとめていくのも方法の一つです。

ここまでAARRRモデルの方法について説明してきましたが、何となく最先端のネット業界が使うモデルでは?と思われがちです。そこで恒例の私の勝手な視点から、伝統産業のような老舗企業でも十分に利用が可能かどうか実例を当てはめながら検証してみました。

今回取り上げるのは、酒造メーカー大手の白鶴酒造株式会社です。私は個人的には全くお酒が飲めませんが、特許庁認定の「ブランド専門家」として昨年度は老舗酒蔵メーカーと老舗酒類卸売りメーカーのブランディングに深く携わりました。そこでのブランディング支援内容とは異なりますが、実は老舗企業でも時代の変化に適合し、変革して進化し続ける企業があることをご周知いただきたいと思います。

白鶴 ホームページ
http://www.hakutsuru.co.jp/corporate/

白鶴酒造は、2019年3月期実績で売上高309億円、従業員432名という中堅規模の酒造メーカーで、日本酒を主要商品として販売しています。創業は1743年の江戸時代まで遡る、老舗の会社です。兵庫県に拠点を持つ、灘の酒造りメーカーとして、日本各地で商品を購入できる有名メーカーです。商品としては、CMでよく放映されている、「白鶴 まる」が有名かと思われます。

そのような歴史の長い会社ですが、白鶴酒造は積極的に新しい技術や文化を取り込むことで、競争に勝ち抜こうとしています。その中でも特徴的なのが、SNSマーケティングに注力しているところ。これらを先に挙げたAARRRモデルを使って説明してみましょう。

■Acquisition:顧客獲得
⇒白鶴酒造では、現在複数のSNSを活用しています。利用しているのは、
・Facebook
・Instagram
・Twitter
・LINE
・YouTube
といった、2020年10月時点で主要のSNSメディアをブランド・コンタクト・ポイントとして網羅しています。当然、自社運営のECサイトも存在しており、オンラインでの商品購入も可能で、情報の発信もこまめに行っているようです。
よくあるのが、WEBサイトやSNSアカウントを開設したものの開設自体が目的となってしまい、全く活用されずゾンビ化が進むWEBサイトやSNSアカウントとは異なり、新商品販売やキャンペーン、イベント開催の案内等で積極的な活用で自社のブランド想起を図っている様子がうかがえます。

■Activation:活性化
⇒コロナ禍による感染症問題を受けて、顧客との関係性を深める酒蔵見学等のイベントが 各地で相次いで中止になるなか、今回、白鶴ブランド体験としてオンラインによる白鶴酒蔵見学を開催しました。その際にはYouTubeでライブ配信を行い、関係者以外は立ち入り禁止の酒造り区域を紹介し、酒造りの責任者である杜氏さんや広報担当者とのライブチャットを用いた質問会や交流が行われるなど、オンラインならではのイベントとなりました。更にオンラインは距離的デメリットを排除し、兵庫にある工場見学がしづらい関東や東北、さらには時差のある海外からも多くの人がイベントに参加され、これまでとは異なる白鶴ブランドのファンを獲得することができています。

■Retention:継続利用
⇒「SAKE TIMES」などの酒を紹介するメディアとの協力関係を築き、今回のオンライン イベントにも編集者が参加しています。調べてみると、SAKE TIMESは日本酒のWEBメディアとして著名のサイトであり、月間45万人が利用するサイトのようです。日本酒 好きの人がよく利用する外部メディアと協力し、定期的な情報発信を行うというのは、既存顧客の目に触れることで継続的なブランド認知を図ると同時に、潜在顧客の獲得に繋がるのではないでしょうか。このようなクロス・メディアを図り相乗効果も図れることは間違いないかと思われます。

SAKE TIMES
https://jp.sake-times.com/

また、ビックリしたことに白鶴酒造公式のユーチューバー(白鶴酒造の杜氏さん)が、酒造りの情報発信も行っており、継続的に伝統文化や産業の奥深さを体験できるブランド接点を増やす試みも見受けられます。

■Referral:紹介
⇒白鶴酒造は「全員広報」を社長の嘉納氏が表明しており、顧客へのアピールには特に熱心 な企業かと思われます。他業態では「全員営業」という考えを持つ企業もありますが、老舗企業で伝統的な日本酒業界では、やや風変わりな印象も受けました。ただ、その企業姿勢があることで、前述の外部メディアへの進出や、Twitterを通じたオンラインイベントの拡散などにも積極的なところがあるのでしょう。
更に、他業態で行われている環境保護活動や地域交流イベントを定期的に行うことで、異文化を受け付けず閉鎖的になりがちな伝統産業でも、顧客同士の交流や紹介の場を積極的に設けており、自然(意図的?!)とコミュニティが形成され、ブランドファン同士がブランド価値を高めてくれているようです。理想的な構図かと思われます。

■Revenue:収益化
⇒こちらについては、まだ道半ばというところかと思われます。ただ、これは白鶴酒造に限
らず、同業他社でも同様な状況であるのではないでしょうか。

その主な要因は今回のコロナウイルスです。コロナによる事業構造の変化は、各社で満遍なく発生しています。これまでの酒類販売は対面営業が基本であり、特に白鶴酒造のような中堅メーカーは、飲食店での販売構成比が非常に高かったであろうことが推測されます。今回のコロナウイルスによる飲食店への影響は特に甚大であり、酒造メーカーへ与える影響も非常に大きいことがうかがえるところです。ただでさえ、コロナウイルス以前から日本酒業界は縮小傾向にあり、廃業が相次ぐ厳しい状況に置かれていました。そのため、今回の感染症問題により、危急存亡の危機に立たされている酒蔵もあると思われます。

そのような苦しい中でも、日本酒業界の各社はオンラインに活路を見出しつつあります。 クラウドファンディングやオンライン飲み会の主催など、オンラインでのイベントを開催することで、集客せずにブランドファンや潜在顧客を増やす販売方法が整備されつつあるのが進化した活路ではないでしょうか。今だからこそ新しい常識になりつつあるのではないかと思いました。

実際に、今回の白鶴酒造のオンライン酒蔵見学では、工業製品のようなイメージが強い 大手酒造メーカーの印象がガラリと変わる内容が沢山紹介されていました。水や原料の開発・製造・管理に苦心し、機械と手作りの上手な役割分担を図り、複数の条件を考慮した杜氏の想いが詰まったブランド製品を送り出していること。そんな様々な関係者が関わっている自社製品ブランドへの誇りを持っていることなど。そのような製品に纏わるブランドストーリーが紹介されることで、YouTubeのライブ中に白鶴を購入しにいく参加者が複数名表れ、オンライン参加者で白鶴酒造への好印象を持った人が多数に上ったようです。

まだまだ試行錯誤は続くかと思われますが、今後白鶴酒造らしい収益化システムを作り上げることができれば、これは独自的資源として今後の武器に変わっていくことになるでしょう。そのときには、現在のAARRRモデルを脱皮し、新たなAARRRモデルを作成することになるので、企業としてステージアップしたということになるのではないでしょうか。

以上のように、AARRRモデルについて、白鶴酒造をベースに簡単ではありますがまとめてみました。このフレームワークは、現状把握・施策検討・施策実施・検証といった、一連のビジネスサイクルを満たすものであり、なおかつ自社のステージに合わせて内容を更新させ、中期経営計画等と連動したマーケティング戦略を実働しやすくさせる副次的(戦術的)な働きをします。
簡単ですが、便利なフレームワークでもありますので、自社状況を鑑みて、機会があれば自社の価値あるブランディング設計として導入検討をしてみていただければと思います。

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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