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スチュワードシップ・コードと決算発表 コーポレート・ガバナンスにおける次年度業績見込みの開示方法を考察する

投稿日:2019年7月30日 更新日:

東証が、コーポレート・ガバナンスについての分析結果を発表しました。

東証、「コーポレート・ガバナンス白書2019」を公開…上場企業3594社のデータを分析

https://gamebiz.jp/?p=238755

東京証券取引所は、「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2019」を公開した。今回で第7回目となる。無料で閲覧することができる。

東証では、東証1部や2部、マザーズ、ジャスダック上場企業3594社が提出したコーポレート・ガバナンスに関する報告書のデータを用いて、東証上場会社のコーポレート・ガバナンスの現状について総合的な分析を行ったとのこと。

今回の白書は、2018年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂において、変更・新設された原則についても対応状況の分析を行っている。

Social Game info 2019/5/24

コーポレート・ガバナンスは、企業統治のことを指します。内容としては、株主に対して経営陣が誠実に経営を行っているかを監視することであり、具体的には下記のようなものが挙げられます。

  • 企業内での不正を抑制する運用方法を確立すること
  • 効率的に業務を行い、収益を上げていく仕組みづくりを行うこと

これらについては、経済産業省が旗振り役となり、様々な提言を行い、書簡を公開しています。

コーポレート・ガバナンスの在り方

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/corporategovernance.html

経済産業省 ホームページ

日本経済が安定的に成長し、将来にわたって持続的に繁栄していくために、社会経済的に望ましい企業統治の在り方を検討しています。

「攻めの経営」を促す役員報酬~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引~【2019年3月8日】

https://www.meti.go.jp/press/2018/03/20190308001/20190308001.html

経済産業省 ホームページ

では、スチュワードシップ・コードはどのようなものでしょうか。こちらは、リーマンショックの反省により生まれた、金融機関と機関投資家向けのガイドラインです。

経営陣は、あらかじめ予見され得る危機を回避して、最大限の収益を追求することを意識しなくてはならないということであり、こちらは金融庁が主導して各企業への導入を促しています。

スチュワードシップ・コード

https://www.fsa.go.jp/singi/stewardship/index.html

スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会
金融庁 ホームページ

昨今の企業は、コーポレート・ガバナンスとスチュワードシップ・コードの両方を意識した経営を行わなくてはならず、社内外の複数のステークホルダーとの関係性を考慮した行動を、半ば義務付けられています。こういった経営へのプレッシャーが影響し、あってはならないことですが、現在、企業の不祥事や不適切会計を招く要因になっている点も否めません。

そのようななか、地方の中堅JASDAQ上場企業が、2019年度3月の決算が非常に好調であると発表すると同時に、次期業績見込みをかなり厳しい見通しであるということも正直に発表し、市場の一部で話題となりました。岡本硝子という会社です。

岡本硝子、今期経常は54%減益へ

https://s.kabutan.jp/stocks/7746/news/k201905150018/

岡本硝子 <7746> [JQ] が5月15日昼(11:30)に決算を発表。19年3月期の連結経常利益は前の期比2.6倍の2億7100万円に拡大したが、20年3月期は前期比53.9%減の1億2500万円に大きく落ち込む見通しとなった。

直近3ヵ月の実績である1-3月期(4Q)の連結経常損益は7400万円の赤字(前年同期は1800万円の黒字)に転落し、売上営業損益率は前年同期の3.9%→-3.5%に急悪化した。

株探 株価材料ニュース 2019/5/15

岡本硝子社は、千葉県柏市に本社を構える企業で、売上高は2019年3月度実績で60億円。自動車やスマートフォン用の特殊ガラス製品の製造を手掛け、世界シェアNo.1の製品を複数保有するなど、隠れた技術系優良企業です。将来有望な技術をいくつも保有しており、経営共創基盤社にハンズオン(経営参画)型の経営支援を受けています。

東京都など、都心部で上場している企業は当たり前の存在ですが、地方で上場している企業は、その地域の誇りであり、なおかつその土地のブランド価値を引き上げる企業となり得ます。実際に、広島のマツダや、長野県のセイコーエプソン、愛媛県の大王製紙など、企業城下町を形成するような影響力を持つ大企業も、複数散見されます。岡本硝子も柏市の工業地帯を代表する上場企業であり、地域を代表するブランド企業として、近隣地域へ与える影響力も大きいものとなっています。

企業の業績見通しの発表は、その企業の姿勢が試されます。強気な経営計画を立てる成長中の企業も、堅実な経営計画を立てる企業もあり、対応はさまざまです。ただ、基本的にマイナスになる事象については、ギリギリまでなるべく伏せておいて、最終的に下方修正するのが通常のやり方です。

それにも関わらず、あらかじめマイナスな情報を投資家に説明しているところが、今回の岡本硝子社の誠実な企業姿勢として表れています。ただ、残念ながらこの決算発表の後に、岡本硝子社の株価は、大幅に下落することとなりました。金融機関からは厳しい姿勢を示されるかもしれませんが、今後の業績見通しの正しさが証明されることとなれば、市場からの信頼は高まり、企業としてのブランド価値を高めることになるでしょう。

コーポレート・ガバナンスとスチュワードシップ・コードを両立させることは、大企業であっても難しいことです。政府には、それをきちんと履行している企業が評価され、金融機関による貸し剥がしなどを防止するような仕組みづくりを、丁寧に整備していっていただきたいと思います。

 

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 シニアコンサルタント・認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

 

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