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企業のブランド資産活用を再確認 戦略フレーム「BSC」を使って資産利用を再検討      ~ ファミリーマートを事例に参照 ~

投稿日:2020年10月20日 更新日:

経営戦略を構想するフレームの一つに、BSCがあります。BSCはBalanced Score Card(バランスト・スコア・カード)の略称で、1990年代に一世を風靡した、フレームワークの一つです。主に、企業理念やビジョンなどを自社の経営戦略に落とし込み、実行に至るプロセスを検討し、業績を評価するためにも便利なフレームワークと言われています。
その根拠に4つの視点(財務、顧客、業務プロセス、人材)でバランスよく経営課題を確認しながら、戦略を構築するプロセスを踏んでいくので、偏りのないバランスの取れたフレームである反面、検証要素が多い分、使い方に難しさを感じる方も多いと言われています。完璧に使いこなすことを目的にするのではなく、まずは最低限抑えるべき要素をモレなく捉え、どんなところに課題があるかを可視化していくところから始めてみてください。BSCでは、下記内容を分析し、検討していきます。

①財務の視点
⇒株主・従業員などのステークホルダー(利害関係者)に対して、財務的に企業業績を改善・成長させるために、どのような行動をとるべきかを検討する。
代表的な指標:
・PL指標…売上高、利益率、利益額など
・BS指標…自己資本比率など
・投資家向け指標…ROEやROIC

②顧客の視点
⇒企業のビジョン達成のために、顧客とどう相対すべきかを検討する。
代表的な指標:
・顧客からの視点…顧客満足度、リピート率など
・企業からの視点…顧客あたりの平均単価、平均買い上げ点数など

③業務プロセスの視点
⇒企業の財務目標の達成や、顧客満足の向上のために、競合他社比較で差別化・優位性のある業務プロセスを構築する方法を検討する。
代表的な指標:
・イノベーションプロセス…商品やサービスの開発
・オペレーションプロセス…購買や運用など、仕事や作業の方法

④人材と変革の視点
⇒企業として掲げるビジョンを達成するにあたり、組織や個人がどのように能力向上を図るかについて、検討する。
代表的な指標:離職率、ES(従業員満足度)、資格取得者数など

更に、このBSCの項目をそれぞれ組み合わせ、KPI(重要業績評価指標)を検討し、今後どのような戦略を構築、展開していくかを考えることになります。

その際に、下記のようなかたちで表にまとめていくと、内容が把握しやすくなります。


さて、今回のBSCで検討してみる企業に、皆さんもよくご存じの3大コンビニエンスストアの一つ「ファミリーマート」を検証してみたいと思います。個人的にはTカードを持っているので、ポイントの溜まるファミマをよく使うほうだと思います。

ファミリーマートは、元々セゾングループであった西友の関連企業として誕生し、その後の紆余曲折を経て、現在は、大手商社である伊藤忠商事のグループ企業となっています。
ファミリーマートはM&Aに積極的な企業で、これまでにも複数のコンビニエンスストアチェーンを買収しています。近年ですと、サークルKサンクスの買収が話題となりました。

株式会社ファミリーマート
https://www.family.co.jp/

ファミリーマート 沿革
https://www.family.co.jp/company/familymart/development01.html

市場シェア拡大戦略の一つでもあるM&Aをテコに、経営規模を拡大させてきたファミリーマートですが、業界シェアは2020年5月時点で3位にとどまっています。


出典:就活の未来
https://shukatsu-mirai.com/archives/52932

このファミリーマートの今後の戦略と展開を、BSCを用いて検討してみたいと思います。
現状のファミリーマートにおける経営環境について、前述で掲載したBSCのフレームワークを用いて簡単に整理してみました。


BSCの各項目について確認していきます。

①財務の視点
競合企業であるローソンやセブンイレブンと比較してみると、総資産経常利益率が低めになっています。
ファミリーマートの直近3年間の決算では、平均で1.57%です。
ローソンは、5.56%
セブンイレブンは、7.13%
ここから想定されることは、ファミリーマートは競合他社比較で、自社の保有資産が過剰であるか、または有効活用ができていないということです。
また、目に見える資産だけでなく、M&A後は目に見えない資産が眠っていることもあるため、そこにも留意する必要があります。こちらは後述いたします。

②顧客の視点
前述の会社沿革の通りですが、ファミリーマートはM&Aを繰り返して成長規模を拡大させてきました。その際に、個性的な中堅コンビニエンスストアチェーンを複数買収しています。目立つ事例としては、下記の通りです。
・am/pm
・ココストア
・サークルKサンクス
いずれも、独創的な店舗運営を行っており、一定のコアな支持や顧客を持つ企業でした。
買収後にこれらの企業は全てファミリーマートに改装・閉店され、元の企業色がなくなっています。その結果、既存顧客の離反が発生し、店舗数の増大に伴う顧客の食い合いも発生しています。そのため、まずは既存顧客を繋ぎ留め、なおかつ新規顧客を獲得する、販促を検討する必要があります。

③業務プロセスの視点
顧客の視点でも触れていますが、M&Aによる店舗の急増に伴い、既存店との顧客の食い合いが発生しています。また、独創的な展開をしていたコンビニエンスストアチェーンを、そのままファミリーマートに改装してしまったため、既存顧客からの不満と反発を招いてしまいました。
特に、東海地域に強く、地域密着型の商品開発やドルチェ・焼き鳥・おでんなどでの個性的な商品が評価されていたサークルKサンクスの顧客からの不満は、ネットのコメントで度々散見されています。
これらの既存顧客の不満を掬い上げると同時に、過去の買収企業のブランドを自社の独自資源として活用することで、競合他社との差別化要因を作ることが可能になります。これは、自社の可視化されていない保有資産でもあり、有効活用すべき資産でもあります。
なぜならば、既に知名度のある商品は、複数の販促展開を経て生き残った商品であるがゆえにブランド価値を有していることが多く、既存顧客による一定の支持や需要掘り起こしが期待できるため、新商品のマーケティング施策よりも費用対効果が高いためです。
実際に、過去に廃盤となったブランド商品の復活は他業種でもしばしば散見され、高単価商品である自動車産業でも、国内でスカイラインGT-R、海外でジープグランドワゴニアなどの事例があります。

④人材と変革の視点
前述の業務プロセスとも関連しますが、M&Aによって店舗数は増えたものの、販促施策などの問題もあるのか、顧客をうまくつかみ切れていないところが経営の課題です。
これは、M&Aで取得した人材に対して組織融合を図ることができず、むしろ優秀な人材から率先して流出してしまっているところからも散見されています。恐らく、M&A後に人材の組織融合が図れず、むしろ率先して組織崩壊を招いているのではないかという推察ができてしまう状況です。結果として、ファミリーマートは下記のようなネガティブなニュースが報道される機会が多くなっています。

ファミリーマートの早期退職に応募殺到、リストラ資料が明かす大混乱の裏側
https://diamond.jp/articles/-/227920
出典:ダイヤモンド オンライン

小売業は、人材の質で勝負が決まることが多いとも言われており、泥臭い商品開発や顧客対応を繰り返して知見を獲得していくことによって自社の独自性が蓄積され、なおかつそれが競合企業と対峙するための経営資源となります。ここで気にかかるのが、親会社の動向です。
元々、西友の関連企業として誕生したファミリーマートは、小売業の論理を用いて業界内で戦ってきました。しかし現在の親会社は、商社である伊藤忠商事です。この小売業と商社という、企業文化の差異が、結果として組織融合に齟齬を来す要因となっているのかもしれません。ただ、これはローソンを買収したときの三菱商事も経験してきたものであり、また、M&Aの副作用として、ほとんどの企業が経験するものでもあります。
日本でも買収巧者として有名な日本電産では、買収後の人と組織の強化に特に注力すると言われています。
そのため、M&Aを繰り返してきたファミリーマートも、これからの組織体制づくりが非常に重要となっていくでしょう。

以上の各項目を鑑みて、BSCを下記のようにまとめてみました。

あとは、これにKPIやそれに伴う行動指標などを落とし込んでいくことになります。基本的にファミリーマートの場合、まずは同じ商社系列であるローソンをベンチマーク企業として設定し、ローソンに追いつき・追い抜く指標を設定していけば、BSCとして検討しやすいのではないでしょうか。

今回は皆さんの身近にあるコンビニの一つファミリーマートを題材にいつもながら個人の価値観も交えながら疑似的に作ってみました。このフレームのポイントは、そこで働く「人」にどれだけ着目し、経営を組み立てているかという点です。企業を支える「人材=従業者」が「業務」を実行し、「顧客」との接触で自社のブランド価値を提供します。その結果、売上や利益を確保できることで「財務」に反映されてゆきます。つまり、今回の4つの視点を④→③→②→①という流れで考えてみると良いかと思います。

今回は、「顧客の視点」が与える影響、もしくは「顧客の視点」に与える影響を洞察し、企業としてどの様なブランド資産を活用すべきか、もしくはされていないのかと検証してみました。M&Aをしている企業では良くある話ではありますが、行きつくところ「人」というところです。企業としてのブランド意義をしっかりインターナルブランディングで社内浸透させないと、業務にも反映されず、その結果社外の顧客にも発信ができないことになります。特にM&Aにより異文化の企業が一つになった場合は、それが重要となります。今回の場合、買収前に特徴があった部分(ブランド資産)を活かしきれていないことで、シナジー効果を発揮できない例として挙げてみました。

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー

株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント

MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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