ブランディング応用

獺祭にみる、ブランド危機管理の重要性 企業を救う、守りのブランディング方法を検討する

投稿日:2019年10月23日 更新日:

日本を代表する日本酒銘柄の一つ、「獺祭」で製造に伴うトラブルが発生しましたが、その対応の見事さついて、話題となりました。

「獺祭」26万本を自主回収へ アルコール度数違い発覚
https://www.asahi.com/articles/ASM995F9QM99TZNB00S.html
旭酒造(山口県岩国市)は9日、日本酒の人気銘柄「獺祭(だっさい)」にアルコール度数が異なる商品があったとして、今年4~7月に製造、瓶詰めした一升瓶と四合瓶(720ミリリットル)の計約26万本を自主回収すると発表した。健康被害の連絡はないという。

対象商品は「獺祭 純米大吟醸 磨き三割九分」「獺祭 純米大吟醸 45」「獺祭 等外」「獺祭 等外23」の4種類。発酵終了時にアルコール度数が17%前後の原酒に水を加えて16%に調整する工程で、かき混ぜる作業を怠ったため、17%と12%程度のものが混在して出荷されたという。回収するのは年間出荷量の3%程度。

2019年9月10日
朝日新聞デジタル

杜氏や蔵人に頼りきりにならず、可能な限りの機械化をすすめ、最先端技術を導入した高品質な日本酒造り目指してきた旭酒造ですが、重要な箇所については、やはり人的作業が必要であることを自社ホームページでも説明しています。

日本酒「獺祭」26万本を自主回収へ 「仕込み」怠りアルコール度数に違い
https://www.zakzak.co.jp/eco/news/190910/ecn1909100008-n1.html(中略)

同社HPには、かき混ぜが必要な「仕込み」作業を担当する作業員には、「バイオリンやピアノにたとえられるとしたらオーケストラの指揮者の能力が要ります」などと紹介し、「機械的な作業では無理」と断言している。

2019年9月10日
ZAKZAK

この、迅速かつ正直で誠実な説明と対応は、ネットでも話題となりました。

「獺祭」26万本回収騒動で“廃棄検討”に「もったいない!」の大合唱
https://asagei.biz/excerpt/7258約26万本を自主回収すると発表した。これをすべて廃棄した場合、約6億5000万円の損失となることから《もったいない!》の声が続出している。

(中略)

獺祭の自主回収に対してネット上では、《正直に発表した旭酒造は素晴らしいがアウトレットとかで売れないものか》《アルコール度数のムラだけで廃棄はもったいない》《健康被害がないのなら全然買うけどな》と擁護する声が相次いでいるのだ。

「今や『獺祭』は世界20カ国以上で販売され、三ツ星レストランでも出される“世界一有名な日本酒”となりました。そのためプレミアが付き高額で売る販売店も現れ、17年には旭酒造が『お願いです。高く買わないでください』という新聞広告を出したことさえある。しかし、ミスによってアルコール度数が異なるものを販売することは、ブランドイメージ的にも難しいでしょう。

一部全国紙の取材に対し桜井一宏社長は『再利用は難しいのではないか。廃棄するかどうか検討している』と話しており、廃棄が基本路線となるようです」(日本酒に詳しい専門家)

さらに「獺祭」が入手困難になってしまうかもしれない。

2019年9月16日
Asagei Biz

今回の、一連の旭酒造の対応は、ブランドの危機管理対応として、実に見事なものだと言えるでしょう。国内大学院でのMBAなどのケーススタディとしても用いることができるのではないでしょうか。

企業で不祥事が発生した場合の初期対応として、危機管理対策で重要となるのは下記の3点です。

<初期対応必須項目>

  • 早急な謝罪と、原因の特定も含めた、現況で把握していることの一次的な状況説明
  • できる限り精緻な情報を早期に収集し、詳細が確認できた段階での、二次的な詳細説明
  • 迅速な補償対応と、今後の防止策についての三次的な対策説明

上記について、今回の旭酒造のケースを基に説明していきます。

まず、について説明します。
旭酒造より製造トラブルに関する発表が行われたのは、2019年9月9日です。
この段階で、消費者にとって最も知りたいであろうことを、早々に公表しています。

1.どの商品が対象なのか?

⇒対象商品は、
「獺祭 純米大吟醸 磨き三割九分」「獺祭 純米大吟醸 45」「獺祭 等外」「獺祭 等外23」
の4種類。
製造時期は、今年4~7月に製造、瓶詰めした一升瓶と四合瓶(720ミリリットル)の計約26万本。

2.どのような問題があるのか?

⇒アルコール度数が異なる商品があった。
発酵終了時にアルコール度数が17%前後の原酒に水を加えて16%に調整する工程で、
かき混ぜる作業を怠ったため、17%と12%程度のものが混在して出荷された。

3.人体に悪影響はあるのか?
⇒健康被害の連絡はない

上記のように、最も質問が殺到するであろうことについて、簡潔に情報が整理されたかたちで説明されています。

次に、についてです。
こちらについて、公式に発表があったのは、2019年9月10日です。
この段階で、詳細な説明が行われると同時に、最先端技術を用いており、酒の製造に人的関与を最小限としていることを以前より対外的にアピールしてきた旭酒造において、なぜ今回のような事態が発生したのかについて、説明しています。

お詫びと獺祭自主回収のお知らせ
https://www.asahishuzo.ne.jp/info/information/item_kaishu190910.html

2019年9月10日
旭酒造 ホームページ

最後にについてですが、こちらも②と同様に、2019年9月10日です。
商品の補償対応として自主回収を行うことと、その回収方法についてを、前述の自社ホームページにて公表しています。
また、今後の防止策についても、同様に具体的なかたちで対外的に発表しています。

旭酒造のここまでの対応については、2019年9月9日にトラブルを公表し、9月10日で対処方法と今後の予防策を公表しており、わずか2日間で一連の初期対応を完了しています。実に迅速かつ、見事な危機管理対応です。

結果として、製造トラブルに伴う、「獺祭」ブランドに与えるダメージは最小限に抑えられ、なおかつ誠実かつ迅速な対応が評価されたことにより、前述のとおり、ネット上で消費者からの擁護の声が上がるなど、むしろ商品の品質管理について責任をもって行動で示した、ブランドに対する真摯な企業姿勢に対して、逆に好感度が増すという、想定外の副次的効果まで生み出しました。

このように、「獺祭」という強力なブランドを持つ企業としての、旭酒造の責任感のある危機管理対応は、ピンチをもチャンスに変えてしまう、企業としての芯の強さを感じさせます。今回の自主回収に関しては、6億円を超える費用が発生してしまうようですが、ブランドを守るためには必要な経費であると経営者が決断したことについては、実に聡明な判断であると言えるでしょう。事実、この果断な対応が、消費者とのエンゲージメントを更に強める結果となっているわけですから。

そのため、今回の製造トラブルについても、旭酒造と「獺祭」におけるブランドのストーリーにおいては、一つの転換点として、好意的に将来語られることになると思われます。

旭酒造の「獺祭」とは逆に、ブランドの危機管理対応として、対照的な事例が、同時期に発生しています。それは、台風15号をめぐる千葉県知事の一連の対応です。

「もっと早く来てほしかった」 台風15号上陸から11日 森田知事、鋸南町視察
https://www.tokyo-np.co.jp/article/chiba/list/201909/CK2019092102000157.html森田健作知事が二十日、台風15号の被害が大きい鋸南(きょなん)町を視察した。知事の被災現場視察は十四日の南房総市に続いて二度目。九日の台風上陸から十一日たっており、町民から「もっと早く来て現状を知ってほしかった」との声も聞かれた。

(中略)

森田知事は「町民の皆さんから『どうなっているんだ』と言われるかと思ったら協力的だった。だからこそ、一日も早く回復していかないといけない」と決意を新たにした。案内した白石治和町長は「百聞は一見にしかずだから」と、知事の視察を歓迎した。

一方で、冷ややかな声もあった。視察の様子を見た渡辺君子さん(77)は「瓦がたくさん飛び散って片付けが大変だった。肝心な時に来てくれないで、落ち着いてからではどれだけ大変だったか分からないと思う」と話した。

2019年9月21日
東京新聞Tokyo Web 中谷秀樹氏 署名記事

先ほどの、企業で不祥事が発生した際に行う初期対応としての必須項目を改めて確認し、今回の災害対応についての千葉県知事の動きを確認していきます。

<初期対応必須項目>

  • 早急な謝罪と、原因の特定も含めた、現況で把握していることの一次的な状況説明
  • できる限り精緻な情報を早期に収集し、詳細が確認できた段階での、二次的な詳細説明
  • 迅速な補償対応と、今後の防止策についての三次的な対策説明

まず、についてです。
台風15号が千葉県に大きな被害をもたらしたのが、9月9日の早朝です。
当日は千葉県内のインフラが完全にマヒ状態に陥り、停電や断水の影響で、電車や道路交通も寸断された状態となり、相当大きな被害が発生している可能性が想定されました。

そのような状況にも関わらず、マスコミの報道では千葉県内各地の詳細な様子もよく分からず、そのことに対して具体的に千葉県知事が何らかの行動を示した様子は、今回のマスコミの一連の報道では確認ができませんでした。

前月の大雨による災害が発生した佐賀県では、台風の上陸に備えて対策を準備していた山口知事が、災害発生の4時間後には地域情勢を把握し、早々に政府へ具体的な支援要請を行いました。結果として、自衛隊などの災害救援部隊も迅速に到着し、災害時に最も重要である、72時間以内の初期救援対策を実施し、更にあらかじめ2次災害も含めた事前対応を強化することで、災害規模の割には被害を最小限に食い止めることに成功しています。

福岡、佐賀、長崎に大雨特別警報 2人死亡1人心肺停止
https://www.asahi.com/articles/ASM8X21Q0M8XTTHB001.html

2019年8月28日
朝日新聞デジタル

次に、についてです。
台風15号通過後の影響が、ネットを通じて特に千葉県で深刻な状況であることが伝わり始めたのが、9月10日になってからです。芸能人のサエコさんなど、ボランティア活動に熱心な人たちにより、現地状況の厳しさや悲惨さが拡散され、被災経験をもつ地方自治体による災害支援や県内自治体とボランティア団体などでの支援体制が組まれていく中、千葉県知事の主体的な動静は、この日の報道でも確認できませんでした。

ネットの影響を受けて、千葉県内での災害状況をマスコミが幅広く報道し始めたところ、千葉県知事が記者会見に臨んだのが、9月11日。その時点でも県内の情勢について詳細を把握しておらず、県民に対して初動対応が遅延したことへのお詫びもなく、具体的な支援対策を示すこともなく、それどころか現地で懸命にインフラの復旧活動に奮闘している東京電力を呼びつけて、不眠不休で対応するように恫喝したことを吹聴するという、感情的な対応に終始しています。

南相馬市…「震災時の恩返し」 台風被害の千葉2市へ支援物資
https://www.minyu-net.com/news/news/FM20190914-414888.php

2019年9月14日
福島民友新聞

最後にについてですが、千葉県知事はネットとマスコミによる初動対応の鈍さと、東京電力への威圧的な対応への批判を受けて、県内自治体の意見もきちんと集約できないまま、9月18日にいきなり政府官邸に乗り込み、千葉県の支援を訴えました。この時点で、既に災害発生から9日間が経過しています。そして、この時においても具体的な災害対策や、今後の支援方法は明らかになっていません。

対照的に、災害発生時からSNSなどを通じて市内情勢を把握し、早期に自力で、神戸市などの災害対策経験をもつ他の地方自治体への支援要請を行うなど、千葉市長である熊谷市長の素早い行動力と発信力の高さが目につきました。

千葉市にブルーシート張り作業員120人派遣 市長故郷、神戸市が支援
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190915-00000016-kobenext-l28

2019年9月15日
神戸新聞NEXT

今回の災害が発生するまで、千葉県は全国住みよさランキングで7年連続1位の印西市の存在もあり、定住するには良い地域であるという、良好な地域ブランドのイメージがありました。

最新版!「住みよさランキング2018」トップ50
https://toyokeizai.net/articles/-/225720

2018年6月20日
東洋経済オンライン

しかしながら、今回の千葉県知事の危機管理対応の失敗による結果、千葉県は災害に弱く、復旧対策への対応も鈍いという、今後の地域ブランドのイメージに深刻かつ致命的な悪影響を招くことになってしまいました。おそらく、このことは来年以降もランキングへの影響が負の遺産として残るものだと思われます。

今回、あまりにも偶然のタイミングで発生した、企業と地方自治体での危機管理における最高責任者の姿勢が、旭酒造と千葉県知事では見事に対照的であることは、実に皮肉な事象であると言えるでしょう。

近年では、ブランドの重要性が認知され、需要が高まり、企業だけではなく、地方自治体においてもブランディングが熱心に行われています。しかしながら、攻めのブランディングだけではなく、ブランドを守るための対策も、必ずあらかじめ策定しておかなくてはなりません。それは、企業や地方自治体を救うことにも繋がるためです。

ブランドにおける危機管理対応は、企業だけではなく、地方自治体においても今後は重要度を増していきます。地域ブランドを強化する自治体の首長は、手柄の自己アピールだけではなく、危機管理についても積極的に対応できる人材であることを願いたいところです。

マツダのブランディング戦略は、経営危機後に大幅に進化してきた。マニアの間では熱烈な支持があるものの、全体的な売上は芳しくなく、常に綱渡り状態の経営を強いられてきた。

かつてマツダが経営危機に陥ったのは、技術偏重による開発費用の負担を賄うために、商品構成を大幅に見直し、マルチチャネルを行うため、車種のラインナップを過剰に増加させたことによる、プロダクトブランドへの投資の失敗がきっかけだと言われている。

つまり、幅広く顧客支持を得るため、総花的に大量に商品ラインナップを増やしたために、顧客へ伝えるコーポレートブランドの主張が薄まってしまい、なおかつ個々の車種への販促費用が嵩んだことで、プロダクトブランドへの投資規模も中途半端になってしまった。

その結果、顧客支持を失ってしまい、売れ残った車種が中古車として市場に流れ、ブランド価値を減耗させていくという、悪循環のサイクルにハマってしまっていた。

しかしながら、その後は外資系企業であるフォードの傘下による経営再建を経験したことで、フォード傘下から外れた現在では、元来から保有する高い技術力をどのようにグローバル市場でアピールしていくかという、マーケティングセンスとデザインを、企業として獲得したようである。

現在のマツダは、顧客を絞り、走る歓びを満たすことに注力した車づくりを進めた結果、スポーツタイプのSUVなどでヒット商品を生み出せるような企業体質に変貌を遂げた。

洗練されたセンスにより欧州で評価されることが多いマツダは、確実に企業としての実力を高めている。技術力を生かしたマーケティングセンスを磨きたい企業にとって、マツダの成功は参考となる事例ではないだろうか。

 

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 シニアコンサルタント・認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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