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Case Study

ユニクロ“エアリズムマスク”の社会貢献 ~CSRとCSVとバリューチェーンの関係性を知る~

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2020年に入り、COVID-19ウイルス(通称:新型コロナウイルス)が世界的な流行となり、パンデミックが発生しました。世界各地で深刻な医療用品不足に陥り、特にマスクの供給が圧倒的に不足していたことが、社会的に大きな問題となりました。

そのようななか、多くのアパレルブランドがマスクの販売に乗り出しています。そのなかでもユニクロブランドを展開するファーストリテイリングは、社会的な問題の解決に動き出し、2020年6月に自社保有技術商品である特殊素材を応用した、洗って繰り返し使えるエアリズムマスクの発売を開始。もう既にお求めになられた方も多くいらっしゃるかと思いますが、非常に通気性が良く、猛暑にはとても役立つマスクの一つと認識しております。

ユニクロ エアリズムマスク
https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/feature/airism-mask/



ここで改めて認識をしたいのは、今回のCOVID-19ウイルスによるパンデミック発生で、世界各地で医療用品が不足し始めたのは、2020年2月中旬あたりからです。そこから考えると、ファーストリテイリングでは、企画・開発・試作・製造まで、およそ3か月という驚異的なスピードで市場化の実現に至っているという事実です。
ではなぜ、服を販売するファーストリテイリングはマスクを製造することに至り、そしてなぜそれが早期に実現可能となったのか、経営視点から検証してみたいと思います。その理由に、単なる流行でマスクを販売するアパレルブランド企業とファーストリテイリングには根本的な違いがあることに気づいたからです。単なる金儲けで派生したアイデアではないことをしっかりと経営的側面から確認し、それが企業ブランドとして一貫性があるのか、確認して行きたいと思います。

そこで大事なのが、当該企業が掲げているCSRです。そもそもCSRとは、Corporate Social Responsibilityの略称であり、企業の社会的責任という意味で解釈される概念です。

本業である企業の経済活動について、社会における複数の価値観で公平性を重んじ、コンプライアンスを守ることを重視し、環境破壊にならない方法を模索するなどといったところが、大まかな取り組み内容です。
基本的に、自社の存在が社会に対して問題とならず、ステークホルダーと敵対的な関係に至らないように、国際的な枠組みで経済活動を考えることが求められます。
本業というよりも、本業に関係する諸活動への補助的な対応が主要内容となるため、CSRそのものは企業収益の改善には繋がらないことが多く、企業アピールのためのマーケティングの一環として捉えられることもあります。

また、このCSRに近い言葉でありながら近年多くの企業が戦略的に取り組んでいるCSV(またはCSV経営)があります。CSVとはCreating Shared Valueの略称であり、企業と社会との共通価値の創造という意味で解釈される概念です。
本業である企業の経済活動について、社会と複数の価値観を共有し、そこから新たな経済活動を創造し、そのために保有する経営資源を活用していくことが目的とされます。
基本的に、自社の経済活動そのものが社会に対して良い影響を与え、ステークホルダーと共同して経済活動を行い、企業の成長が国際的な問題解決に繋がることが求められます。

CSVは本業そのものに関係することとなるため、企業収益に影響を与えることも多く、戦略的な目標となり、全社的に展開される傾向があります。結果として企業の差別化や独自資源の開発に繋がるなど、競合他社への優位性獲得に至る可能性もあります。
これらについて、簡単に表にまとめると、下記のようになります。


この様なCSRやCSVを念頭に置きながら、ファーストリテイリングに存在する内部資源(経営資源)を基に、自社でできる問題解決やその方法について、検討してみます。

検討するには様々な方法がありますが、今回はVRIOフレームを用いて状況を整理し、図解化してみました。すると、以下の様なことが見えてきます。

■経済価値(Value)
・ユニクロの特色ある商品として、品質の高い、特殊素材を用いた機能性繊維商品が挙げられます。フリースやヒートテック、エアリズムなど、大ヒットした商品をいくつも保持しています。これらの機能性繊維商品を、比較的安価かつ大量生産できることが、企業としての強みになっています。
また、自社ホームページ内で特設ページを開設して、ユニクロサステナビリティという社会貢献の姿勢を社外に積極的に発信し、自社の行動方針ともなっています。

■希少性(Rarity)
・ユニクロの特殊素材を用いた機能性繊維商品は、高い知名度を持っています。特に品質の高さや、機能性の良さが幅広く社会に浸透しており、商品に対する信頼性も抜群です。

■模倣困難性(Inimitability)
・炭素繊維の開発も担う、非常に高い技術力を持つ素材メーカーの東レと、長年に渉る協業関係を築き、製品開発を行っています。ここで培ってきた技術力を活かし、様々な製品への応用が可能な企画・開発力を確保しています。

■組織(Organization)
・中国の生産拠点が有名なユニクロですが、実際にはインドネシアやベトナム、更にはバングラデシュなど、アジア地域の各地に生産拠点を確保しています。また、店舗も海外で幅広く展開されており、2020年5月時点の店舗数では、日本国内813店舗に対し、海外店舗数は1421店舗となっています。海外のほうが、店舗数としては勝っている状況です。
また、それに伴う、グローバルな調達や物流体制も構築されています。

これらの内容を考慮すると、ファーストリテイリングは今回のCOVID-19ウイルスによるパンデミックに対し、自社の経営資源を用いて社会貢献を行うという、ユニクロサステナビリティによるCSR的な概念が、マスク開発の動機付けになったものと考えられます。
また、それと同時に、今回のマスク開発に伴う、自社保有技術の応用展開先を新たに見つけたことにより、特殊素材の複数商材への展開や、商品アイテムの増大が可能になるという、販路拡大のビジネスチャンスも獲得する可能性が想定できます。
例えば、今後は工場向けの作業着や医療用品を製造することで、BtoB向けの市場にも進出することが可能になったということも想定できます。これは、BtoCを主体として成長してきたファーストリテイリングとしては、更に市場を広げられる意味を表します。
結果として、ファーストリテイリングによる、CSV的概念の実現が可能な状況になったとも考えられるのではないでしょうか。

今回、このような展開が可能となったのは、「ユニクロサステナビリティ」というファーストリテイリングの制定したCSRが大きく関係していることにお気づきになられたのではないでしょうか。

ユニクロサステナビリティ
https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/sustainability/

*この特設ページでは、ファーストリテイリングによる社会貢献活動を網羅的に解説しているのですが、その内容は非常に具体的かつ各所で活動していることを紹介していることで、ファーストリテイリングのCSRに対する企業としての本気さが窺えます。

ホームページ内では、ファーストリテイリングが企業として存在していくためには、社会に認められる企業でなくてはならないという、CSRの概念を意識した内容が多岐に渡り解説されています。しかし、ファーストリテイリングがここまでCSRへの意識を高め、企業内に浸透させるまでには、非常に大きな苦労や失敗があったかと思います。

実際に、ファーストリテイリングも、過去に同業の大手アパレル企業同様に、海外の工場で労働紛争による訴訟が発生したこともありますし、日本国内でも過酷な労働環境という記事が本やネットを通じて広まることで、強烈なバッシングが起きたこともありました。

ただ、それらの失敗や問題を経験することで、ファーストリテイリングとしてのCSRが磨かれていき、それが現在のユニクロサステナビリティという、結果を残すための行動方針に結びついているということも、また確かなことでもあります。勿論、このような試みを実現させるためには、それに合わせてシステム化されたオペレーティングが整備されていなくてはなりません。

そこで、ファーストリテイリングのバリューチェーンを作成し、そのオペレーティングシステムを整理し確認してみましょう。



このバリューチェーンから考えられるのは、ファーストリテイリングにおけるCSR(ユニクロサステナビリティ)は、既に企業の管理部門に対して大きな影響を与える存在となっており、その企業のオペレーティングシステムにもしっかりと浸透していることが窺えます。

更に、今回のCOVID-19ウイルスに纏わる事象への対応により、今後はこのCSR(ユニクロサステナビリティ)にCSVの要素が含まれてくることも想定されます。そうなった場合、ファーストリテイリングのCSRは、CSVとして自社独自資源である戦略的武器にもなり、競合他社への優位性を更に高め、企業ブランド力が昇華していくこととなるでしょう。

このように、CSRは継続的に磨き続けることで輝きを増し、そしてそれにCSVの要素を付加していくことで、企業のブランド力向上と戦略的な武器を創造することが可能になるということが理解できます。
今回、企業の経営資源の整理を行い、戦略を組み直すためにCSRやCSVそしてVRIOフレームを使いながら情報整理を行いました。特に企業の内部経営資源を見直すのに役立つVRIOを上手に活用して整理し、それに伴う最適なCSRやCSVを行い、企業としてのブランド力向上や成長戦略に役立てていただきたいと思います。

BRANDINGLAB編集部 執筆
株式会社イズアソシエイツ

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