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Branding Method

ローソンのスイーツから学ぶブランド・ポジション戦略 ~ 5FORCES分析でコンビニスイーツを考察 ~

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今、どこのコンビニに行ってもスイーツは買えますが、なかでもローソンのスイーツがとても人気が高く、かなり早い時期からコラボ商品なども多く販売しており、新作も次々とヒットとなることで勢いに衰えが見えません。そのため、ローソンがスイーツ新作を発表する度に注目を集めており、それを特集する記事が複数配信され、更にそれが人気を高めるという理想的なマーケティング戦略による拡大効果を得ています。

ローソンの新作コンビニスイーツ特集 – ゴディバ監修のウチカフェシリーズなど一挙紹介
https://www.fashion-press.net/news/52142
(FASHION PRESS ホームページ)

かつてローソンは大きなヒット商品が生まれず、コンビニ業界でもあまり目立たない存在になっていましたが、現在ではローソンブランドの一つである「ウチカフェ」が浸透してきており、もはや「コンビニスイーツといえばローソン」というイメージも定着しつつあります。特に「バスチー」はSNSマーケティング戦略を用いたことで、非常にバズったヒット商品として話題になりました。

バスチー -バスク風チーズケーキ-
https://www.lawson.co.jp/recommend/original/detail/1390537_1996.html
(ローソン ホームページ)

このバスチーは、様々な派生商品・類似商品が同業・異業態問わず乱立するほどの大ヒット商品となり、ローソンのコンビニスイーツが社会に浸透する大きな起爆剤となったともいえる商品の一つです。

では、なぜローソンはこのようにヒット商品を発信できるようになったのか。それは、外部環境を分析して時代の波を捉え、それに対してきちんとブランド戦略を実行したことにあるでしょう。もう古い話にはなりますが、かつてコンビニスイーツでは競合として大きな存在感を持つ商品がありました。それは、サークルKサンクスのスイーツブランド「シェリエドルチェ」です。2007年11月に立ち上げられた「シェリエドルチェ」は、“わたしに、ご褒美。”をブランド・コンセプトに、忙しい毎日を頑張る30代女性をメインターゲットとしてブランディングを行っておりました。

サークルKサンクス独自のスイーツブランドが全面刷新!
https://www.walkerplus.com/article/65924/
(Walker+ ホームページ)

「シェリエドルチェ」ブランドは、これまでの「コンビニスイーツはイマイチ美味しくないし、包装デザインも見た目も可愛くない」という概念を変える程の品質であり、写真の「濃厚焼きチーズタルト」を含めた複数のヒット商品を生み出しました。この成功により、コンビニスイーツといえば「サークルKサンクス」というイメージが幅広く浸透し、熱烈な支持者となる顧客を獲得するまでに至りました。また、シェリエドルチェの成功により、消費者の間ではコンビニでも独自性のある美味しいスイーツが24時間いつでも買えるという認識が定着し、コンビニでスイーツを買うということに対して抵抗感や違和感が無くなったと言えるでしょう。

しかし、その後周知の通りサークルKサンクスはファミリーマートに2016年9月に買収されて経営統合することとなり、それに併せて2018年11月29日に「シェリエドルチェ」ブランドも完全に消滅しました。その結果、「コンビニスイーツといえば…●●●」という、顧客需要を埋める企業が空白地帯となったという訳です。
そこで、その隙間を上手くついて、コンビニスイーツ需要を獲得したのがローソンです。

この当時、競合のセブン-イレブンは、コンビニ以外の業態でも販売できる、セブンプレミアムのアイテム拡大による幅広い展開に注力しておりました。また、コンビニ事業においても、スイーツではなく、どちらかというとコーヒーや惣菜等の改良を進めているところでした。
また、サークルKサンクスを吸収したファミリーマートは、経営統合とブランド統合に注力しており、なおかつ経営統合時に「シェリエドルチェ」ブランドと商品アイテムを完全消滅させたことで、既存ブランドのファンであった顧客からの反発を招いていた状況です。

その結果、特定のイメージ感を与えず、商品戦略を柔軟に設定できるローソンが、比較的早く動くことができたという事情も推測できます。

これらについて、ローソンの立場から5FORCES(ファイブフォース)を使って検証してみたいと思います。

前述の通り、2016年時点ではコンビニスイーツはサークルKサンクスの「シェリエドルチェ」ブランドが先行して高い支持を獲得しており、参入障壁が厚い状況にありました。そのため、ローソンが経営資源を投入しても、「シェリエドルチェ」ブランドと同等以上に戦えるようになるまでには、時間も費用も相当な投入が必要になる可能性のある状況でした。
しかし、2018年の経営統合による「シェリエドルチェ」ブランド消滅によって、ローソンにとってチャンス到来。最大の参入障壁が無くなったことを意味します。

先述の通り、他のコンビニ業界の競合はスイーツへの経営資源の投入量が少なく、ローソンとしてはここへ経営資源を注力する意義が生まれた状況となったことが推測できます。
そのため、ローソンはこの好機を逃さず、シェリエドルチェのファンである顧客層を自社の「ウチカフェ」ブランドへスイッチさせ、顧客層の取り込みに成功したところではないでしょうか。

このような経緯の結果、2020年時点でのローソンの状況は次のように変わるのではないでしょうか。

そして、これまでのローソンをマーケティングの競争地位戦略にある4類型に当てはめると、
2016年は、成功を模索する立場。(チャレンジャー)
2018年は、市場を獲得していく立場。(フォロワー)
2020年は、成功して追われる立場。(リーダー)

となるのではないでしょうか。コンビニスイーツカテゴリに関して、ローソンの立場と状況はこの数年で大きく変化していったことが推測でき、これはローソンが外部環境に非常に上手く適応した結果、成功を収めることができたということではないでしょうか。また、外部環境の変化に対して、打ち手として行った戦略が奏功したというところでしょう。

今回の考察ポイントは、自社の内部環境を鑑みて、マーケティング戦略やブランド戦略を立て、強みを生かすブランド・ポジションで戦うのは戦略の定石ですが、今回のローソンのように、外部環境の変化に対して自社を変化させて対応していくというのもブランド・ポジション戦略の一つであるという点です。これが頭で分かっていてもできないのが組織ですよね。ぜひ、自社の内部環境・外部環境の変化を考慮し、柔軟性を持って好機に素早く対応できる企業体質と、組織体制が確立できるブランド経営を目指してください。

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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