Case Study

吉本興業は、再建できるのか 急拡大する「ブランド」のコントロールの難しさ

投稿日:2019年9月4日 更新日:

闇営業問題の発覚以来、吉本興業が揺れています。

「闇営業」発覚~吉本興業・岡本昭彦社長会見【時系列まとめ】

https://www.oricon.co.jp/news/2140653/full/

Oricon News 2019/7/22

今回の件に関しては、諸説入り乱れて問題の収束点がいまだ見えていない状況です。この稿では問題の是非について論議するものではありませんが、企業としての対応に難しさがあったという点は否めないものがあります。

今回の吉本興業に関しての問題点は複数あるかと思いますが、そのなかでも他人事とは片付けられないことがあります。それは、ブランドのコントロールの難しさです。

吉本興業は、今では全国区の企業ではありますが、元々は大阪を地盤とする、地方の芸能事務所の一つでした。現在では、全国で幅広くビジネスを展開していますが、祖業は大阪の劇場を拠点とした、BtoC型のエンターテインメント企業だったということです。

それが、事業の拡大に合わせていくに連れて、BtoC(寄席や劇場等に通う、一般客向け)よりもBtoB(出版、テレビ、ラジオ等の各種メディア向け)企業としての側面が強くなっていったという見方ができます。結果として現在の吉本興業は、さまざまなメディアで頻繁に目にし、毎日のように吉本興業の芸人が何らかのメディアに出演するという状況になっています。

これは、何度も東京進出を図ったものの、失敗してしまったことに対し、テレビ等のメディア関係者との関係を強化することで、ようやく東京に土台を築くことに成功したという、歴史的経緯が影響しているのかもしれません。

「吉本興業」という、大阪では絶対的なブランドが、東京ではまるで受け入れられなかった。しかしながら、メディアとの関係を地道に開拓し、人脈を構築することができたから、ようやく成功することができた。そのような過去の成功体験が、吉本興業という企業のなかには、現在も必ず存在しているはずです。

そのため、常にBtoB(メディア)の関係を優先し、BtoC(一般客)の視点が薄くなってしまい、今回の対応が後手に回ってしまったのでしょう。これは、他の業界においても、BtoB企業で何らかの不祥事が発生した際の対応が、BtoC企業に比べて、どうしても慎重かつ遅くなりがちな点と酷似しています。つまり、現在の吉本興業は、他のBtoB企業と同様な企業構造となっているということです。

しかし、吉本興業は実際には一般客からの支持がないと、企業として成立することができません。なぜならば、吉本興業の主要顧客であるメディアは、一般客が主要顧客であり、そこからの支持を失うと企業の存続が不可能になるためです。そのため、今回のように吉本興業で不祥事が発覚した場合、メディアは吉本興業の芸人を起用することが難しくなります。主要顧客である一般客からの支持が得られないためです。

つまり、実際には吉本興業はBtoBではなく、BtoBtoC企業としての視点が必要だったということになります。ここの吉本興業の企業としての認識の相違が、今回の不手際につながってしまったところが、非常に大きいと思われます。

吉本興業は、一般客の支持のおかげで成り立っているということを深く理解していれば、すなわち劇場を起点とした創業時からの苦労を知っている経営陣がいたときであれば、今回のような泥沼の事態は防げたのかもしれません。

現在の経営陣は、メディア対策は得意分野なのでしょう。実際には、経営陣が考えている以上に、「吉本興業」というブランドが社会に与える影響が大きかったため、メディア対策を行うだけでは企業としての存立が保てなくなることについて、想定ができなかったのでしょう。

もしかすると、今回の大騒動によって、自分たちの企業としての影響力の大きさに対して一番戸惑っているのが、実は現在の経営陣なのかもしれません。会見時の拙さや、社内体制の不備を考慮しても、自社が既に大手企業であるという自覚が不足していた可能性が感じられます。

このように、ブランドをコントロールすることの難しさは、たとえ業界でトップクラスの企業であっても変わらないということです。

売上・粗利金額といった数値は、各種数値を計算して確認することができますが、ブランド価値というものは、数値で表すことが実際には困難なものです。

そのため、自社のブランド価値を算定し、正しい見識をもっておくことは、今後の企業のリスク管理においても、欠かせない視点となっていくでしょう。

 

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 シニアコンサルタント・認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

関連記事

ローカル線は廃線の道を辿るしかないのか?銚子鉄道から学ぶ、弱者の生き残りマーケティング戦略

地域経済の足となってきたローカル線ですが、一時的なローカル線ブームも落ち着き、人口減少に伴う利用者不足の影響により、廃線となる路線が再び増えてきています。 石勝線夕張支線が126年と5か月の歴史に幕… …

コロナ時代 ブランドの「選択と集中」で経営革新 <後編> ~資生堂 パーソナルケア事業ブランドを売却~

前編では、資生堂の日用品(パーソナルケアブランド)事業の売却は、「選択と集中」によるブランド戦略展開であるという結論付けを行いました。後編では、「選択と集中」というブランド戦略が正しいのかを検討してい …

印刷会社の2つの変革事例~MSPとBPO~

前回のコラム「印刷会社が進むべき16の事業領域」では、印刷業界ではビフォーコロナの時期から主に「マーケティング・サービス・プロバイダー」(MSP)と「ビジネス・プロセス・アウトソーシング」(BPO)の …

ブランド野菜の地域ブランディング~嬬恋村のブランドキャベツ~

キャベツで有名な嬬恋村で、今年も話題のレースが開催されます。 今年も“キャベツ感”がスゴい!毎年話題の参加賞、遂に公開! 「嬬恋キャベツヒルクライム2019」参加者募集中 8月2日まで サンケイスポー …

「+J」に見るユニクロブランドの成長

かつてユニクロとファッションデザイナーのジル・サンダー氏がパートナーシップを結んで立ち上げた「+J」が、2020年秋冬モデルを発表し、復活しました。 ユニクロ +Jコレクション https://www …

サイト内検索

ブランド・マネージャ―認定協会サイトへ

Chess
ファイブフォース分析とは!?〜マクドナルドを例に解説〜
打ち合わせ
CI、VI、BIの違いとは?
ブランディング
ブランディングとは? 「基本的な意味と進め方」について解説!
キャリアウーマン
ペルソナ設定〜Soup Stock Tokyoの「秋野つゆ」の成功事例からみるペルソナの作り方とは?
印刷会社が進むべき16の事業領域~アフターコロナ時代を見据えて~
スターバックスの店舗
【誰にでもわかる!?】スターバックスから学ぶ3C分析
マクドナルドとモスバーガー
マクドナルドとモスバーガーの比較から見るブランドにおけるポジショニングとは?
オンデーズの店舗イメージ
「オンデーズ」はメガネ業界のZARAとなるか? 〜JINSとは一線を画すファッション路線〜
ブランド
はじめてでもわかる!ブランド・アイデンティティとは
自社の採用ブランドの問題点を特定する