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トヨタ「終身雇用を守るのは難しい・・・」~日本企業の正念場 コーポレート・ブランドとスチュワードシップ・コードの相克~

投稿日:2019年5月20日 更新日:

日本自動車工業会・豊田章男会長:「なかなか終身雇用を守っていくというのは難しい局面に入ってきたのではないかと」

トヨタの豊田社長は業界団体のトップとして、終身雇用について「雇用を続けている企業にインセンティブがあまりない」などと述べ、今のままでは継続は難しいとの認識を示しました。一方、中途や派遣の社員が増えているとして、「やりがいのある仕事に就けるチャンスは広がっている」と述べました。終身雇用を巡っては、経団連の中西宏明会長も「終身雇用なんてもう守れないと思っている」と発言しています。

TV ASAHI NEWS 2019/5/14
「終身雇用守るのは難しい」トヨタ社長が“限界”発言

先日、経団連が終身雇用の放棄を宣言して波紋を広げたが、日本を代表する製造業であるトヨタにおいても今回は同様の見解を述べた。米中を巡る貿易摩擦の先行きは依然として見通しが立たず、BREXIT騒動によるヨーロッパの混迷も治まらないなかでは、経営者としては厳しい発言をせざるを得ない状況である。

トヨタ社長の豊田章男氏は、創業一族出身でMBAホルダーという学位をもつプリンスのような経営者だが、リーマンショックの直後に社長に就任し、リコール問題や東日本大震災というトヨタの経営危機をいくつも乗り切り、非常に困難な局面を打開し続けたとてもタフな経営者である。ましてやBtoC企業であるがゆえに、自身の発言と行動は消費者からダイレクトな反応を受けやすい中、今回は覚悟をもって意見を表明したのであろう。
しかし、この発言の裏にはスチュワードシップ・コードも関係しているのではないだろうか。

スチュワードシップ・コードは、リーマンショックの反省により生まれた金融機関と機関投資家向けのガイドラインだが、このガイドラインが普及した結果、投資先企業の経営について厳しい意見を表面する傾向が強くなっている。世界規模で経営を行うトヨタは、このガイドラインを遵守しなくてはならない環境下にある。つまり、予見されうる危機を回避して、最大限の収益を追求することを意識しなくてはならないということである。しかし、「企業の利益最大化 = ブランド価値最大化」ではないところが、経営者としては悩ましい点かと。

今回の論点となった“終身雇用”は日本独特の文化であり、トヨタのように世界規模の経営を行う企業においては限定的な影響しか受けないと推測もできるが、反面、日本国内においてコーポレート・ブランドの価値がマイナスに働き低迷した場合、海外での販売においても影響を及ぼすことも想定されうる。なぜなら、ビジネスにおいてBtoB企業の場合、消費者の反発を受けたとしても影響は限定的だが、BtoC企業においては直接的な企業収益に直結する可能性が高い。お膝元である日本での評価の低い企業の商品を、果たして海外の顧客が積極的に購入するかは疑問である。

企業経営において収益を上げるには、事業内容に関係なく共通事項が存在する。それは、売上高を増やし、原価を下げること。しかし、ブランド価値を上げるためには、前述のような普遍的な収益法則が存在せず、各企業の事業内容や文化的背景、社会環境など様々なものを考慮して取り組みを行わなくてはならない。様々な危機を乗り越えてきた実績のあるトヨタ経営陣が、今回のコーポレート・ブランドとスチュワードシップ・コードの相克をどのようにバランスをとって解決させていくかは、今後の参考事例になるのではないだろうか。

 

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 シニアコンサルタント・認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント

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