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鉄道利用者の増加と沿線ブランド

投稿日:2019年6月28日 更新日:

利用者を増やしている鉄道会社はどこか。日本民営鉄道協会では大手私鉄16社の輸送人員を定期、定期外に分けて発表している。この10年分(2009~2018年度)をまとめた輸送人員の推移から、興味深い事実が浮かび上がってきた。

まず定期利用者から見ていこう。2009〜2018年度の伸び率ナンバーワンは阪神電鉄。2009年度の輸送人員を100とした場合、2018年は131.1となる。

伸び率が高い理由は2009年の阪神なんば線全線開業で尼崎と大阪難波間が結ばれたこと。

(中略)

また、大阪難波では近鉄奈良線との相互乗り入れも実現した。このため、近鉄沿線の利用者が神戸に向かう場合も、阪神線を選択するケースが増え、これが阪神の伸び率トップにつながっている。阪神電鉄の秦雅夫社長は、「輸送人員の増加のうち、沿線力の向上によるものが3分の1、残り3分の2がなんば線開業効果」と語る。

(中略)

最後に、定期と定期外を合計した輸送人員の伸び率も挙げておく。1位阪神、2位東京メトロは、定期、定期外とも好調とあって、断トツの伸び率だ。

関西ではすでに人口は減少期に入った。東京圏は2035年頃まで人口が増え続けるとみられているが、それ以降も人口が伸びるエリア、人口減が2035年よりも早く訪れるエリアと、濃淡は確実にあるだろう。鉄道各社は現在さまざまな沿線活性化の取り組みを行なっている。その積み重ねによって、10〜20年後の鉄道会社の勢力図を変えるはずだ。

東洋経済ONLINE 2019/06/24
10年で利用者「伸び」1位、意外な大手私鉄の名前
16社の定期客・定期外客の増加率を比較

東洋経済ONLINEの記事は利用者の伸びの要因として、主に相互乗り入れや新路線の開業、マクロ環境を挙げている。引用した阪神電鉄の定期利用者もそうだが、定期利用者の伸び率2位の東京メトロは東日本大震災が起きた2011年を底に伸びており、その後の雇用環境の改善が影響したと見られている。同じく3位の名古屋鉄道は、三河地区に集積する「トヨタ自動車の好調が高い雇用を生み、それが定期券利用者の増加につながっている」そうだ。

しかし当サイト「ブランディングラボ」が注目したいのは、やはり「沿線ブランド」の力だ。鉄道沿線にもブランドがあり、「沿線ブランド」が消費者・顧客の行動に影響を与えている。定期利用者の伸び率4位の東急電鉄については、引用した記事も「東急沿線の高いブランド力を考えると、この順位は当然」と評価している。

当サイトでも以前、沿線ブランドを取り上げたことがある。

住みたい街ランキングの陰に「沿線ブランド」の力あり~阪急電鉄の沿線ブランディング

この記事では、阪急電鉄がいかにしてその「沿線ブランド」を育ててきたかを概観した。阪急電鉄が「沿線活性化」のために、現代ならばブランディングとも呼び得る施策を昭和時代から一貫して、継続的に、意図的に展開してきたことが見て取れた。

沿線の資源を活用し、あるいは新たな資源を創り出し、沿線ブランドの価値を高めることは可能だ。定期外利用者ワースト2位は、「沿線にある太宰府は新年号『令和』のゆかりの地ということで、4月以降観光客が急速に増えている」。同じくワースト3位の西武鉄道、4位の京王電鉄は、それぞれ秩父、高尾山という人気観光地を抱える。これら観光資源の活用次第では順位を挽回することも可能だろう。

沿線活性化の取り組みは、「ハード」型(箱もの建設)から「ハードとソフトの組み合わせ」型(子育てや介護などソフト型のビジネスとの組み合わせ)に転換しつつあるともいわれている。加えて、インスタグラムやツイッターなどのSNSで「バズる」現象は昭和時代には存在しなかったものだ。今後、どんな形の沿線ブランディングが展開されていくのか、引き続き注目していきたい。

 

BRANDINGLAB編集部 執筆
株式会社イズアソシエイツ

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