Case Study

コロナ禍、コーポレートブランドのリブランディングに成功したアルペン  ~ 業績改善に貢献するコーポレートブランド再構築を知る ~

投稿日:2021年4月9日 更新日:

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、アウトドアやゴルフなど、密を避けられるレジャー・スポーツの需要が拡大。
中でも、スポーツ・アウトドア関連用品の販売を手掛けるアルペンの業績がここのところ急ピッチで改善している様子がうかがえます。

アルペン大躍進、純利益3.3倍 背景に「密」回避の“2大レジャー”
*アルペンが2月4日に発表した2021年6月期第2四半期(20年7~12月)連結業績は、純利益が前年同期から3.3倍の78億2900万円だった。
売上高は1205億3900万円(前年同期比5.0%増)、営業利益は110億9200万円(前年同期の3.3倍)。

キャンプ関連の需要が20年夏以降、高まっている他、アウトドアに特化した専門店「アルペンアウトドアーズ」が好調。在宅勤務の拡大に伴い、健康意識の高まりなどもあって、スポーツアパレルの需要も伸びた。

ゴルフ用品も売り上げを大きく伸ばしたという。アルペンは「(キャンプ同様)密を避けられるスポーツとして、ゴルフ市場が活況となっている」と指摘。主要メーカーと協業して販促企画、売場演出などを強化し、需要を取り込む。

また、在庫水準を圧縮し、処分販売が減少したことで、売上総利益率を改善。新型コロナの感染拡大を契機に、人件費や販売促進費、広告宣伝費なども見直し、営業利益も大きく伸びた。
21年6月期(20年7月~21年6月)通期の連結業績予想は、売上高が前期比7.8%増の2350億円、営業利益が前期から3.2倍の133億円、純利益が84億円のまま据え置く。
(2021年2月4日 yahooニュース ITmediaオンライン 配信記事)
https://toyokeizai.net/articles/-/260038

この記事の通り、アルペンの外部環境で起きているコロナ禍を脅威と捉えず機会捉え、対策に取り組むことで業績改善となりましたが、それ以前から取り組んでいたコーポレートブランドの強いリブランディング意識によるイメージ転換がなければ、恐らくここまでの業績改善には至っていないでしょう。

かつてアルペンは、スキー・スノボに強い会社というブランド・イメージでした。
それゆえに大成功を収めた時代もありましたが、スキー・スノボ人口が減少するにつれて、段々と業績が悪化。

その結果、2019年には大規模なリストラ(45~64歳未満の社員を対象に、社員<アルペンと子会社ジャパーナ>の約1割に相当する300名程度の希望退職者を募集すると発表)に踏み切らざるを得なくなるなど、企業としての隘路に立たされる状況になっていました。

アルペン、突然300人リストラに至った裏事情
アルペンと言えば、1972年に名古屋市でスキーのプロショップとして設立以降、スキーブームともに成長してきた会社だ。テレビCMの影響もあって、社名を聞くと冬のゲレンデを連想する人も多いだろう。ただ現状、スキーやスノーボードなどウィンタースポーツ用品のグループ全体の売り上げに占める割合は5%未満。過半を占めるのは、野球、サッカー、スポーツアパレル、アウトドアなど一般スポーツ用品だ。
(2019年1月14日 東洋経済オンライン 中野美絵子氏署名記事)
https://toyokeizai.net/articles/-/260038

この記事からも明らかなように、実際の売上高構成比に占める割合は5%以下に留まっているにもかかわらず、消費者からはスキー・スノボ関連企業だというブランドのイメージ落差が、業績悪化を招いた部分は否めません。
それぐらいインパクトがあり、消費者に認知されたブランドの強いイメージは、そう簡単には転換できないというのも事実でしょう。

実はこの点については、過去のコラム記事にて配信したことがありますので、そちらもご覧ください。



アルペン 新業態による新たなるブランド・イメージの形成

https://www.is-assoc.co.jp/brandinglab/bralabeye67_alpen
(2019年5月10日 ブランディングラボ 配信記事)


 

改めて、商品やサービスには、需要が急激に伸びたり、逆に衰退したりという、時間が経過するにつれて徐々に変化していく傾向があります。
これは、一般的にライフサイクル理論と呼ばれており、図で表すと下記の通りになります。

 

アルペンの場合も、まずはスキーの需要が伸びて成長期に入り、スキーの需要が減少するのに合わせてスノボの需要が伸びたということで、上記のライフサイクル理論に上手く乗ることができたのでしょう。
実際にこの時期、アルペンのCMは販促効果が抜群で、未だにCMで使用されていた曲が流れると、アルペンを思い浮かべる人も多いのでは。(笑)

すなわち、ブランドのイメージが強く消費者の中で固定化されてしまうことで、そのイメージを容易に転換できないという事実です。この事実にアルペンは、成功裏の後遺症として長く悩んでいたと想像がつきます。

 

 

では、アルペンのスキー・スノボブームが全盛期の頃の時代背景を超簡易PEST分析で表してみます。

 

この時期は、バブル経済とその崩壊の後ではあるものの、本格的な不況までには至らず、まだ日本全体が浮かれムードの中にありました。

スキー・スノボは恋愛ツールとして、または仲間同士のレジャーとして利用される傾向にあり、まさに日本経済同様の高単価・大量消費で需要が賄われていた訳です。そのため、実用性よりもデザインやブランドが重視され、周囲に見せることが目的の見栄えのする商品が大量に氾濫していました。

 

では、現代の日本の時代背景を改めて超簡易PEST分析で確認してみます。スキー・スノボ全盛期の1990年代と比較すると、どのように変化しているのでしょうか。

2020年あたりになると、集団行動は少なくなり、個人での活動がメインになります。
感染症問題の影響を受けた近年は尚更その傾向が強く、多様化した価値観と相まって、個人でマニアックに楽しめるもの、実用的なものが受ける時代に変化しました。

実際に、芸能人の動画配信で人気となったコンテンツが、一人キャンプを紹介したものです。キャンプは集団で騒ぐものであった1990年代から変貌し、2020年では、孤独に趣味として行うことが、こだわりでありカッコイイと称賛されるように時代が変化しました。

アルペンは、時代の変化をきちんと取り入れており、商品構成も整えていたにもかかわらず、消費者とのブランドのイメージがずれていたために成果が生まれにくくなっていたのです。

そのためアルペンが行ってきたのが、以前のコラム記事でも紹介したような、大規模店舗の大幅なリニューアルです。
小売業において地域の大規模店舗、特に旗艦店と呼ばれる店舗は、その企業のコーポレートブランドのイメージに対して決定的な影響を与えます。その理由は、旗艦店はその小売業の最も理想とする店舗を消費者に提示することになるためです。
逆に言えば、ここで失敗した場合、企業のコーポレートブランド対策を再検討する必要があるでしょう。

 

それではここで、今回アルペンが目指したポジショニングを改めて図に表してみます。

 

アルペンとしては、これまでのコーポレートブランドのイメージである、スキー・スノボの専門店から、スポーツやアウトドアに興味を持つレジャー層全般に対して働きかけることで、需要規模を拡大させていきたいという狙いです。

ここで用いるのが、ブランド体験価値の設計ですが、今回は消費者の心理側面をAIDMAに沿ってなぞってみたいと思います。

このAIDMAを仮定し、ブランドとして一貫性ある体験価値が経験できる店舗を徐々に増やし、途中からはドミナント戦略で消費者のコーポレートブランドのイメージ塗り替えを加速させます。
最終的には全般的に店舗形態を改装することで消費者に統一されたイメージを浸透させる(=企業が意図するコーポレートブランドのイメージへと変換させる)ことが可能になっていくのではないでしょうか。

 

今回のアルペンの業績回復は外部環境への適合だけでなく、過去の成功裏にある後遺症からの回復を潜在的な危機意識として持ち、小売業特有の地道な努力を積み重ねたことで成り立っているかと思います。

スキー・スノボではなく「総合レジャー企業」として、消費者への間口と接点が広がったことで企業としての規模が拡大し、なおかつ事業ポートフォリオが構成できたことで、地力がついて安全性が高まったのではないでしょうか。
こうなると、一過性の要因による業績悪化というのは、今後は起こりにくい企業体質になったと言えるでしょう。

 

コーポレートブランドのリブランディングによるイメージ転換は、成功裏にある強く固定化されたイメージがあるほど難しいですが、入念な準備と地道な努力を積み重ねて消費者へ浸透させていくことが肝要です。

新サービスや目新しい販促施策で一発逆転を狙うのもいいのですが、それだと一過性の業績回復や一発屋的な成長で終わってしまい、地力がついていないために長続きがしません。
企業の足腰、体幹を鍛える意味でも、コーポレートブランドのリブランディングによるイメージ転換はコツコツと行っていくことが大事であることを認識していただければ幸いです。

 

 

 

 

 

 

 


■武川 憲(たけかわ けん)執筆

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。
現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。

https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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