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Case Study

“シン”・ブランド戦略 コロナ禍に見た飲食業界の起死回生 ~ ゼンショーグループ 店舗ブランド・コラボレーションによる新規顧客獲得作戦! ~

投稿日:2021年4月20日 更新日:

 

消費者の購買行動は、心理変化を時系列に表すAIDMAを使いながら確認していきます。
AIDMAは既にお馴染みのフレームワークですが、念のため簡単におさらいしておきます。下記のような顧客導線を作り上げる、マーケティングフレームワークです。

ここで重要となるのが「対象となるお客様」、すなわちターゲット顧客であり、どのようなターゲット顧客なのか、また、そのターゲット顧客がどのようなブランド体験価値を経て、コラボレーションしている別店舗へ足を運び、巡りたくなるかを考えなくてはなりません。

それは意図的にブランド体験価値を設計しないと、シナジー効果が発揮できないことを意味します。
今回のゼンショーグループの店舗ブランド・コラボレーションは、「エヴァンゲリオンのファン」という共通点を持つターゲット顧客を対象に展開するという、非常に明確なものであるため、先述したようなクロスマーケティングの壁にぶち当たることなく進められそうです。なので、ターゲットは誰?と言われて、「エヴァンゲリオンのファン」というグループ間でどこでも理解がしやすいターゲットであることが想像できます。

また、お互いのチェーンストアで顧客を紹介し合うことで、自然と顧客の相互誘導が行われ、店舗の売上にプラス効果が期待できますので、グループ内でも協力関係ができやすくなっているはずです。
更に、昨今の企業でチカラを入れているオンラインストアでも、オリジナルグッズを販売することで、近隣にゼンショーの店舗が無い顧客に対しても、ゼンショー商品の購入を働きかける導線(ブランドタッチポイント)が設計できるでしょう。

 

このようなことを前提に置き、AIDMAではどのように変化していくか検証してみます。



1.情報を見て、商品を知る(Attention)

  エヴァンゲリオンのファンがゼンショーグループの店舗でコラボレーションを行っていることを知る。

2.商品を知った消費者が興味・関心を持つ(Interest)

 それぞれの店舗ブランドでどのようなキャラクター商品があるか、調べ始める。

3.感情的に商品が欲しくなる(Desire)

 推し(熱心な応援キャラクター)のキャラクター商品を試したくなる。

4.商品やブランド名を記憶する(Memory)

 どの店舗ブランドを利用すればいいのか確認し始める。

5.行動・購買する(Action)

 実際に店舗へ訪問し、商品を購入する。
 内容に満足できれば、他の店舗ブランドにも訪問して、全キャラクター商品を試してみたくなる。
 また、オンラインストアにも訪問し、オリジナルグッズを購入することも検討する。


 

今回のコラボレーションは、ゼンショーの5つの店舗ブランドとオンラインストアで展開しています。そのため、全キャラクターを制覇するためには、必ずこれらの店舗ブランドを訪問しなくてはなりません。また、オリジナルグッズが欲しければ、オンラインストアも利用することになります。

これが、ターゲット顧客への誘導であり、カスタマーサクセスへのシナリオとなります。
それまで、「すき家」で牛丼を食べるけど、「ココス」には行かなかったお客様も、今回の店舗ブランドのコラボレーション企画をきっかけに、「ココス」を利用する機会が得られます。
その逆もまた然りです。

つまり、「エヴァンゲリオンのファン」という共通点を持つターゲット顧客を対象として商品設計することで、食品のカテゴリー嗜好が異なる顧客に対しても、マーケティング活動を行うことが可能になっているということになります。

従来であれば、牛丼の利用顧客とファミレスの利用顧客では、年齢層や性別も異なりますし、利用目的も異なります。そのため、グループとしてのマーケティング施策は、チェーンストアのブランドごとにバラバラに行わざるを得ず、販促施策も既存顧客の活性化はできるものの、新規顧客の獲得には繋がりにくいという欠点がありました。

一般的に、架空のターゲット顧客像を設計する際に、ペルソナを設定するケースもありますが、その粒度は非常に千差万別で、マーケターの方にとっては永遠の課題ではないでしょうか。
その点、今回はさほど精緻的に設計したターゲット顧客ではなく、ある意味分かりやすいターゲット顧客であったのかと思います。

感染症問題の解決まで、道半ばの中でも企業としての活路を見出すためにはまだまだ創意工夫が必要な状況です。生き残りをかけた試みが続きますが、自社の保有資産であるブランド力を有効活用し活性化させていくことも、事業継続のためには欠かせない施策となります。

ホールディングスという経営形態は、個社で独自に動ける自由を各社に与えると同時に、グループシナジーを生むための戦略方策も常に念頭に置いておかなくてはなりません。
個社のコアコンピタンスとグループとしてのブランド力を併せ持つ複眼的思考で戦略的ブランド経営を行うことで、独自性のある競争優位が確立できるのではないでしょうか。

 

 

 


■武川 憲(たけかわ けん)執筆

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。
現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。

https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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