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Case Study

クラフトビールシェアNO.1「ヤッホーブルーイング」のブランディング術 〜社員もファンもチームの一員へ〜【前編】

投稿日:2017年8月10日 更新日:

ヤッホーブルーイング

今回は、クラフトビールブームの先駆者で、日本を代表するクラフトビール「よなよなエール」を生んだ、ヤッホーブルーイング(以後ヤッホー)のブランディング術を紹介します。

8期連続赤字からクラフトビールシェアNO.1へ

ヤッホーが創業したのは1996年。星野リゾートの子会社として星野佳路社長が社長を兼任するかたちで、星野リゾートのお膝元、軽井沢でスタートしました。

創業当時、1994年に行われた酒税法改正で規制緩和がなされ、年間60キロリットル以上のビール生産で醸造免許を取得できるようなったことで小さな醸造所が急増。
90年代後半には「地ビール」ブームが起こり、ヤッホーが1997年から販売を始めた「よなよなエール」も、その恩恵を受け品切れ状態が続いていました。

ところが、2000年頃から地ビールブームに陰りが見え始め売上が下がり始めました。この時期をヤッホー社内では「冬眠期」と呼んでいます。コンビニに流通させても売れ行きが伸びず、大量に余ってしまったビールを捨てていたこともあり、冬眠期を含め創業時より、8期連続の赤字が続いていました。

売り上げ推移

その後、上図の通り2008年以降は右肩上がりに収益を伸ばしており、現在では全国で200社以上あるクラフトビールメーカーの中でシェアNO.1を獲得するまで成長しました。

このヤッホーの逆転劇について、ブランディングとチームビルディングという2つの視点から見ていきます。

ヤッホーのブランディング

ヤッホーのブランディングの特徴としては、次のようなものがあります。

  • 100人に1人のファンを大切にしている
  • 個性的な商品
  • 企業風土も個性的

100人に1人のファンを大切にしている

まず戦略として決めたのはニッチ市場で勝負するということ。
大手メーカーが9割近いシェアを占有する中、新規参入で同じようなポジショニングを取ることは賢明ではないと判断し、新しく個性的であることを目指しました。現社長の井手氏は次のように話します。

一〇〇人に一人でも、大ファンになってくれるのであれば、そこには参入する価値がある。
一〇〇人のうち九九人が「いつものビールでいい」と思うなか、たった一人だけ「あれじゃなきゃダメだ」と思ってくださる製品であれば、出す価値があるんです。

(出典:「ぷしゅ よなよなエールがお世話になります
―くだらないけど面白い戦略で社員もファンもチームになった話」出典先は以後同様)

個性的な商品

ヤッホーが生まれたのは、星野リゾートの代表である星野氏が、アメリカ留学時にマイクロブルワリー(小規模なビール会社)のビールに出会ったことがきっかけで、マイクロブルワリーの成長と日本にはまだ浸透していなかった「エールビール」に可能性を感じていました。

世界には100種類以上のビールがある中、日本ではのどごしとコクがあるラガービールが主体でした。しかしエールビールはフルーティな香りと深い味わいが魅力のビールです。(どちらも、麦芽とホップから作りますが、酵母と発酵のさせ方で味の違いを出しています。)

開業するにあたっては、ブームになっていた「地ビール」に留まらず、日本に新しいクラフトビールを根付かせるという意気込みから、初期投資10億円(当時の年商の半分程度)をかけた醸造所を軽井沢に新設しています。

ニッチ市場に合わせていくためには「市場のルールも自分たちでつくる」ことが必要でした。商品開発においても、「エールナンバーワン」という初期のありきたりな商品名から、「夜な夜なエールビールをゆっくり味わってほしい」という作り手の想いを込めた「よなよなエール」へと変更。1997年にヤッホー最初の商品として販売されました。

ヤッホーの商品一覧

■よなよなエール
タイプ:アメリカン・ペールエール
特徴:艶やかな琥珀色、強い苦味と深いコクが特徴。厳選されたアロマホップ「カスケード」を用いた柑橘系のアロマが香ります。

よなよなエール

(出典:http://yonasato.com/ec/product/ 出典元 以後同様)

■インドの青鬼
タイプ:IPA(インディア・ペールエール)
特徴:ホップの苦味と深いコクが特徴。IPAとは18世紀にヨーロッパからインドへと輸出されていたビールに多くみられた製法で、長い輸送により、腐ったり酸味が出るのを防ぐために輸送途中でホップを追加したことで苦味が強くなるのが特徴です。当時、イギリスが統治を進めていたインドでは、水質が悪く、水の代わりにビールを飲んでいたことから、インドのビール輸入量が増加していました。

インドの青鬼
■東京ブラック
タイプ:黒ビール
特徴:黒ビールは苦みが強いイメージがありますが、東京ブラックは、甘みがありと飲んだ後もスッキリしているのが特徴です。

東京ブラック
■僕ビール、君ビール。
タイプ:セゾン
特徴:セゾンとは、ベルギーやフランスの農家が、夏に乾いた喉を潤すために、農閑期である冬に醸造していたビールで、酸味と苦味が特徴です。僕ビール、君ビールでは、柑橘系やトロピカルなフレーバーを加え現代的にアレンジされています。

僕ビール、君ビール。

ヤッホーのビールは、味だけではなく、コンセプトやネーミング、パッケージも大変個性的なことがわかると思います。
2012年に発売された「水曜日のネコ」も変わったネーミングですが、商品開発の進め方は次のようなものでした。

水曜日のネコの開発

水曜日のネコ
女性向けの新商品として、当時女性を中心に人気が出始めていたホワイトエールを開発することになりました。

ターゲットは都会で働く30代のスタイリッシュな女性。周囲から憧れられ、「彼女の習慣を取り入れてみたい」と思われているような人。このような人物像を設定しましたが、“そもそもこういったタイプの女性はあまりビールを飲まない”ということが調査結果でわかりました。

一方、「週の真ん中で一息入れるために、軽めのお酒を飲んでリフレッシュする人もいる」という意見も出てきたため、コンセプトの1つを「水曜日」に決めます。

次に登場するのが「ネコ」です。「ターゲットの心を動かす製品設計」として、女性がホッとするものである、ろうそくやアロマ、自然などを思い浮かべた結果、直感で現社長の井手氏が決めたそうです。他のビールメーカーも未だコンセプトにしていなかったのも決め手となりました。

このネーミングにより、実際に「デザインに一目ぼれしました」「商品名と缶のデザインにつられて飲んでみた」「水曜日に気になって買ってしまった」など多くの女性からポジティブな声があがっています。

水曜日にこのビールを手に取って、ほっと一息する人もいるように、「水曜日のネコ」は美味しさだけでなく、ライフスタイルの提案も行っているのです。

企業風土も個性的

ヤッホーの企業文化を表す言葉の一つに「知的な変わりもの」があります。

例えば、次のようなものです。

  • 楽天の「ショップ・オブ・ザ・イヤー」の授賞式で、三木谷社長もいる中、仮装をして受賞式へ参加
  • 社員がニックネームで呼び合う ex.社長の井手氏のニックネームは「てんちょ」
  • 個性的な部署名 ex.広報は「よなよなエール広め隊」人事・総務は「ヤッホー盛り上げ隊」など

こうしたエンターテイメント性あふれる個性は、メールマガジンにも現れていて「驚異の300万引き!」という企画や、普段の会社の面白話など、「顔が見える=お客様が身近に感じる」内容で配信しています。

また「知的な変わりもの」とは会社の個性であり、ターゲットとする顧客を表す言葉でもあります。

クラフトビールシェアNO.1「ヤッホーブルーイング」のブランディング術 〜社員もファンもチームの一員へ〜【後編】

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