まず、顧客のブランド連想を簡易ではありますが可視化してみますと、下記のようになりました。
そしてマクドナルドの場合は、下記のように顧客が連想していきます。
顧客にとって、マクドナルドは国際的な企業であり、商品の選択数 も多くあるため、安価なものから高価なものまで、複数の選択が可能です。
なおかつ、老舗のハンバーガーチェーンということで安心感もありますし、味についてもある程度は想像がつきやすいため、顧客の期待を裏切る可能性も低くなります。
また、店舗数も多いために顧客との接点も多く、商品提供スピードも早いため、商品購入のハードルが低いという利点もあります。
そして国際的な原材料 調達網があるためコストパフォーマンスの良い商品が揃っており、安価でも満足感を得られる可能性が高いことでしょう。
その結果、購買対象としてマクドナルドが選ばれたということです。
複数のプラスイメージを顧客にもたらすことで顧客訴求を図り、顧客にとって競合他社ではなく、マクドナルドが選ばれる理由をきちんと提示できていることが、マクドナルドの強みであると言えるでしょう。
では、モスバーガーの場合はどのような顧客連想になるでしょうか。
マクドナルドと同様の方法で考えてみます。
モスバーガーは、商品単価としてはマクドナルドよりもだいぶ高くなります。
昔から馴染みのあるブランドであることや、商品選択数が多いというところなどは、マクドナルドと同じです。
ただし、原材料への強いこだわりや、調理に時間をかけたグルメバーガーという宣伝を行うなど、マクドナルドとのコンセプトの違いを強力に打ち出すことで、顧客選択肢 としてはマクドナルドと重複しないかたちで自社の強みをアピールできています。
そのため、マクドナルドという強力な競合企業があるものの、継続して一定のシェアを確保することができているのです。
このように、ブランド・アイデンティティは、顧客から自社が選択されるための理由を作ることになるため、非常に重要なものとなります。
今回のサントリー社のように、消費者に負のコーポレートイメージを植え付けてしまった場合には、消費者から自社のイメージをどのように持ってもらいたいかを命題として検討し、広告・宣伝にその内容を反映させなくてはなりません。
そもそも、今回のサントリー社の経営者の発言が、ここまで大きな反響を呼んでしまったのは、何故なのでしょうか。
それは、今回のサントリー社の経営者の発言が、サントリー社がこれまで培ってきた、庶民にとって長く身近な存在であるという安心感や信頼と、大きな乖離となる発言であったためでしょう。
ブランドは顧客との信頼関係の証であり、そして顧客との誠実な約束でもあります。また、顧客と積み重ねてきた歴史や経験でもあるのです。
だからこそ、ブランドは企業だけのものではなく、顧客と共に時間をかけて作り上げるものであるという視点を、ぜひとも忘れないでいただきたいと思います。
今回のサントリー社の経営者の一連の発言は、残念ながらその期待を大きく裏切るものであったため、より反発が強くなってしまったのだと考えられます。
もしかしたら、国際的な企業となるために無理を重ね、ブランド・アイデンティティと異なる企業姿勢に陥っていたのかもしれません。
そのため、今回の問題を鑑みると、サントリー社は再び庶民に寄り添うかたちでの、ブランド・アイデンティティを打ち出す必要があるのではないでしょうか。
毎年、成人式に作家の伊集院静氏の文章を用いた広告は、現在も季節の風物詩のようになっており、古くは開高健氏や山口瞳氏の傑作広告を生み出したサントリー社は、今も庶民の憧憬や暮らしと共にブランドを積み重ねてきた、寿屋時代から培ってきた創業時のDNAが備わっているはずです。
その想いを取り戻すことで、きっとサントリー社はブランド・アイデンティティを再構築することが可能となるでしょう。
今回のサントリー社の炎上事件を他山の石として、自社のブランド・アイデンティティが顧客にきちんと寄り添うことができているのか、改めて再点検してみても良いのではないでしょうか。
■武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師
経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。
現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/