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あなたにとって「レナウン」の破産は対岸の火事では無い! ~外部環境変化に無関心すぎるマーケティング担当と財務担当~

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2020年10月30日、アパレルの名門企業であるレナウンが破産することとなりました。
かつては世界最大級の売上高を誇るアパレルメーカーとして2,300億円、グループで4,000億円という売上高を計上していました。そんなレナウンは、2020年5月15日に8,700万円の決済処理ができずに、民事再生に追い込まれていました。その直前の売上高は500億円。最盛期の4分の1以下にまで落ち込んでいたことになります。

ではなぜ、名門企業であるレナウンは破産に至ってしまったのか。その理由は複数のメディアで様々に語られていますが、要因の一つとして外部環境の変化に対してマーケティング戦略を誤ったのではないかと考えることができます。そこで今回も私の「勝手な視点」でレナウンの事業が蹉跌した経緯を時代別に整理し、どこに要因があるのか検証してみたいと思います。

まずはレナウンという会社の歴史から振り返ってみようと思いますが、どうやら破産処理に伴い、既にコーポレートサイトが無くなっていました。なので今回はWikipediaを参照して進めたいと思います。

レナウン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%83%B3_(%E4%BC%81%E6%A5%AD)

レナウンは、1902年に大阪で創業しました。当時は「佐々木商会」という、衣料品販売を主体とした事業を行い、1922年に「レナウン」に企業名称を変更したと言われています。「ダーバン」という主要ブランドも、この時に誕生したようです。
1960年頃からCMを用いたイメージ戦略を開始し、これが大当たり。これ以降も様々な広告戦略で話題を呼び、レナウンはファッションの流行を牽引する先端企業として、コーポレートブランドが大きく向上しました。この時期、ブランド「アーノルドパーマー」も取扱いを開始し、こちらも大ヒットとなります。これらの一連の成功により、1990年代にレナウンは世界最大級のアパレルメーカーとして業界に君臨することとなりました。
そこで、レナウンの最盛期である1990年の外部環境とマーケティング戦略を簡易ですが整理してみます。

1990年は、日本はバブル経済の最盛期を迎えた年です。生活に余裕が出た消費者は、マスメディアの煽りもあり、流行の最先端を追いかけ、恋愛至上主義の市場を形成し、恋愛マニュアルやそれに伴うブランド品の販売が隆盛を極めます。レナウンもその時代の空気をうまく掴み、次々と販売を拡大させていきました。当時は百貨店で服を買うことがステータスであり、レナウンが得意とする高級衣料品が飛ぶように売れる主要市場となっていました。そのため、CMで消費者にアピールし、集客ができる百貨店で商品を販売し、収益を更にブランドに投資して販売を拡大するというビジネスモデルがきちんと稼働している状態でした。

しかし、その後バブル経済が崩壊し、日本は長期的な不況に突入していきます。様々な紆余曲折があり、30年後の2020年では状況が変化していますので簡易的に整理してみました。

アパレル業界では、バブル崩壊に伴う長期的な不況とファストファッションの流行やSPA業態の台頭により、百貨店流通を主体とする販売戦略が不振を極め、レナウンにとっては追い打ちをかけて業績下降となります。深刻な業績不振に陥ったレナウンは、「アクアスキュータム」の買収などで挽回を図りますが、2010年には中国の繊維会社である山東如意科技集団の傘下に入るというところまで業績が落ち込みました。

この様な背景を基に、PEST分析で見ても分かるように外部環境が完全に変わっているにもかかわらず、レナウンのマーケティング戦略は1990年からあまり大きな変化がないことがわかります。3C分析を見て、競合が多様化するなか、経営の意思決定権限がないこともあり、対抗策を失っているような状況もうかがえます。また、4P分析を見て、1990年と2020年で大きな差がありません。特に流通政策では、百貨店での販売戦略に頼ってきたこともあり、本来、多様性に適合するために自主的なマーケティング戦略を捻出することに取り組まなくてはならない状態ですが、3C分析でもあるように経営の意思決定権限がなく、社内資源が不足しているために、機動的に何らかの施策を行うことすら難しい状況が推測できました。
また、スポンサーとなった繊維会社である中国企業も様々なテコ入れ図りましたが、不慣れなブランド戦略や米中貿易戦争が重なり、レナウンは慢性的な赤字体質を改善することはできず、その結果、毎年リストラと資産売却で経営を維持するだけで精一杯の状態になってしまいます。
これらの一連の流れを考えると、レナウンは外部環境への考察と対応が遅れたことで、自主的なマーケティング戦略における機動的流通政策を打ち出せなかったことが経営破綻の遠因となったのではないかと推測できます。

この様に、意思決定権を失うことで機動力を損ね、帳簿上の経営成果にこだわり場当たり的な資産売却や人件費削減による収益確保を行った結果、経営体質の改善を図り本業での業績回復させる目的が、そもそもの事業継続自体が難しい結果となったことが推測できます。最終的には、今回のコロナ禍による百貨店の営業休止がトドメを刺すこととなり、民事再生法適用を用いて倒産するという選択をし、新たなスポンサーの下で経営再建を模索することとなりました。しかし、相次ぐリストラで既に疲弊していたレナウン社には、もはや目ぼしい資産が残っておらず、民事再生法申請後もスポンサー企業を見つけることができず、最終的には破産という最悪の結果を招く不幸なシナリオに至りました。

今回の世界的な感染症問題により、外部環境への変化に対応が難しい企業は、軒並み業績を悪化させています。外部環境の変化については、マーケティング担当者や現場レベルでは理解できていることが、経営側には伝わっていないことが大いにありえます。更に、特に注意してもらいたいのは、企業の財務部門が外部環境の変化に対して、あまり関心を持っていない場合です。
今回の感染症問題の初頭に、皆様の所属企業の財務部門は借入与信枠の拡大や自社の財務戦略の再検討を早急に実施し金融機関との交渉を迅速に進めるなど、資金調達対策を行うことができていたでしょうか。今回のような外部環境の変化に対してマーケティング戦略の軌道修正を行う場合、経営や財務部門との調整が必要になるかと思いますが、そもそも皆様の会社の財務部門は、外部環境についての興味や関心を持ち合わせていますか。ない場合、各種の対策が遅れ、レナウンのような死活問題になる恐れがあります。

アフターコロナのマーケティング担当者は、外部環境の変化に対して財務部門や経営側に働きかける役目も担う必要があります。今回のレナウンの破綻という悲劇を参照事例として、マーケティング担当者は外部環境の変化に対して敏感になり、企業全体を牽引していく経営的視座を併せ持っていただければと思い記事にしました。

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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