Case Study

「+J」に見るユニクロブランドの成長

投稿日:2021年1月20日 更新日:

かつてユニクロとファッションデザイナーのジル・サンダー氏がパートナーシップを結んで立ち上げた「+J」が、2020年秋冬モデルを発表し、復活しました。

ユニクロ +Jコレクション
https://www.uniqlo.com/jp/ja/spl/collaboration/plusj/women/

(ユニクロ +J ホームページ)

初めてパートナーシップを結んだのは2009年。そして、2011年秋冬モデル以来の新作発表ということもあり、純粋な「+J」は約9年振りの活動再開です。(2014年9月のリバイバルとしての限定復活を含めて考えると、約6年振りの復活ということになります)

その約9年の間に、ファッション業界も大きく変わり、ユニクロ自体にも様々な変化がありました。2000年代初頭から全盛を誇っていたファストファッション業界も二極化し、2019年9月29日、一世を風靡したForever 21が米連邦倒産法第11条の適用を申請して経営破綻。また、業界全体が世界中に広がる環境問題に直面し、季節ごとの使い捨て消費による、短期志向の商品展開を軸としていたファストファッション業界は、既存のビジネスモデルからの脱却も含めた戦略再考を社会からは迫られています。ユニクロは、このファストファッション激動の時代を乗り越え、現在ではグローバルカンパニーに成長。ファストファッション企業から脱却し、アパレルブランドメーカーとして世界に君臨するまでに成長を遂げた日本を代表するアパレルブランドです。

では、ユニクロは「+J」を立ち上げた2009年から復活を成し遂げた2020年に至る、この激動の期間に、どのような試みを行い現在のような有力ブランド企業の立ち位置まで上り詰めることができたのか。ブランドポジションの変遷を検証してみます。

まずは、2009年時点のユニクロを振り返ってみます。ユニクロは当時世界展開を本格化させ始めており、東南アジア諸国だけでなく、ヨーロッパやロシアなどの海外店舗を次々にオープンさせていきました。2007年に発売して大ヒットとなったヒートテックについても、海外での販売展開を拡大させ、グローバル市場に打って出る勢いを強めています。
この海外展開にあたり、まず実行しておかなくてはならなかったこととして、ブランドポジションの移行戦略があったかと思われます。図にすると下記のように整理できます。

前提として、世界展開を本格化させるためには、優れたブランドとしての評価を獲得しておかなくてはなりません。そのためには、まずは既存市場である日本において、トップブランドとしての地位を獲得しておく必要がありました。

しかし、当時の日本では、ユニクロはフリースの超大ヒットのイメージがあまりにも強く、また、その以前の商品に対する「安かろう悪かろう」というイメージも消費者の中に色濃く残っていました。フリースによる大きな成功体験はあるものの、その後の経営戦略を展開するにあたり、消費者の心底にあるブランド・イメージを変えなければならないという大きな壁も立ちはだかっていました。

一方、実際の当時のユニクロは、ヒートテックシリーズを東レと開発するなど、高機能繊維を用いた技術力の高い商品開発ができるアパレルメーカーとして既に力量を高めていたのも事実です。これまでの「安かろう悪かろう」ではなく、しっかりしたモノづくりができるブランドであることを世間に広く認識してもらい、ブランドとしての価値を世間一般に理解してもらう必要があったのです。
このブランドポジションの変革過程を、変則ではありますがアンゾフのマトリクスを使い整理すると、このようなイメージになるかと思います。

ブランド成長を試み、また、高感度アパレルメーカーとして消費者に印象付けるために様々なブランドコラボレーションを模索していきます。その中でも大成功と言える結果をもたらしたのが、2009年のジル・サンダー氏と立ち上げた「+J」でした。

当時、高級ハイセンスブランドを手掛けるデザイナーとして名高いジル・サンダー氏が、ユニクロとコラボレーションというのは、非常に大きな話題になると同時に、疑問と不安をもって迎えられました。それは、「あの安かろう悪かろう」のイメージがあるユニクロがジル・サンダー氏と組んだとしても、どのような商品を開発できるのかという疑問と不安です。
そもそも、なぜファストファッションを得意とするユニクロが、高級ブランドを得意とするジル・サンダー氏と手を組んだのか、その意味を疑問視する声すらあったほどです。

しかし、前述の通り、それまで蓄積されてきたユニクロの開発力や技術力、ジル・サンダー氏によるデザインセンスが合わさった「+J」は、結果的に日本だけでなく世界に対してもユニクロの商品力への見方を一変させることに成功しました。

その成功を収めた結果、「+J」の確立後、下記のようなマトリクスに変化したことが推測できます。

「+J」発表前のユニクロは、世間からは低価格でそれなりに良い商品を提供してくれるファストファッションのアパレルメーカーの一つという扱いでしたが、「+J」のインパクトにより、これまでの「安かろう悪かろう」すら払拭するブランドプラスへの評価へと繋がりました。
実際に、このコラボレーションはユニクロ社内における商品開発にも好影響があったようで、ユニクロ商品の品質とデザイン性が大きく向上。現在のユニクロの商品力の高さに繋がる基礎を作ったと言われています。
また、この「+J」の成功により、当時イマイチ消費者には整理がつかなかった同社が取り扱う「GU」ブランドと「ユニクロ」ブランドの識別ができるようになっていきました。

現在、ユニクロはプチプラ的な商品も扱う高品質アパレルブランドとして商品ラインを確立させ、GUではユニクロで培った商品開発力を応用した、廉価で手軽なファストファッションブランドとしてのポジションを維持しています。

このように、ユニクロの立ち位置が大きく変化した中で復活した「+J」ですが、ユニクロ商品の中でも最高峰と呼ばれる程の評価を得ているようで、商品単価が他の店内商品と比較して高価格であるにもかかわらず、発売後は売り切れが多発する事態となっています。なかでも特に評価の高いチェスターコートに関しては、定価が税別で19,900円というユニクロとしてもかなりの高価格であるにもかかわらず、転売屋による買い占めが行われてしまう程の過熱した人気となり、まさに現在のユニクロの面目躍如と言える高品質商品であり、最高峰と言える逸品ではないでしょうか。

ユニクロ +J  ウールブレンド チェスターコート(ヘリンボーン)
https://www.uniqlo.com/jp/ja/products/E432642-001/00?colorDisplayCode=69&sizeDisplayCode=005

(ユニクロ +J ホームページ)

2009年の「+J」立ち上げの時は、ジル・サンダー氏にユニクロが引っ張って貰っている関係性に見えましたが、今回の「+J」に関しては、お互いの良いところを引き出すことができる、理想的な関係性にシフトしたように見受けられます。これも、ユニクロが「+J」立ち上げ以降に地道に獲得してきた技術力と、ブランドとして価値を高めることに成功した証であると言えるでしょう。

ブランドを持続的に成長させるためには、信念をもって停滞期を乗り越え継続的にブランディングを行うことが必要です。その結果、再成長となるきっかけ(機会)が必ず来るかと思います。今回のコラムでは、比較的ブランドが生まれやすく、また淘汰もされやすいアパレル業界のなかで、ユニクロの「+J」を取り上げました。最近でこそ異業種におけるブランドコラボレーションは多く見られますが、今回のように価格面における高低差が激しい同業種のブランドコラボレーションが復活できたのも、ブランドDNAを大事にしてきたからだと思います。
ぜひ皆様も、自社のブランドを一過性で終わらせるのではなく、本質的なブランド価値を定めしっかり顧客・消費者に識別されるように磨き、育て、魅力あるように伝えてください。

 

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

 

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