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Case Study

村上春樹のマーケティング理論 ベストセラーを生む6つのセオリー

投稿日:2018年6月15日 更新日:

森30歳で作家デビュー、『ノルウェイの森』の上下巻約1000万部の大ヒットを皮切りに、69歳の現在までベストセラーを生み出しつづけている村上春樹。今回はマーケティングの見地から、村上春樹自身の読者獲得戦略を探ります。

村上式マーケティングの6つのセオリー

村上春樹は『風の歌を聴け』で作家デビュー、『ノルウェイの森』以降に書き下ろした長編小説は多くがミリオンセラーを記録し、「ハルキスト」と呼ばれる数多くの熱狂的なファンを生み出しています。
村上春樹のベストセラーの理由を考えると、出版社のマーケティングだけでなく、作者自身の読者の獲得戦略が大きく寄与していることがわかります。セオリーを6つにまとめてみました。

セオリー1 固定客(愛読者)の期待を裏切らない

村上春樹はデビュー前、ジャズ喫茶を経営していました。リピーターの客もいれば、気に食わずすぐ帰ってしまう客もいました。その中で村上は、「みんなにいい顔はできない」との結論に達します。感覚的に「10人に1人」がリピーターになってくれれば経営は成り立つと判断、しかしその1人には確実に、とことん気に入ってもらう必要があると考えました。

村上は作家になったあとも、そういう姿勢で小説を書き続けたといいます。
上位10%の顧客のロイヤルティ(忠誠心)を高め、顧客を囲い込む。ラバー(愛好者)の期待に応え、ヘイター(アンチ)におもねることはしない。これは現代マーケティング理論に通じるものがあります。

セオリー2 ブランド・アイデンティティを明確にする

村上「明確な姿勢と哲学のようなものを旗じるしとして掲げ、それを辛抱強く、雨風に耐えて維持していかなくてはならない」とも書いています。まさにブランド・アイデンティティ(ブランドの特徴や個性をはっきり提示し、共通したイメージで顧客が認識できるように働きかけること)のことを指していると思われます。

ブランド・アイデンティティによって、「村上春樹」というブランドが成立し、「ハルキスト」(村上春樹作品愛好家)が多数生まれました。

セオリー3 客(読者)を「たらしこむ」

村上はあるインタビューで、読者を「たらしこむ文体」が必要であると述べています。文学者の発言としてはショッキングな発言かもしれませんが、「民衆や社会のための小説」を掲げながら一向に読者の目線には降りたつことをしない作家や、読者不在の私小説を書きなぐる作家に比べれば、よっぽど読者に誠実ともいえるのではないでしょうか。

とにかく「オリジナリティのある商品で客を魅了する」ことは、ビジネスの世界でも重要なことです。

セオリー4 ブランド要素にコミットする


大ヒットとなった『ノルウェイの森』の上下2巻はそれぞれ赤1色と緑1色の印象的なデザインで、女性ファンを惹きつけた理由の1つともいわれていますが、このデザインに携わったのは村上春樹本人です。また「100パーセントの恋愛小説!!」というオビのキャッチコピーも村上本人が考案ました。村上は製本会社まで視察や立ち会いを行うといいます。

ブランド要素(ネーミング、キャッチコピー、色など)をデザイナー任せにしないで、きちんとコミットすることの大切さを教えてくれます。

セオリー5 飢餓感をあおる

村上春樹の近年の作品では、発売前までほとんど情報を流さず、読者に飢餓感を植え付けて、発売当日の爆発的な売上をもくろむ、いわゆる「ハングリー・マーケティング」を行っています。例えば発売当日の午前0時に書店前で発売する手法は、アップルやマイクロソフトなどと同様です。

村上本人がこのハングリー・マーケティングに携わっているかは不明ですが、村上はメディアなどにはほとんど登場しません。本人の意向とマーケティングが見事に調和したといえるでしょう。

セオリー6 客(読者)とのコミュニケーションを深める

村上はほとんど読者の前に姿を現すことはしませんが、期間限定で今までに数回、特設サイトを設け、何千もの読者のメールをすべて読み、そのうちの10分の1に返信したといいます。「特に誰かのために小説を書くことはしない」、つまりペルソナ(仮定の読者像)を設定することはありませんが、「読者の総体」を得ることにつながっていると思われます。

読者の総体を意識したうえで小説を書くことで、彼らに響く作品を書き続けることができているものと思われます。

文学にもマーケティングの手法が生きる

「文学にマーケティングの手法を用いるのは不純だ」と思われるかもしれませんし、村上がどれだけマーケティングを意識しているかはわかりません。しかし読者のいる作家、信徒のいる寺院、学生のいる大学などが、純粋な文学・宗教・研究機関だという理由で、マーケティングの理論を敬遠するのはもったいないと思います。

また一般企業にとっても、村上春樹のベストセラー戦略を応用するのは有効ではないでしょうか。

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