ブランディング応用

ファイナンスとブランド戦略指標 ファイナンス理論を用いて、企業のブランドストーリーを展開する

投稿日:2019年8月30日 更新日:

企業の業績を推し量る指標として、ファイナンスのKPIを用いる機会が増えてきています。これにより、経営者による決算発表や有価証券報告書にも、ROEやROAなどの目標となる指標を明記する企業が多くなっています。そのなかでも、近年で注目を浴びている指標がROICです。日本の主力企業では、オムロンや三菱ケミカルHD、アサヒグループHDなどで導入が開始されています。

ROICは、企業が事業活動のために投じた資本(IC)に対して、本業でどれだけの利益を出せたかを測る指標です。この指標を用いることで、企業の稼ぐ力を対外的に示し、企業価値を高めていくという考え方です。

計算式:ROIC(投下資本利益率)=NOPLAT÷投下資本(IC)
    NOPLAT=営業利益×(1-税率)
    投下資本(IC)=株主資本(純資産)+有利子負債

しかし、企業が実際に収益を上げるためには、外部からの資金調達が必要となります。そこで必要となってくる指標が、WACCです。WACCは、借入にかかる費用と株式調達にかかる費用を加重平均して算出します。つまり、企業として1円を外部調達する際に、いくらのコストがかかっているかを示す指標です。

計算式:WACC=[rE×E/(D+E)]+[rD×(1-T)×D/(D+E)]
    rE=株主資本コスト
    rD=負債コスト
    D=有利子負債の額(時価)
    E=株主資本の額(時価)
    T=実効税率

こうして、ROICとWACCを算出したあとに、ROICからWACCをマイナスすると、企業の真の投資対効果による収益実績が算出できるようになります。これこそ、企業の本当の実力であると考えられるわけです。

しかし、「企業は本当に稼ぐだけの存在でいいのか?」という疑問も、近年の投資家から市場に対する考え方として、大きくなってきています。そのようななか、「企業は社会的使命を果たす必要があり、事業継続性を図るためにも、より正しい方法で収益を上げていくべきである」という投資家の意思が反映されたものが、ESG投資という概念です。

ESG投資とは

ESG投資にはさまざまな手法がありますが、今回GPIFが採用したESG指数は、指数会社がESGの観点から設けた基準に沿って評価が高かった銘柄を組み入れる「ポジティブ・スクリーニング」を用いています。GPIFは指数会社に組入銘柄の採用基準を公開するよう要請しており、それが企業側の情報開示を促し、ひいては日本の株式市場全体の価値向上につながるような底上げ効果を期待しています。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人) ホームページ

そして、企業の社会的な立場での経済価値を指し示す指標となるのが、EVAとなります。EVAは、企業がどれだけ自らの価値を高めているかを表す指標です。その企業が作り出した経済価値を示す指標であり、日本では花王などで導入されています。

計算式:支払利息控除前税引後利益-資本コスト額
=(投下資本事業利益率-資本コスト率)×投下資本額

また、企業の成長性をアピールするためには、EBTDAという指標も利用価値があります。EBITDAは、他人資本(負債)を含めた資本(資産)に対して、どのくらいのキャッシュフローを生み出したのかを示す指標です。

計算式:税引前当期純利益+支払利息+減価償却費

これらの指標を用いると、定性的な印象をもつブランドについても、具体的な数値の裏付けをもとにした、定量的な価値を算定することが可能となります。

具体的な利用方法としては、

「既存ブランドの今期の収益について、投資対効果による収益は(ROIC)の通りとなりました。これにあたり、ブランドの投資コストは(WACC)のようになります。この結果、ブランドによる社会的経済価値は(EVA)のような効果を生み出しています。また、ブランドの成長性については(EBITDA)の推移となっており、今後の更なる成長が期待されます。」
といった説明の仕方ができるようになり、感性的なブランドストーリーではなく、数値を用いた説得力のあるブランドストーリーの説明が可能となります。

ファイナンスは専門用語が多く、英語を基にした略語が多いため、一見ではとっつきにくい概念です。しかし、難しい計算は特に必要ではなく、汎用的な加減乗除の知識で十分対応が可能です。慣れるまでは大変かもしれませんが、とても便利で利用価値があるものですので、苦労して組み立てた各種戦略を補強するためにも、是非とも戦略的に導入してみてはいかがでしょうか。

 

武川 憲(たけかわ けん)執筆
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 シニアコンサルタント・認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。
https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

 

-ブランディング応用

関連記事

毀損したブランドは、甦ることができるのか 大塚家具のお家騒動に見る、傾向と対策

日本中を巻き込んだ大塚家具のお家騒動は、大塚家具の経営不振により、新たな展開を迎えることとなりました。 大塚家具社長、実父と和解へ=経営権争奪から4年ぶり再会-新団体で協力 https://www.j …

MBAホルダーとコンサルタントの思考法と問題解決手法の違い これらを有効に機能させるために必要な見極めは

業績が堅調な各企業において、新規事業の立ち上げや業務改革に伴うコンサルティング会社の利用機会が増加し、コンサルティング会社の業績も好調となっています。 【業界研究】コンサルティング業界の現状・動向・課 …

採用ブランディングのターゲット設定と3C分析

採用ブランディングについて その2 まずは採用ターゲットを明確に 採用ブランディングにおける重要な第一歩は「自社に必要な人材を明確に絞ること」です。人材を確保したいと願いながら、ターゲットを絞ってしま …

【ブランディング事例】飽和状態の市場に新しい価値を生み出したブランディング術~味の素株式会社

うまみ調味料「味の素」で知られる味の素株式会社は、世界130カ国の国と地域で展開する大手食品メーカーです。商品ラインナップは調味料から加工食品、飲料まで幅広く展開しています。 この味の素がドレッシング …

【ブランディング事例】世界観の徹底で、ポップコーンに「情緒的価値」を付加させたポップコーンパパ【後編】

前回のコラムではポップコーン専門店「ポップコーンパパ」を経営する株式会社Dreams(大阪府)が、どのようにしてブランド・アイデンティティを確立していったかを紹介しました。 今回は、ブランド・アイデン …

ファイブフォース分析とは!?〜マクドナルドを例に解説〜
ファイブフォース分析とは!?〜マクドナルドを例に解説〜
2月 9, 2018 に投稿された
【誰にでもわかる!?】スターバックスから学ぶ3C分析
【誰にでもわかる!?】スターバックスから学ぶ3C分析
2月 15, 2016 に投稿された
「オンデーズ」はメガネ業界のZARAとなるか? 〜JINSとは一線を画すファッション路線〜
「オンデーズ」はメガネ業界のZARAとなるか? 〜JINSとは一線を画すファッション路線〜
5月 23, 2018 に投稿された
ブランディングとは? 「基本的な意味と進め方」について解説!
ブランディングとは? 「基本的な意味と進め方」について解説!
5月 16, 2018 に投稿された
CI、VI、BIの違いとは?
CI、VI、BIの違いとは?
4月 25, 2018 に投稿された
サービスの質も向上! 従業員が自ら動くようになる「インターナルブランディング」とは?
「ブランドM&Aはなぜ起るのか」など、記事一覧はこちら
中央大学ビジネススクール教授 田中洋
【特別寄稿】ブランド力を最大限に引き出す!世界観のあるブランドが持つ強みとは?
ブランド力を最大限に引き出す!世界観のあるブランドが持つ強みとは?

株式会社JOYWOW代表取締役会長
阪本啓一

【特別寄稿】企業に求められる「情緒的価値」とは?
今企業に求められる「情緒的価値」とは?
株式会社イズアソシエイツ代表 岩本俊幸