Case Study

デニーズが空間利用サービスを軸にリブランド戦略を図る  ~ファミリーレストランがテレワーク専用スペースへと変貌!?~

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世界中に感染症問題が蔓延して以降、ファミリーレストランを含めた飲食関連企業の業績は軒並み悪化し、閉店や倒産が続出しています。

すかいらーくHD 再上場後、初の最終赤字=コロナ影響重く


ファミリーレストラン「ガスト」、「バーミヤン」などを運営する(株)すかいらーくホールディングス(TSR企業コード:298648857、武蔵野市、東証1部)は2月12
日、2020年12月期(連結、国際会計基準)の最終利益が172億1400万円(前年94億8700万円の黒字)だった発表した。新型コロナ感染防止に伴うテレワークの浸透や時短営業が響き、2014年10月の再上場後、初めて純利益が赤字に転落した。

2020年12月期の連結業績は、売上高が2884億3400万円(前期比23.2%減)、営業利益230億3100万円の赤字(前期205億6200万円の黒字)、当期純利益172億1400万円の赤字(同94億8700万円の黒字)だった。

テレワークへの取り組みが進む都心エリアや外出自粛の影響を受ける観光地での落ち込みが大きかった。デリバリーやテイクアウトは慎重したが、賄いきれなかった。新規出店や店舗改装の凍結、人件費削減などキャッシュアウトを抑制する対策を実施している。

(ヤフーニュース 東京商工リサーチ配信記事)
 https://news.yahoo.co.jp/articles/25b8dc9d0a4e0bc21c5897b8c47ade4b3cca3ea4

 

改めて、ファミリーレストランに限らず飲食関連企業が苦境に立たされている原因としては、感染症問題による営業時間短縮や感染防止対策による追加負担投資などがありますが、政府によるテレワークの推奨によって、利用者が減少していることも影響が大きいことは事実ではないでしょうか。

しかし、これは飲食業、特にファミリーレストランにおいて、マーケティング戦略のパラダイムシフトとなりうる好機であることを思わせるニュースを目にしました。それは、ブランドが保有するコアコンピタンスの変革とも言える内容でした。それは皆さんもよくご存じのファミリーレストラン大手のデニーズが取組む施策で、店舗をテレワーク専用スペースとして活用する実証実験の開始です。

デニーズ/客席の一区画をテレワーク専用スペースとして提供する実証実験


セブン&アイ・フードシステムズは2月8日、東京都内の「デニーズ錦糸町駅前店」で平日14時から18時の間、客席の一区画をテレワーク専用のスペースとして提供す
るサービスの実証実験を開始した。9日から、「デニーズ浅草雷門店」でも行う。

(中略)

両店舗とも駅出口から徒歩3分程度と利便性の高い店舗となっている。ドリンクバーを利用しながら、また、食事も追加での注文ができ、遅めのランチや、スイーツなどを楽しみながら、快適な空間でリフレッシュしながらテレワークができるという。

(流通ニュース ホームページ)
 https://www.ryutsuu.biz/store/n020843.html

 

ここで、デニーズが想定しているターゲットは、恐らく単にテレワークをしたい人というより、自宅のテレワーク環境が整っていない人やファミリーレストランやカフェなどでは気兼ねし、仕事をしづらいという人を想定しているのではないかと推測できます。

特に日本の場合は住宅環境での問題があり、急なかたちでテレワークが導入されたことで、そもそもテレワークが行えないような住居(通信環境が良くないなど)に住んでいる場合も考えられます。したがって、テレワークが行いにくい状況に陥っている人たちも複数存在していることが推測できます。

今回、デニーズによるテレワークに向けた空間を提供する新サービスは、自社保有資産(店舗)を用いてターゲットの抱える課題を解消しています。

ここでは、飲食の提供という当たり前の価値概念を少し変え、空間利用に比重を置いて顧客を集客し、売上や収益の向上に繋げようという試みです。自社の強みとなる保有資産「店舗」を活用するという点では、経済効率性を考慮すると正しい論理であることが言えるのではないでしょうか。

 

ところで、この空間利用における新サービスの仕組みの背景には、テレワーク・テクノロジーズが提供するサービス「テレスぺ」があります。
テレスペは、LINEで友だち追加するだけで電源とWi-Fi付きのリアルタイムな空席が表示され、すぐにテレワークを利用できるサービスです。事前にクレジットカードの登録(月会費100円)を行って個人で利用する方法と、法人登録を行って社内全員の利用分をまとめて請求書払いにして利用する方法があります。
ファミリーレストランでは、デニーズが初めての活用。これまでの食事や喫茶需要に、テレワーク需要が供給できる空間として付加価値を高めています。

 


 

ここで、改めてブランドが保有するコアコンピタンスを簡易ではありますが分析し、どのような新市場で優位性を獲得していくかその変化を表にまとめてみました。因みに、コアコンピタンスを分析する際には、下記を注意して行いましょう。

①広範かつ多様な市場に参入する可能性をもたらすものでなければならない
②最終商品が顧客にもたらす価値に貢献するものでなければならない
③ライバルには模倣するのが難しいものでなければならない

まずは、現況のファミリーレストランのコアコンピタンスについて、
下記のように表にしました。

 

複数の業態があるファミリーレストランでは、和食・中華・洋食ごとに、カテゴリーやブランドを分けて展開することが普通です。
実際に、牛丼の「すき家」で有名なゼンショーでは、寿司は「はま寿司」、イタリアンは「ジョリーパスタ」、ファミリーレストランは「ココス」ブランドを用いて店舗展開しています。

飲食関連業界は競合企業が多い分、差別化や独自性に注力をすることが定石。
季節限定品やオリジナルレシピ、定期的な商品改良など、顧客がそこでしか味わえない体験を生み出すために、日々の商品開発を行ってます。
最近では、新商品をプロの料理人に評価してもらうテレビ番組も高い視聴率を得ているようです。

 

これが、デニーズの新ブランドとなるテレワーク用空間提供サービスでは、下記のように変化します。

 

新サービスブランドにおいて、最も重要なのが設備と内外装です。
それは、テレワークを行うにあたり、快適な空間が重要な提供価値になるからです。そのため、事業形態に関係なく、仕事がしやすいようにWi-fiなどのデジタル機器を整備し、長時間作業をしても疲労が少ないような椅子や机なども用意しなくてはなりません。

更に、顧客を誘引するためには、そもそも作業スペースとして店舗の利用を促すような動機づけをするマーケティング施策を展開する必要があります。

 

 

簡易分析表でもご想像いただけますが、これまでの飲食関連業界、特にファミリーレストランでは「飲食」が本質的なコアコンピタンスです。
しかし、新サービスでは「空間」へと変化しています。
これまでは飲食を提供するための一時的な場所でしかなかった店舗が、快適な時間を過ごすためのリラックスできる空間として役割が変化する(消費価値の概念が変わる)ことになるので、そのブランド提供価値をしっかり識別できるように伝えていく必要があります。

元々、スターバックスコーヒーなどのカフェでは、顧客の一定数はこのようなかたちで空間利用をするのが当たり前と考えており、飲食のみがメインという顧客は、ファミリーレストランのような飲食店に行きます。
今回記事として取り上げましたファミリーレストランでも、一部ではカフェメニューを増やして対抗策を打っていましたが、元々飲食がメインであるがゆえに快適な空間というものについて、そこまで注力しているとは言えなかったでしょう。

 

しかしそれが、今回の感染症問題がきっかけで、本格的な店舗改革に乗り出さざるを得ない状況に追い込まれ、カフェのコアコンピタンスである「空間」について自社のコアコンピタンスを見直し、乗り出すことになったのではないでしょうか。

このようなファミリーレストランの本格的な「空間価値」提供へのパラダイムシフトは、これまでファミリーレストランと棲み分けがされてきたカフェ業界にとっては間違いなく脅威となり、今後は安穏としていられなくなるかもしれません。

感染症問題が影響し、試行錯誤による企業努力が続いておりますが、結果としてこれまでの業界慣習や越えられなかった壁のようなものが、次々と消失していく状況が生まれています。皆様も、改めて自社ブランドにおけるコアコンピタンスは本当に現状のままで良いのか、これを機に再点検されてはどうでしょうか。

 

 


 

■武川 憲(たけかわ けん)執筆

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。
現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。

https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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