ブランド・プロミスとは、直訳すると「ブランドの約束・保証」であり、顧客に対してブランドがする約束のことです。コンプライアンスが叫ばれる昨今、企業が顧客との約束であるブランド・プロミスを破ることは、ブランド・イメージの失墜だけでなく、経営自体を脅かしかねません。今回は、成功例と失敗例からブランド・プロミスを解説します。
ブランド・プロミスとは
ブランド・マネージャー認定協会では、ブランド・プロミスを以下のように定義しています。
そのブランドが保証している(と消費者・顧客が思う)品質、機能あるいは価値。
※ブランド・プロミスはステートメントのような明示的な形をとることが多いが、
消費者・顧客が実際にブランド・プロミスとして受け取るのは、さまざまなブランド要素*からである。
「顧客との約束」であるブランド・プロミスは、「顧客にどう思われたいか」というブランド・アイデンティティを考える際に、合わせて決めておく必要があります。
*ブランド要素=ロゴやネーミングなど、ブランドを構成する最小単位のこと。
ブランド・プロミスを伝えるキャッチコピー
ブランド・プロミスは、実際に、ブランド要素の中でも、キャッチコピーから受け取っていることが多くあります。例えば、イナバ物置のCMで有名な「100人乗ってもだいじょーぶ!」というキャッチコピーから消費者は、100人乗っても問題がない耐久性、安全性をブランド・プロミスとして受けとっているのです。
株式会社日経BPコンサルティングが行っている「企業メッセージ調査2015」の「企業名想起率」を見てみると、多くの企業が、キャッチコピーから企業名を想起させているとともに、ブランド・プロミスを伝えることにも成功していると言えるでしょう。
順位 | メッセージ | 企業名 |
---|---|---|
1位 | お口の恋人 | ロッテ |
2位 | コーヒーギフトはAGF | 味の素ゼネラルフーヅ(AGF) |
3位 | あなたと、コンビに、ファミリーマート | ファミリーマート |
4位 | ココロも満タンに | コスモ石油 |
5位 | カラダにピース CALPIS | カルピス |
6位 | 新製品が安い | ケーズホールディングス |
7位 | ヒューマン・ヘルスケア | エーザイ |
8位 | FUN TO DRIVE,AGAIN. | トヨタ自動車 |
9位 | 水と生きる SUNTORY | サントリーホールディングス |
10位 | Inspire the Next | 日立製作所 |
11位 | 「うまい、やすい、はやい」 | 吉野家ホールディングス |
12位 | I’m lovin’ it | 日本マクドナルドホールディングス |
13位 | ZOOM-ZOOM(ズーム・ズーム) | マツダ |
14位 | 味ひとすじ 永谷園 | 永谷園 |
15位 | エネルギーを、ステキに。 | JX日鉱日石エネルギー |
16位 | 自然を、おいしく、楽しく。KAGOME | カゴメ |
17位 | 窓を考える会社 | YKK AP |
18位 | 自然、当然、無印 | 良品計画 |
19位 | ガ、スマート! | 東京ガス/大阪ガス |
20位 | ひとのときを、想う。JT | 日本たばこ産業(JT) |
これらの多くはジングルにもなっていて、フレーズがメロディになることで、相乗効果を生み出し、消費者に企業名を連想させています。
アップルのブランド・プロミス
ブランド・プロミスが、キャッチコピーから伝わることが多い中、特異な例と言えるのはアップルです。なぜなら、アップルは1997年のスローガン「Think different」以降、明確なミッションステートメントや経営理念などを出していません。しかし、ユーザーは「アップルらしい」品質、機能あるいは価値を受けとっています。
それは、どこからというと、アップルの場合、何よりプロダクト(製品)からと言えます。
アップルの製品といえば、
・シンプルで洗練されたデザイン
・革新的な技術
・高い信頼性
・使いやすい(iPhoneにはマニュアルがない)
などが特徴です。
このように、特徴的なプロダクトにおいてアップルは、「どう思われたいか」、「何を約束しているか」を、直接的なキャッチコピーに頼らずとも表現できているのです。
そこから、消費者は、アップルが保証しているもの=ブランド・プロミスを感じとっていると言えるでしょう。
ブランド・プロミスを破ってしまった事例
アップルの成功例とは反対に、企業やブランドとして、守らなければならない約束やルールを破った例を2つご紹介します。
マクドナルドの食の問題
クイックサービスレストランとしての最高の店舗体験の提供により、お客様にとって「お気に入りの食事の場とスタイルであり続けること」をミッションとします。
そしてQSC&V(Quality品質,Serviceサービス,Cleanliness清潔さ,Value価値)をレストラン・ビジネスの理念としそのミッションを達成します。
マクドナルドは、レストラン・ビジネスの考え方として、このように宣言していましたが、2014年の「使用期限切れ鶏肉問題」、続く2015年の「異物混入問題」を起こしてしまいます。飲食店として当然の約束である衛生管理や食の安全性に問題が発覚したことで、顧客は裏切られたと感じ、ミッションとは真逆の深刻な客離れへとつながりました。
三菱自動車の燃費データ不正問題
「環境への貢献、走る歓び、確かな安心」
三菱自動車は、「三菱自動車が目指すクルマづくり」として、上記をコンセプトに掲げていましたが、2016年4月に燃費不正が発覚。走行試験において意図的に小さい数値を申告し、カタログに記載している燃費を5〜10%水増ししていました。また、法律で定める形とは異なる方法で軽自動車の燃費テストも行っていました。
この影響により、軽自動車の販売が半減、製造していた岡山県倉敷市の水島製作所は、生産停止に陥り、全従業員の3分の1である1300人が自宅待機を命じられています。結果的に、三菱自動車は、日産から資本提供を受け、日産の傘下になることが決まりました。
このように顧客との約束を破ってしまえば、キャッチコピーも絵空事に見えてしまい、ブランド・イメージを毀損、ひいては経営にまでも影響を及ぼしてしまいます。ブランド・プロミスは一旦つくって終わりではなく、継続的にその約束を守っていかなければならないのです。