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【特別寄稿】ブランドM&Aはなぜ起るのか

 

田中先生
ブランドM&Aはなぜ起るのか

近年、日本企業による海外や国内のブランド買収の事例が目立つようになりました。2012年から2014年にかけては、飲料や食品のブランド買収が相次ぎ、人々の気を引きました。今回は、なぜブランド買収が増えているのかを考えていきます。

引き続くブランド買収劇

例えば、ミツカンホールディングスは、バスタソースブランド「ラグー」「ベルトーリ」をユニリーバから買収する動きがありました。サントリーホールディングスは、米国ビーム社を約1兆6500億円という金額で買収を行いました。ビーム社は、バーボンウイスキーの「ジムビーム」やスコッチウイスキーの「ティーチャーズ」を持っています。サントリー食品インターナショナルは、英国スポーツ飲料市場で販売シェア1位の「ルコゼード」と、果汁飲料4位の「ライビーナ」を約2,106億円で買収しました。

また、アサヒグループホールディングスは「カルピス」を味の素から約1000億円で買収しました。

2016年に入っても、シチズンホールディングスが「第二のスウォッチを目指す」として、スイスの時計メーカー買収を狙っていると日経に報じられています。(2016/2/24付)

こうしたブランド買収はかつて1980年代末から90年代はじめにかけて、欧米でもよくみられた事象でした。企業のブランド買収が近年目につくようになった理由は、なんでしょうか。

なぜブランドを買収するのか

一つ目の理由は、日本市場の成熟化です。国内市場にだけ安住していては将来の大きな成長が見込めないという見通しによるものでしょう。積極的に海外の有名ブランドを取得して、海外市場を開発し、成長することが必要なのです。

二番目の理由は、日本企業が体質改善を図り、自社が得意とする事業領域に集中しようとする姿勢にあるでしょう。上記の例のように、味の素はかつて取得したカルピスを放出して、飲料領域ではなく、自社の得意とする食品や調味料分野に集中しようとしているのです。味の素はネスレに濃厚流動食事業を売却して、ネスレは「メディエフ」ブランドを取得しました。(ダイヤモンドオンライン 2016/4/20)これも味の素の集中戦略によるものです。

三番目の理由は、世界的に大型買収が相次ぎ、有力なブランドが次々と巨大企業の傘下に入って、メガブランドが上位企業に集中しているという現実があります。つまり、買収に値するようなパワーブランドが残り少なくなった、という認識があるでしょう。

四番目の理由としては、企業の成長を自然な成長だけに任しておくのではなく、成長に必要な時間をお金で買うということが考えられます。なぜならば、企業同士の競争が激しくなり、より早いスピードで成長しなければ、競合に自社が買収されてしまう恐れが無いとは言えないからです。

五番目の理由は、企業の事業ポートフォリオの改善による収益力アップです。日本企業ではありませんが、2015年にプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社は、ヘアケア用品のウエラなど43ブランドを、米香水大手コティに125億ドル(約1兆5千億円)で売却しました。(産経ニュース 2015/7/10)

売却されるブランドには、ドルチェ&ガッバーナ、グッチなど高級ファッションブランドの香水ブランドや、化粧品のマックスファクターなどが含まれると報じられています。この理由はおそらく収益力の落ちたビューティーケア分野に見切りをつけ、より収益力の高い分野に集中するというもくろみがあるものと思われます。

ブランド買収は効果があるのか

こうしたブランド買収は、どのような成果を企業にもたらすのでしょうか。

Wilesたち(2009)は、ブランド買収がどのように株式市場から評価されるかを実証的に研究しました。ブランド買収が株主価値に寄与する、つまり株式市場からどのように評価されるかは、その買収した企業がもつ能力や状態によって影響されると考えられます。

例えば、その企業のマーケティング能力です。
つまり、より優れたマーケティング能力~より高い価値をその企業が持つ資産から生み出して提供する能力~をもった企業がブランドを買収すれば、株主はその買収を評価し、企業価値が上がると予測されるのです。分析の結果ははたしてそのとおりで、より高いマーケティング能力をもった企業ほど、普通では見られない高いリターンが観察されました。

また、より価格と品質が高いポジションのブランドを買収した場合も、やはり通常以上のリターンが得られたのです。
この結果で見る限り、マーケティングに優れた企業がブランド買収を行えば、市場は高く評価してくれ、企業の株主価値も上がると考えられます。

買収ブランドをどう育成するか

日本では海外の有名ブランドをライセンシングし、そのブランドを国内で育成してきたにも関わらず、有名ブランド側からライセンシングの契約を切られてしまい、困難に直面するというニュースも最近目につきました。

「バーバリー」や「イソジン」、ヤマザキナビスコの「オレオ」「リッツ」はこうした例です。こうした事例からはやはり自分で強いブランドを保有していることが望ましいことと考えられます。

先に挙げたブランド買収という動きは、日本企業が自分で積極的にブランドを獲得し、活用して行こうという動きとして注目されます。今後の課題は日本企業がどのようにこうした買収してきたブランドを育成できるかです。日本企業がブランド育成のノウハウをいかにして修得できるかが今後の課題になるでしょう。

■参照文献:
Wiles, M.A., Morgan, N.A., & Rego, L.L. (2009). The effect of brand acquisition and disposal on stock returns. MSI Reports, Issue one, No.09-001, 79-102.

Profile

田中洋田中 洋 Hiroshi Tanaka
中央大学大学院
戦略経営研究科教授
日本マーケティング学会副会長

 

京都大学博士(経済学)
(株)電通 マーケティング・ディレクター、法政大学経営学部教授、
コロンビア大学大学院ビジネススクール客員研究員などを経て2008年4月より現職。
消費者行動論・マーケティング戦略論・ブランド戦略論・広告論に精通し、
多くの企業でマーケティングやブランドに関する戦略アドバイザー・研修講師を勤める。
その著作・研究活動により、日本広告学会賞を三度、中央大学学術研究奨励賞、
また東京広告協会白川忍賞特別功労賞を受賞している。

http://hiroshi-tanaka.net/

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