Case Study

ザ・リッツ・カールトンに学ぶ「ブランド体験」とは

投稿日:2016年5月13日 更新日:

CS(顧客満足)評価が高いホテルとして知られているザ・リッツ・カールトン(以後リッツ・カールトン)。実際に、CSに関する調査では、2006年から10年連続で第1位を獲得しています。(「日本ホテル宿泊客満足調査」 J.D.パワー アジア・パシフィック)今回はリッツ・カールトンのサービスを通してブランド体験について解説します。

ブランド体験とは

ブランド体験とは、その言葉の通り、ブランドを体験することです。ブランドを体験すると言っても、実際にブランドの商品に触れることだけではなく、ブランドと接触する機会全てがブランド体験です。

例えば、ブランドの広告やWebサイト、電話での対応などもそれにあたります。このようにブランドが顧客と何らかの形でコンタクトをとることをブランド体験と言うのです。

ブランド体験は、ブランド要素※を考えた後に設計していきます。
※ブランド要素=ロゴやネーミングなど、ブランドを構成する最小単位のこと。

ブランド要素ができたら、そのブランド要素と顧客がどのように接点を持つのかという、ブランド体験を設計しておくことも重要です。
ターゲットが「いつ」「どこで」「どのように」ブランドと接触するのかを、あらかじめ想定したシナリオとして設計しておくのです。

(出典:同文館出版 「社員をホンキにさせるブランド構築法」)

ブランド体験といえば店舗ビジネス

顧客がブランドと接触するブランド体験の中で、最も印象に残るのは、実際のお店に行ってサービスを受けることでしょう。良くも悪くも、1回お店に行っただけで、「また来たい」「もう来ることはない」などとお店を評価することも少なくありません。このようにブランド体験と顧客満足は密接に関わっています。

次からは、CS評価が高いとされるリッツ・カールトンではどのようなブランド体験が設定されているのかを見ていきます。

リッツ・カールトンのブランド体験

リッツ・カールトン

1898年にセザール・リッツがパリで創業した「ホテル・リッツ」を起源とするリッツ・カールトン。現在のリッツ・カールトンができあがったのは、初代社長であるホルスト・シュルツィ氏がリッツ・カールトン・ホテル・カンパニーに参画してからで、日本では、1997年に大阪、2007年に東京でオープン。その後、沖縄と京都でもオープンしています。

リッツ・カールトンのブランド体験を表すものとしては、「リッツ・カールトン・ミスティーク(神秘性)」と呼ばれるものがあります。

リッツ・カールトン・ミスティーク(神秘性)

シャンパン

「夫婦がレストランで食事をしていると、シャンパンをプレゼントされ『結婚記念日、おめでとうございます』と素敵な演奏がはじまった」

「全世界、どこのリッツ・カールトンでも、部屋の温度がいつも同じ設定で、自分が好きなメーカーの水や果物が常備されていた」

こういった顧客が驚くようなことが次々と起きることをリッツ・カールトン・ミスティークと呼ぶそうです。

また、世界中どこででも、前回と同じようなサービスを受けることができるのは、従業員がプレファランス・パッド(お客様情報カード)というメモ帳に、お客との会話から得た情報を記載することで、その情報がリッツ・カールトン全体で共有されているためです。

従業員が生んだ顧客への数々の感動エピソード

他にも、従業員が生んだ顧客への数々の感動エピソードが知られています。

例えば、
「リッツ・カールトン大阪に泊まった大学教授は、ホテルの部屋に、眼鏡と東京講演で使う資料を忘れてしまった。だが、気づいたのは、既に東京駅へ向かっている新幹線の中であった。東京についたら大事な講演があるが、そこで使う資料はどう考えても間に合わない。教授からの電話を受けたリッツ・カールトンの従業員は、なんと、新幹線で追いかけて東京駅で資料を渡すことに成功した。」

普通のホテルだったら考えられない対応ですが、このような対応ができたのは、次のような従業員へのエンパワーメント(権限委譲)があったからです。

従業員へのエンパワーメント(権限委譲)

リッツ・カールトンには、以下の従業員への3つのエンパワーメント(権限委譲)があります。

1.上司の判断を仰がずに自分の判断で行動できること。
2.セクションの壁を超えて仕事を手伝うときは、自分の通常業務を離れること。
3.1日2000ドル(約20万円)までの決裁権。

さきほどのエピソードでは、3つのエンパワーメントがあったことで、新幹線の費用負担を気にすることなく、大阪から東京へ追いかけるのが顧客への対応としてベストだと、従業員が臆することなく考えて実行することができたのです。

感動エピソードを生み出すクレド

クレド

感動エピソードの裏には、エンパワーメントとともに「ゴールド・スタンダード」と呼ばれるサービス理念の存在がありました。

「クレド」、「サービスの3ステップ」、「モットー」、「サービスバリューズ」、「従業員への約束」からなるものです。

そのうちのひとつであるクレドは、ラテン語で「志」「信条」「約束」を意味し、従業員が心がけるべき企業の「信条」として、最近では定着しつつあるものです。

リッツ・カールトンのクレドにはこう書かれています。

「リッツ・カールトンはお客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することをもっとも大切な使命とこころえています。

私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだそして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパーソナル・サービスと施設を提供することをお約束します。

リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、それは感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です。」

「おもてなし」というのは、どこのサービス業でも意識されていますが、クレドにある「願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心」に驚きや感動が生まれる、リッツ・カールトンのサービスの真髄があるのかもしれません。

実際に、リッツ・カールトン大阪開業時より営業統括支配人を務めた林田正光氏はこう語っています。

「当初、私自身も感動につながるサービスとは何かを十分に理解できていなかった。しかし、スタッフとともに試行錯誤を重ねることで、声にならない顧客の要求を先読みする力”という解にたどりつくことができた。満足できるサービスレベルに達するまで、約3年が必要だった」

従業員への教育

朝礼

リッツ・カールトンでは、ゴールド・スタンダードを継続的に勉強する機会も設けています。毎朝行われるラインナップと呼ばれる15分~20分程度の朝礼では、ホテルの支配人からアルバイトまで全員が参加し、ゴールド・スタンダードの中から選んだテーマ、例えば「こころのこもったおもてなしをする」についての意見交換や業務での工夫などがディスカッションされています。

従業員との信頼関係

ゴールド・スタンダードの中の「従業員への約束」では、

「リッツ・カールトンではお客様へお約束したサービスを提供する上で紳士・淑女こそがもっとも大切な資源です。」

と表明しています。こうして企業が従業員(紳士・淑女)を信頼することで、従業員はその信頼に応えたいと最善を尽くすのです。

ブランド体験成功の理由

リッツ・カールトンのブランド体験について見てきました。従業員全員が「クレド・カード」を携帯し、共通の理念のもとに行動していること、従業員への3つのエンパワーメント(権限委譲)により、自分の判断でより良いサービスがなんなのかを考え、すぐに行動することができたのが成功している理由と言えるでしょう。

リッツ・カールトンのブランディング

ロビー

最後にリッツ・カールトンのブランディングについて少し解説します。

リッツ・カールトンがブランド体験を成功させたことは、ブランド構築にもつながりました。

ブランド構築とは、ブランド・アイデンティティというブランド独自の価値と、消費者・顧客が心の中にいただく心象(ブランド・イメージ)を一致させる活動のことを言います。

リッツ・カールトンの設計したブランド体験により、顧客は、「リッツ・カールトンのない世界は考えられない」と思い、リッツ・カールトンはそう顧客に思われるために、リッツ・カールトンたるべきサービスを継続して行うことで、ブランディングに成功しているのです。

これは収益向上にもつながっています。リッツ・カールトンのリピート率は40~50%ほどで、高いリピート率を維持しているのです。

リッツ・カールトンの成り立ちそのものがブランドづくり

ザ・リッツ・カールトン・ホテル元日本支社長の高野登氏はこう語っています。

リッツカールトンの成り立ちそのものがブランドづくりなのです。
1984年に開業したときから、リッツカールトンはホテルをつくるとは言っていません。
「リッツカールトンはブランドをつくる」としか言っていないのです。
存在そのものがブランドなのです。それをそのまま大阪でも実践したに過ぎません。

是非、ブランド体験だけでなく、そのブランディング術も参考にしてみてください。

参考

■一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会スペシャルインタビュー
「~存在そのものがブランド~リッツカールトン流ブランディングとは」
元 ザ・リッツカールトンホテル日本支社支社長 高野 登氏

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