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Case Study

「モノ」を売らずに「体験」を提供することで情緒的価値を生み出す 〜「ドヤ家電」バルミューダのトースター〜

投稿日:2016年9月7日 更新日:

バルミューダのトースター

ドヤ家電という言葉をご存知でしょうか。ドヤ家電とは、ついつい人に自慢したくなるような家電製品のこと。日経MJが発表した2016年上期ヒット商品番付にも選ばれている「ドヤ家電」。
その中でも有名なのが、バルミューダ株式会社(以後バルミューダ)のトースター「BALMUDA The Toaster」。今回は、なぜトースターが自慢できるアイテムになったのかを解説します。

ドヤ家電とは?

・油を使わずに揚げ物がつくれるノンフライヤー
フィリップス「ノンフライヤー」

フィリップス「ノンフライヤー」

・蚊取り機能のついた空気清浄機
シャープ プラズマクラスター空気清浄機『蚊取空清』

シャープ プラズマクラスター空気清浄機『蚊取空清』

・本場イタリアの高級エスプレッソマシン
デロンギ 「マグニフィカS」

デロンギ 「マグニフィカS」

・パン屋の焼きたてのように美味しく焼けるトースター
バルミューダ「BALMUDA The Toaster」

バルミューダ「BALMUDA The Toaster」

これらのように、いままでの家電にはない機能と、おしゃれなデザインが特徴です。その中でも、バルミューダのトースター「BALMUDA The Toaster」は、2万5000円と高価ではありますが、「まるでパン屋の焼きたてのパン」という美味しさが評判となり、累計販売台数が10万台を突破するヒットを記録しました。

個人的な体験から生まれたBALMUDA The Toaster

旅行者

このトースターが生まれた背景には、バルミューダ代表の寺尾氏のスペインでの体験があります。当時17歳で単身、放浪の旅へ出た寺尾氏。旅の初日に食べたパンの味に感動し、それを再現したいという思いが商品開発のきっかけとなりました。

そうした背景から、バルミューダのトースター開発は、他社とは違った独自なものになっています。
通常、マーケティングやブランディングでは、市場や競合を調査し、「顧客ニーズを満たし、かつ競合が参入できない領域」を見つけ出す3C分析を行います。
しかし、バルミューダの場合は、寺尾氏の個人的な体験を再現させたいという非常にプロダクトアウトな考え方で生まれたのです。

寺尾氏は、こう語っています。

市場調査はやっても無駄です。人間って、何が欲しいと聞かれても答えられないもの。だから調査で答えは出ません。そこで、人が本当に欲しいものを実現するのがクリエイティブの仕事です。究極のチーズトーストが食べたいですか、と聞かれたら、みんな興味を持ちますよね。単純に私自身も、世界一のトーストが食べたいと思った。その渇望をテクノロジーで実現しただけ。マーケティング調査の入ってくる隙なんてありません

考え方としては、アップル社がiPhoneを出したときと同じで、市場調査では絶対にわからなかった顧客の潜在ニーズを発見した稀有な例と言えるでしょう。

完成までのデザイン案はなんと2000種類

デザイン相談

トースターのデザインを見てみると、ボタンが2個ついているだけのシンプルなものです。
ボタンは、ひとつがモードの選択で、もうひとつは焼く時間の設定になっていて、操作も非常に簡単です。シンプルではありますが、このデザインができあがるまでには、約2000のデザイン案が出されています。
バルミューダにおいては、他の製品も同様に、部屋に置きたいか、使いやすそうか、といった点が基準となっています。これをクリアできなければ、商品にはできないという考えのため、デザイン案だけでも膨大なものになっているのです。

トースター

元々、バルミューダでは、扇風機やサーキュレーターなどを、アップル社のMacやiPhoneに影響を受けた、洗練されたデザインでつくっていました。トースターでは「とてもおいしいものは、どのようなところから出てくるべきか?」という命題のもと、曲線を意識した個性的なデザインになり、いままでのアップルを踏襲したデザインとは違った方向性を示すことができました。

モノは売らずに体験を提供する

トースト

焼きたてのパンみたいに美味しいと評判のバルミューダのトースター。その秘密はスチームにあります。5ccの水を入れ、スチームがパンを包んだ状態で焼くことで、中は水分が残った状態でもっちり、外はさくさくの状態に仕上がります。
バルミューダのトースターは、こだわりのデザインとともに、この「美味しさ」が人気の理由です。
そして、寺尾氏は、トースターを売っているのではなく、「体験」を提供していると語っています。

結局、気持ちいいと感じる、その感じるって瞬間がユーザーにベネフィットを届ける瞬間なんですよね。その後でも前でもなくて、その“瞬間”の質が高ければ高いほど、価値あるものになる。結局は体感とか体験の瞬間に向かって、つくりこんでいく。素晴らしい体験を提供できたときに、おそらく“良い製品”になるだろうし、ビジネスとして成功するんだろうなっていうのが、今の私の考え方なんですよ。

既存メーカーにはない情緒的価値

バルミューダの部屋でのイメージ

電子レンジやトースターなどが既に家庭にある時代に、直球勝負でトースターは売れません。
バルミューダは、トースターを売っているのではなく、パン屋の焼きたてのように美味しいパンを食べられるという「体験」を提供していると言います。当たり前のようでいて、既存のメーカーでは、美味しさをここまで押し出した訴求はできていませんでした。

「BALMUDA The Toaster」は、トースターの機能ではなく、美味しさという体験、そして部屋に置きたいと思わせるデザインにより、他社にはなかった情緒的価値を獲得しました。その結果、独自のポジショニングを築くことに成功したのです。

こうして、他の家電とは違い、自慢できるものとして、SNSでの投稿や、友達を自宅へ招くきっかけにもつながっていて、さらに新しい価値を付加しているのです。

今回は、バルミューダのトースター「BALMUDA The Toaster」についてご紹介しました。マーケティングはしていないと言いながらも独自のポジションをしっかりと築いており、参考になるものです。是非、自社のブランディングに役立ててみてください。

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