Case Study

経営戦略を具現化するブランドビジョンの意義  ーセブン&アイ・ホールディングスの中期経営計画を考察【後編】

投稿日:2021年9月21日 更新日:

 

 

主概要を図で整理してみましたが、セブン&アイ・ホールディングスは中期経営計画で実現していきたいことが明確であり、投資家をかなり意識した内容で、将来像を開示していることがわかります。

このことから、セブン&アイ・ホールディングスは中期経営計画を開示することにより、ステークホルダーに対して自社起点の経営の将来像に関する情報発信を行い、その結果を投げかけることに真摯に取り組んでいることが窺えます。

企業としての方向性も可視化されているため、社内外を含めたステークホルダーにとって、セブン&アイ・ホールディングスが、今後はどのような戦略や戦術を用いて企業として成長していこうとしているのかが伝わりやすくなっています。

何よりも、セブン&アイ・ホールディングスという企業が中期経営計画を作成開示し企業としての力量や将来像を示すことにより、経営理念の通り、ステークホルダーに対し誠実に応対する企業であることが証明できている点も、ステークホルダーにとっては信用できる企業であると言えるでしょう。

このように、中期経営計画は企業の信頼性を担保することができるということを考慮しても、作成するだけの価値があると言えるのではないでしょうか。

もちろん、中期経営計画の作成自体は企業に義務付けられたものではありません。企業のビジネスモデルによっては、作成自体が困難であるという場合もあることでしょう。

ただ、その場合にはコーポレート・ガバナンスやスチュワードシップコードという観点を忘れずに、ステークホルダーと向き合う姿勢を持つことが不可欠です。中期経営計画は、各企業の経営陣の能力を推し量り、なおかつステークホルダーに向き合う姿勢が試されるものでもあります。ぜひとも、取り組んでいただきたいと思います。

 

これまで、企業の経営層を中心に計画された経営戦術までのシナリオですが、大事なことを忘れてはいけません。それは、自社で働く従業者のことです。
ステークホルダーの中には企業で働く従業者も含まれます。株主ばかりに目を配り、実際に働いている従業者の目や心を忘れがちな経営戦略が多く存在します。どんなに立派な戦略があってもそれを実行するのは従業者です。企業で働く従業者は経営陣の一方的な経営企画、戦略を受け入れられるかというと、そう簡単ではありません。

企業は管理目標をたて、個人に無理やり目標を立てさせ管理する(MBO)傾向がありますが、大概念で掲げているビジョンが従業員一人ひとりちゃんと理解、共感できているとは限りません。役員は“自分事化できていない!”と愚痴を漏らしますが、そもそも従業者が咀嚼しきれていなければ、自分事化などできません。所詮会社事であり、言われたことをつつがなく行う指示待ち人間になるだけです。

 

「組織は戦略に従う」のか、それとも「戦略は組織に従う」のか企業にとっては永遠の命題になるかと思いますが、いま先の読めない時代にどんなに立派な戦略を組み立てても情報がすぐに入手できる環境下では、なかなか競争優位性は構築しにくいものです。

戦術となる現場でこそ生まれる新たな機会も無視することができないかと思います。そのためにも、一人でも多くの従業者が会社の掲げるビジョンを自分事化し、その体現を図れるような組織文化も重要であることを知っておきましょう。

この自分事化にする手法にインターナルブランディングがあります。会社の掲げるビジョンを顧客目線に置き換え、ブランドビジョンとして従業者と一緒に作り上げる手法です。組織構造が複雑で多事業部に分かれている場合などは特に有効的な手法です。

ぜひ従業者の自分事化にお悩みの企業様は、立派な戦略も大事ですが、自社で働く従業者が咀嚼しやすく自分のビジョンとも重ねられるようなブランドビジョンを作り、経営成果の達成を目指してください。

 

インターナルブランディングを学べる講座はこちら

 

 


■武川 憲(たけかわ けん)執筆

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパート認定トレーナー
株式会社イズアソシエイツ シニアコンサルタント
MBA:修士(経営管理)、経営士、特許庁・INPIT認定ブランド専門家(全国)
嘉悦大学 外部講師

経営戦略の組み立てを軸とした経営企画や新規事業開発、ビジネス・モデル開発に長年従事。国内外20強のブランド・マネジメントやライセンス事業に携わってきた。
現在、嘉悦大学大学院(ビジネス創造研究科)博士後期課程在学中で、実務家と学生2足のわらじで活躍。

https://www.is-assoc.co.jp/branding_column/

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